助言 前半 sideレルート
「……それと、今回のフィリアの魔導線だって、貴方が何かしたのでは?
確かにフィリアは後少しで、引ける感覚はありましたが、昼休憩の間に魔導線があそこまで描ける様になったのには、違和感があります。
あれもお節介な気がしますが……気になっていたフィリアの体を巡る魔力は良くなっていたのでプラマイゼロですかね?」
フィリアが、休憩中にあの量の魔導線を引けるのには違和感しかなかった。何か起こったのだと警戒してしまい、顔が怖くなってしまっていたのだろう。
フィリアがしゅんとしてしまった。
フィリアには悪い事をしてしまったと後から思ったが、心配したので許しては欲しい。フォローはした。大丈夫な筈だ。
考え事をしていたオリバーは少し驚いた顔をした後、少し不服そうに眉を寄せた。
「よく気づいたな……確かに魔力の流れを良くする様に、弁当に細工をしたのは私だが、ほんの少し手を加えただけだ。実際、魔力の流脈不良は完全には取れていない。
それとは別で、フィリアが魔導線を引けたのは本人の努力の結果だ。
それは間違えないで欲しい」
「そうでしたか。それは失礼しました。
それは訂正しますよ。フィリアは努力家ですからね。
私もそうであって欲しいと思っていたので良かったです。
他の力が働いて……と言うのはフィリアの努力に対して、とても失礼だと思うので」
俺の言葉に、オルドは満足した様だ。
つきものが取れた様に、晴れやかな笑みを浮かべていた。
珍しい。いつも冷静沈着、無表情、フィリアの事になると感情的になって威圧気味になる奴と思っていたが、穏やかな笑みを浮かべる事もあるんだなと驚いた。
「そうだな。そうしなくて良かったと思ってる。
……気をつける。少し考えさせられたよ」
「まぁ。えーっと、若造がすいませんね」
「俺とそんなに変わらないだろう?
同期という事にしといてくれよ?」
ギリギリ同じ世代かもしれないが、俺と一緒にしないで欲しいと思ってしまう。もう少し若い!……筈だ。
「……今の俺に、意見を言える奴は少ないからな。
貴重な意見だよ」
「そこまで褒められると逆に怖いです」
「生意気な奴」
オリバーは軽く笑った後、ニッと少年の様な笑みを浮かべてきた。何か悪い事を考えた顔な気がして、俺が身を引きそうになるのは、致し方ない。
「これは君の嫌いなお節介かもしれないが、先ほどの意見のお礼として、二つ程言わせて欲しい」
「なんか嫌な予感しかしないのですが……私は、利益になるものなら、お節介も受けるくらいには、世の中を渡ってきてはいますよ。助言は大歓迎です」
フィリアはまだ10代、伸び代があるので、かまいすぎないほうがいいが、俺は管理職になり、指導する立場になった。
オリバーもそうである様に、俺にも助言する人は少なくなっている。助言はありがたい。実験に手を加えると言われれば、ご遠慮願うが、ヒントは大歓迎だ。
まぁ、それを受け入れるかは別として。これくらいの頑固さと意地も持ち合わせている。
俺の返答にオルドが、ニヤリと更に笑みを深めたのは何となくムッときた。何かしら俺に嫌がらせでもするのか、そんな気がしたのだ。
「良い方と悪い方、どちらが先がいい?」
面倒な質問だ。大抵の人は、どちらかを選ぶのだろうが、俺は捻くれているから、別の返答にした。
「オルド殿の言いたい方からでいいですよ?
こう言う問いは時間の無駄なので」
「同期だろう? オルドでいい。
ははは。そう来たか」
何故か、嬉しそうにしているオルドは一体何がしたいのかと思う。本当に時間の無駄だ。後少しで教室に着く。フィリアには話を聞かせたくない。
「一つ目の助言は、もう魔力のレベル上げはするな」
「……理由は?」
私は動揺を隠す様に努めて平坦に言葉を紡いだ。
魔力のレベル上げをしているのは、誰にも言っていない。
師匠にもだ。誰もいない事を確認して秘密裏にやってきたのに何故オルドにバレた?
「まぁこれは忠告かな?
結論から言えば、オーディナリーは、意図して魔法使いになることは不可能だ」
「やってみないとわからないでしょう?」
「例外的に、元々魔法使いの素質のある者が、あるきっかけで魔法使いになることは実際にある。
ただ、見込みのない者が無理をしてレベルを上げる……もし二桁にレベルが上がれば、レルート、君は死ぬ」
「……どう言う意味だ?」
何故そんなに断定する言葉が言える。
と俺の顔に出ていたのだろう。その表情を見てオルドは困った顔をしていた。
「レベル10の魔力にレルートの体が持たないからだよ。
今でも相当無理しているだろう?
言っておくがレベル10から19は魔力量が不安定だ。その不安定さに耐えれないのは目に見えている。」
「何故言い切れる?」
俺の問いに、オルドの顔が少し強張った様に思ったが、彼は務めて平坦を装う様に、紡いだ言葉は衝撃的だった。
「……見てきたからだ。
俺は……オーディナリーが、魔法使いになる為の実験を目の当たりにした事がある」
オーディナリー(魔力レベル0から9までの人)
半端者(魔力レベル10から19までの人)
魔法使い(魔力レベル20以上の人、レベルに応じて下位、中位、高位、王位、聖位)




