カゴの中の鳥? sideレルート
昨夜も更新しています。
数ヶ月前の事を思い出しただけでも苛立つ。
俺のプライドが、オルドを研究室は入れるのを心理的に拒んでいた。
俺の返事が遅れると、オルドは怪訝な顔になる。
「前の実験でも分かっているだろうが、レルート教官の研究室はセキュリティシステム上、外からの護衛はしずらい。なので今回は一緒に入らせてもらう」
研究室にオルドを入れたところで、研究が盗まれる訳がない。それは分かっていても、嫌なモノは嫌なのだ。
それに中で護衛するという事は、俺がフィリアに何かするのではないかと思っているという裏返しなので、それも腹立たしかった。
俺が更に不快な顔をすると、
「入らせない場合はレルート殿の研究室のセキュリティを一部破壊することになりますが、よろしいかな?」
と、オルドは笑みを深めてきた。威圧感が凄い。
俺の個人研究室のセキュリティは、オルド達が破壊しなければ入れなかった防御壁の一つだ。
私に伺いを立てているだけ、譲歩しているのだろう。
お伺いを立てているだけで、決定事項と言われているのと変わらないが。
俺には、それを跳ね返す程の実力も権力も持ち合わせていない。悔しいが今回は従うしか仕方がないのだろう。
「破壊されるのは、ご遠慮します。研究室にお招きしますよ」
俺はイヤイヤ返事をした。
「俺は、レルート殿の同期で気安い仲。だから研究を手伝うという設定だ」
「はぁ。そうですか」
「バレない様に演技しろよ?」
「気安い仲なら、今の感じで良いですよね?
俺、元々愛想良くないんで」
「バレなきゃなんでも良いさ」
最終的にコイツの思い通りに動く事になり、なんとなくコイツの手のひらで転がされている気分になる。
気に食わない。
悪態をつきたくなるが、今はフィリアを待たせているので、先を急ぐ事にした。
管理室の扉に手を伸ばそうとすると、目の前にフィリアの入棟許可証と、臨時の研究室の白衣が差し出された。サイズも女性用だ。手際が良すぎるだろう。
「これで準備はいいだろう?
セキュリティゲートもパスのみで通れる様にしておいた」
出来る男とは、コイツのことを言うのだろうな。
俺が移動する間に全ての事を準備して待っていたと言うのか? 用意周到すぎるだろう?
俺は、それを強引に奪い取り、フィリアの待つ教室へと引き返した。何から何までスマートな奴。やっぱり嫌いだ。
後ろから付いてくるオルドを気にも留めずスタスタ歩く。
「そういえば、ルビーとかいうあの女は早く追い出せないのか?」
基本的に、オルドたちは、こちらに干渉して来ないが、フィリアに降りかかる受難に対しては別だ。
ルビーは、トライア地区に入って以来、何度もフィリアに言い掛かりをつけている。
それにオルドはご立腹している様だ。
オルド自身が、ルビーを排除する事を申し出ていたが、それはトライア地区側が全力で阻止した。
トライア地区は、魔道具の研究、生産都市としての機能の他に、どこにも行く当てのない難民を受け入れるという側面もあるのだ。
これは、この特区を作った総長と地区長の確固たる信念のもと設立された地区なので、基本的に住民となる難民は受け入れる姿勢なのだ。
ルビーも、元大商家の娘だったが、経営が傾き一家離散、助けを求めてこの特区へ来た。
魔道具作成は、この地区の花形職業であり、その分給与も高い。
ルビーは、地区外に住んでいる家族に仕送りをする為に稼げる仕事がしたいだけだ。
フィリアに、ちょっかいをかけるだけで、身体的被害は今の所ないし、フィリアも言い返している。
これくらいなら護衛も見守るべきだろうと、説得して今はオルドも静観してくれているが、今の感じだと長く持たなそうだなと、ため息を吐きたくなった。
「ルビーには、なるべく早く5級魔道具作成免許を取れる様に手筈はしています。本人の努力次第もありますが、1週間以内には、ここからいなくなる筈なのでもう少々お待ちください。
フィリアも、私と個人授業ですし、会う事はほぼ無いでしょう」
フィリアに言いがかりをつけるだけで、ルビーは講習も実習も真面目に受け、なかなか筋もいいと同僚の話を聞いた。
魔道具作成免許は取らせてあげたい。なので、なるべく早く講習を終える様に手筈を整えたのだ。私の答えに、オルドは納得していない様子だった。
「それでも、ルビーは昨日もフィリアに接触してきている。
次また、フィリアを傷つける様ならば容赦しない」
「あのですね。それはフィリアの為になるのですか?」
「何が言いたい」
元々不機嫌だったが、更に怒気を孕んだ声で睨まないで欲しいと思いつつも俺は、率直に意見を述べた。
「フィリアを護衛する事は、貴方の職務なので、物理的に命の危険があったり、精神的に追い詰められている場合は必要な事だと思います。
けれど、今はそこまでではない。
ああいう面倒事をフィリア自身が解決する機会を奪うのは如何なものかと思いますがね?」
「護衛は、全てから守るのが職務だ」
「本当にそうなのでしょうか?
フィリアの成長の機会を減らしている気がします。
カゴの中の鳥ですね。
フィリアをそうしたいのですか?
何のために、陰からの護衛にしたのでしょう?」
私の言葉を聞いて、オルドは押し黙ってしまった。
何かが琴線に触れたのだろうか?
考え込むオルドを見て、一泡吹かすことが出来たのではないかと少しだけ気分がスッとした。
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