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【完結】半端者の私がやれること〜前世を中途半端に死んでしまった為、今世では神殿に入りたい〜  作者: ルシトア
第二部 ルルーシオ王国編

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決心

 夕食準備の手伝いの後、皆で夕食を摂る。

 バネッサが橋渡しの役割をしてくれて、少しずつだが、ペティの皆と話せるようになって来ている。

 毎日食事を共にするのは、皆との距離を縮める、いいきっかけになっていた。食事って大事!


 ここ数日は食事が終われば、ささっと身支度を済ませて、就寝までひたすらテキストを読み耽っていたのに、それは無くなってしまった。

 あんなに忙しくしていたのに、急にやるとこが無くなると、何をして良いのかわからなくなる。

 なので、今日は無駄に長風呂をしている。

 ちゃぷんと風呂に浸かり、ほっこりするが、魔導線の事は頭から離れない。

 バネッサにも相談してみた。

 バネッサは目の前で魔導線を引いた後、更に何度も何度も線を引き、バネッサの顔が見えなくなるくらい魔導線を描いて、最後は考え込んだ後、申し訳なさそうに口を開いた。


「感覚でやってるから、どうやって線を引いて流れを作っているかわからないわ。

 ぴゅ〜っと出る感じ? しゅるしゅる?」


 だそうだ。その感覚が、私にはつかめていないから、何度やってもダメなのだろう。

 指先同士をくっつけて、魔力を線のように伸ばすのは、何度も練習して出来るようになった。

 一見、これで魔導線を引いてもいいのかと思うが、ダメらしい。ゴムのように伸ばすと、どうしても指に近いほうが太く、真ん中が細くなってしまうらしい。それでは、魔導線に変な抵抗と負荷がかかるので、魔道具の回路には不適当なのだ。


 けれど、数ミリでも指同士を開けて、魔導線を作ろうと思うと出来ない。

 魔力を飛ばすイメージでやると、右から左に魔力が飛んでしまい、線を描く事はないのだ。

 難しい。


 湯船の中でもやってみるが、やっぱり同じ。

 (はぁ……私って魔道具作成に向いてないのかな。)



 自身の魔力で、魔道線を引く事は、必修科目ではない。

 最悪出来なくても、魔道具作成免許5級の最終実技には、出題されないそうなので、5級の最終試験は受けれるのだそうだ。

 5級免許で就くことのできる職業も、魔導線マーカーペンを使うので、出来なくても困らないらしい。

 魔道具製作工場に就職するなら、必要ないのだ。


 ただ、今の先輩たちが、3級以上の免許を得て、研究や細かい修理をしたい時に、後から学ぶと苦労しているのを見て、魔導線ペンを使う前に、自分の魔力で線を引く練習した方が、後々困らないだろうということで、今回の実習を組み込んでいるとの事。

 それでも……出来なくても、今の試験には困らなくて、先に進んだとして、研究職になりたいと思った時、後悔するだろう。

 魔導線マーカーペンに触れる前でこれなのだから、使ってしまったらきっと一生、出来ないような気がするのだ。


 今は魔道具を学びたい。知りたい。それが1番強くて、学ぶためには、次の教室に行く事が新しい知識を得る近道だ。

 早く次の教室に行く事で、早く試験に合格して、手に職をつけて、この地区に貢献する事もできる。


 けれど、私の学びたいと言う根底にあるのは、物作りがしたい為だ。

 前世は研究職になりたかった。

 自分で仮説を立てて、実験して、レポートに纏める。

 きっと楽しいだろう。

 ……ルビーさんが言うように成果がすぐに出ることの方が少ないし、成果が出ない事で、落ち込み、鬱っぽくなる事もあるかもしれない……。私ならきっとそうなる事もあると思う。

 それでも……前世では、周りから許されなかった研究の道を、今度は目指す事が出来る。

 そして、私が道に迷ったり、落ち込んでいたら、サポートしてくれる人たちがいる。

 1人じゃない。


 それに、ラルフさんの弟子になるのなら、自分の魔力で魔導線を引く事は必須な気がした。

 初日にラルフさんと、会って以来、何故か避けられていると言うか、いつも遠くの席にいて、話が出来ていない。

 弟子になる話は、バネッサから聞いただけで、どうなるかわからないけれど……。

 『バネッサなら弟子にしてくれるって言っていたし、そうではなくても、私自身が時間がかかっても、研究免許を取れるようになればいいのだ』

 と思う反面……ラルフさんとは、何故か話をしないといけない気持ちになるのだ。

 ラルフさんは、不思議な人だ。初めて会った気がしないのだ。なんだか近くて遠い存在な気がして、モヤモヤする。

 魔道具作成免許5級が取れたら、話をしてみたいと思う。


…………。

 

 今は与えられるばかりで、申し訳ないと思い、1日も早く誰かの役に立ちたい、そうじゃなきゃいけないと焦る気持ちはあるけれど……。

 そんな私を甘やかしてくれる人がいる。

 焦らなくても、ゆっくりで良いと言ってくれる。


 前世では、誰かに甘えるのは苦手だった。

 甘えて、重荷になって、嫌がられたり嫌われるんじゃないかと怖かった……。


 前世では、最後まで甘える事ができなかった。

 だから何でも1人で頑張って抱え込んで、抱え込み過ぎてしまって……前世の私は、過労で人生を終えてしまったのではないかと今ならそう思う。

 あの時、誰かに助けてと、声をあげていたら、未来は変わっていたのかもしれない。


 ……。


 焦る気持ちは変わらない……甘える事に申し訳ない気持ちにもなるけれど……。

 魔道具研究免許を目指したい。

 それなら自分の魔力で魔導線を引くのは必須だ。


 レルート教官は、明日から魔導線マーカーペンを使用して実習を進めても良いと仰ってくれた。以前の私なら周りに迷惑をかけたくなくて、明日からは魔道線マーカーペン使用した実習をしていただろう。

 でも、今回は、自分の魔力で魔導線を引けるようになるまで、魔導線ペンは使用しない事に決めた。

 

 私の中で、何かが変わった気がした。



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