治療と誓約魔道具
レルート教官は、お怒りモードであったが、それは部屋中に浮かんでいる魔導線の量から魔力枯渇を起こしかけているのでは無いかと心配されたからだ。
一度に、しかも初めての量で、これだけ体から魔力が出れば、体に負担がかかるみたいだ。確かにシュルシュルと魔力が抜けていく感じはあった。
今、ちょっと体は怠いなと思うけれど、そこまで酷く無いと思う。
「大丈夫です」と答えたら、
レルート教官に、
「馬鹿者!!」と怒られた。
教官権限で、サティカのメディカルチェックを受けると、魔力のメーターが半分程に減っていた。これはそれほど心配されなかったけれど、指先にある私自身の魔力回路が悲鳴を上げていたとのことで、更にお説教。
どうやら、成功した高揚感から、痛覚や倦怠感が麻痺していた様だ。
すぐに、レルート教官の魔道具で治療が行われた。
自分で治せそうな気はするけれど、レルート教官が既に治療道具を取り出していたことと、治療魔道具にも興味があったので、そのままお願いする事にした。
トライア地区の医療は、民間の薬草や種を利用した自然由来のものから、化学的薬品と呼ばれるポーション、魔道具の治療と幅広いらしい。
今回はレルート教官が、開発した治療用魔道具で処置された。最新機器だ。
魔道具は手のひらサイズの小さな物で、指を通すベルトに平べったいプレートが挟んであって、裏は少し光沢のある素材だった。それでギュッと指を握り込まれた。
圧迫感と何やら暖かい液体が流れる様な感覚と、治りかけの瘡蓋が張られた様な剥がしたいムズムズする感覚……くすぐったい。
思わず笑いそうになるが、真剣なレルート教官の顔を見ると、そんな気持ちは消え失せて、反省するのだった。
治療が終わると、指先のヒリヒリ感は全く無くなっていた。
丸2日は、魔導線を引くことを禁止され、誓約書まで書かされた。
そこまでしなくても……と、ちょっと思ったけれど、やり過ぎたのは確かなので反省して、誓約書に名前を書いた。
名前を書くと、ポッと紙が燃えて私の指に巻きつき、指輪の様な形に変化した。誓約書は魔道具だったみたいだ。
どうやら、私の意思だけでなく、物理的にも出来なくされたらしい。鑑定してみると魔力遮断指輪となっていた。
この指輪が外れない限り、指先から魔力を出せないのだろう。
試してみても良いけれど、レルート教官の鋭い視線に、それはやめた。
レルート教官は、再度、私のメディカルチェックをして、異常がないのを確認し、漸く安堵の笑みを浮かべたのだった。
「ごめんなさい」
私が、視線を落として小さく謝罪すると、
「もうわかった。次からは気をつける様に!
……それで……」
どうやら説教はこれで終わりらしく、次は研究者としてのレルート教官の顔が出てきた。
キラキラの少年の様な笑みで、質問攻めにあった。
色を変えたのはどう言う原理だとか、線が重なって一つの線になっているがどうやって結合したとか。根掘り葉掘り聞かれる……。
色の変えた魔導線は、魔道具に使用可能か魔導効率は実験しないと等等……。何やらブツブツ独り言の様に言い始めた。
暫くしてレルート教官の魔導線の検分が終わった様なので、私は反省して消そうとすると、目を剥いて詰め寄られ……
「どうせ消すのなら俺にくれ!」
と凄い勢いで言われた。
「えっ? えぇ、どうぞ」
レルート教官には、治療してもらったし、これくらいはいいだろうと、勢いに押されて、返事をする。
レルート教官は満面の笑みを浮かべ、魔導線を魔道具のポーチに凄い速さで収納していった。
あっという間だった。
私が呆気に取られていると、バツの悪そうなレルート教官は気まずそうにしながらも、
「まぁ、あれだ。今日はもう休め」
と、私を追い出そうとする。
レルート教官が、ポーチを無意識に大事そうに抱えている時点で、多分……いや、早く研究がしたいのは、明白だった。
時計を見れば、2時間ほど、講義の時間が残っている。
「まだ、講義の時間が残ってます」
「あ〜。君が思っている以上に、体は疲れている筈だ。
無理はするな」
「確かに少し怠い感じはしますが、講義は受けられます」
実習は流石にダメだろうが、講義は大丈夫だ。
ただでさえ遅れているのだから、少しでも巻き返したい。
魔導線に関しては妥協しないと決めたけれど、クリア出来たのだから次に進んでも良い筈だ。
私がそう言うと、レルート教官は、目を上擦らせて何処か気まずい感じの様だ。
何か隠しているのは明らかだった。




