助言 後半 sideレルート
「言っておくが、俺が主導して、やっていた訳じゃない。
俺はその時、奴隷だったからな。寧ろ被験者体だったよ。
その近くで、馬鹿な事をやっていた連中がいたから、知っているだけだ」
「……すごく重要な情報と、聞いてはいけない様な話が聞こえてきた様な気がしますが?
良いんですか?
私に話して?」
「何故だろうな? 言いたくなった。
それくらいレルートを気に入ったのかな?
みすみす死なせたくないくらいには。
他の人には言うなよ?
他の人に言えば、俺はレルートとそれを知ってしまった人を消さないといけなくなるからな。
因みにアーレン王国の話じゃない。
アーレン王国は、オーディナリーは住めないからな。
そこは誤解するなよ?」
おいおい。他にバラしたら殺される様な話はするなよ。
と思いつつ、信ぴょう性は高そうだ。
アーレン王国の話ではないのは理解できる。
となれば、どの国かは容易に想像出来た。
キュルディス王国……。子供の頃から口酸っぱく、気をつけろ。悪い子は連れて行かれて、怖い思いをすると言い聞かせられる国。奴隷制度がまだ残っている国……。
研究者の間でも関わると破滅すると言われている恐ろしい国だ。俺の心の中にしまっておく。
俺の魔力レベルは元々3だった。それを独自に試行錯誤して今は8になってる。
俺は別に魔法使いになりたい訳ではない。
魔導線を引ける量を増やしたかっただけで、事実、レベルが一つ上がるだけで格段に引ける量は増えた。
まぁ、魔力量を上げることは、かなり辛かったので、ここ最近は、今の魔力量でも満足はしていた。
たが……フィリアの教室いっぱいに張り巡らされた魔導線を見て桁が違うなと改めて感じた。
フィリアが作り出した魔導線を再現できるなら、俺も魔法使いを目指すかな。
そう思い始めた所だったので、出鼻を挫かれた気もするが、本気で取り組む前だし、事実を知って諦めもついた。
俺だって命は惜しい。身の程は弁えている。
「わかった。
魔法使いになるのは諦める。
私は無駄に死にたくないからな。
で? 後一つは?」
今のは多分、悪い方の助言だろう。
それならもう一つは良い助言な筈だ。
気持ちを切り替える為にも、そちらに意識を集中したかった。
俺が急かすと、オルドは満足そうにしていた。
「切り替えが早い奴は嫌いじゃない。
もう一つは、レルートが、研究している量子分野についてだ。
レルートの考えは間違ってはいない。
もちろん例外もあるが、基本はその考えで、いける。
周りの反発が結構あるみたいだが自信を持て。
そうすれば、魔法使いには、なれなくても、魔道具で魔法使いの真似事はできる筈だ」
俺は、目を見開いた。
まさかオルドが他人を、しかも俺なんかを勇気付けると思わなかったからだ。
オルドの部下であるメイスは、俺から見て、とても優秀な男だったが、一度もオルドがメイスに激励を飛ばしている所は見た事がない。
淡々と次の指示をするだけで、完了した指令に対しては、労いの言葉など一切なかった。
人間は少なからず認められたい意識はあるだろうに。
よくあんな下で働けるなぁと思っていたが、メイスも淡々と職務をこなしている様に感じたので、それがデフォルトなのだろうと思っていたが……。
確かに俺の量子理論は、今までの常識を覆す事になるので、上の人達からの反発もかなりある。
俺の論文を否定する人達も多いのは事実だ。
俺がそれでも、この役職にいられるのは、師匠の取り立てと、他の論文を評価されての事だった。
まさかオルドが肯定してくれるとは思わず、ただ、素直に嬉しかった。
「……ありがとうございます。
まさかオルドが、私の研究に興味を持ってくれていたのは驚きました」
「勘違いするな。フィリアの護衛で、話が聞こえてきただけだ。別に態々、研究を覗いた訳じゃない。
以前も言ったが、この国の機密情報には興味はない」
「あ。そうでしたね。失礼しました」
俺の研究に興味を持ってくれたのかと驚いていたが、フィリアの護衛の延長か。まぁ、その方が納得が行く。
それでも俺に助言をするくらいには、オルドに認められてるのは誇らしかった。
気に食わない奴だが、能力は本物だしな。
フィリアの待つ教室が見えてきた。もう話はこれでお終いだ。
嫌いな奴だと思っていたが、少し見方が変わった様な気がした。
俺が教室の扉に手をかける前に、再度オルドが話しかけていた。
「レルートの理論に足りない物は、何だと思う?」
「さぁ? 検討もつきませんね?」
俺は扉に手をかけるのをやめて、振り向いた。
オルドは挑戦的な目で俺を見ていた。
(何だよ。コイツ。やっぱり嫌いだ)
それがわかっていたら、今苦労してないだろうと、睨んでやった。
俺の理論には、例外があり、そのせいで認められていないのだから、それを論破出来ていれば苦労してない!!
俺の反応に、目を細め、冗談でも言う様に、軽く言ってきた言葉に俺は息を呑んだ。
その言葉は、オルドから紡いだものとは思えない非理論的な答えだった。
「『想い』はすべての理論を超越するのだよ」
「は? そんな訳ないでしょう。」
「俺も、こんな感情的な理論は、甚だおかしいと思うが、この世界では、事実なのだから仕方がない」
手のひらを上にして、戯けたようにする姿は、冗談ではなさそうだった。
オルド自身も納得してないが、仕方のない理論のようだ。
「……」
「まぁ、信じる信じないは、レルートが好きにすればいい。すぐに信じられないのは当たり前だからな。
俺も相当、時間はかかったぞ?」
「……今の所、受け入れられませんが、心には、とめておきます」
「それでいい。納得しないと見えてこないものもあるからな」
理解が追いつかず固まっている俺を、オルドは横切り、教室の扉に手をかけた。
次回よりフィリア視点に戻ります。




