個人授業 後半
「じゃぁまずは魔力を流す所からだ。
指先一つ分空けて右から左に魔力を流す。慣れてきたら左から右にも。それを繰り返しながら、少しずつ距離をあけていってくれ」
そう言ってレルート教官は手本を見せてくれていた。
レルート教官の指先からゴールドよりもシルバーに近い輝く線がキレイに一本の線を結んでいた。
「はい。やってみます」
私は、体に渦巻いている魔力の流れの一部を右の指先に集中させる。指先に淡い青白い光が集まってきた。それを左に移すようにしようとするがうまく行かない。
集中して、多分眉間に皺がよるくらい力を入れたが左に移る気がしない。
「魔力は外に出ているから、後は流すだけだ。難しいなら、最初は指先同士をくっつけて、それからゴムを伸ばすような感じでも最初は良い」
「はい」
私は、指をくっつけてガムが伸びるようなイメージをした。
すると青白い光は指同士線を結ぶ。ただ私の魔力は安定してないのか、揺れが酷いし今にも切れそうになり……やっぱり切れた。悔しい。
出来そうで、出来ないのは、無性になんとかしたくなる。
一回でうまく行くとは思っていなかったが、練習が必要だ。
とにかく何度も何度も練習した。
◇◇◇
私は不器用な方だと思う。人の何倍も努力して漸く皆と同じ。か、更に努力して優等生を演じていただけだ。
なんでもそつなくこなす様な人物ではない。
レルート教官は、私1人と言う事もあり、付きっきりで指導してくれるが、申し訳ないくらい進んでないような気がした。ゴムのようにして線を伸ばすことは出来るが何故か魔力の流れを作れないのだ。
「申し訳ありません」
私がそう謝罪すると、
「これは、感覚でわかるものだから、感覚を掴めないと難しいのは当然だ。
一度感覚を掴めれば意識しなくても、流れる様に当たり前の動作になるからそれまでの辛抱。
諦めたり、途中で投げ出すようなら、指導を止めるが、
まだ、君はやれるだろう?
なら大丈夫だ。いつかはできる。魔導線マーカーペンに慣れてしまった奴だって、今だに練習している教官だっている。
だから心配するな。どうしても出来なければ先に進んでも良い。できない教官もいるからな。
その教官は、修正や細かい部分の魔導線は、他の研究者に依頼してる。まぁその分手間だし、自分の研究が相手に知られてしまうのは癪だが、それでも研究者になれないわけじゃない。
そんなもんだと気楽におもっておけ。
コツが掴めれば息をするように出来るようになるんだがなぁ。感覚に頼りすぎて、俺もどのように指導すれば良いかわからない。悪いな。
ただ、魔力不足には注意しないといけない。
それは大丈夫か?」
初日、知識のない奴は諦めろと言っていたレルート教官とは思えない発言に驚いた。しかも、魔力不足になっていないか心配までしてくれている。
魔道具の作成は花形であるが厳しい世界なのだろう。
レルート教官は、後悔しないようにワザと最初にキツイことを言っていたのかもしれない。本当は優しい人なのだ。ちょっと憎まれ役をかっているだけで……損な役回りだと思う。
ちゃんと出来ていないお陰か魔力は殆ど減っていない。
集中力が続く限り、何時間でも出来そうだ。
「全く問題ありません」
「少しでもおかしいと思えば言うように。
……あまり大きな声では言えないが、最近は魔力補充ポーションが開発されて、魔力を補充出来るようになった。
まだ本数が限られている為に、上層部しか出回っていないが……。まぁそういうモノもあるから無理せず言えという事だ」
「……ありがとうございます」
ポーション関係の販売は、オリバーに一任していたので、販路はどうだったのか全く知らなかったけれど、周りまわってこの様に、お目にかかれるとは思っていなかった。
意外と世界は狭いと言う人がいるが、その通りだと思う。
自分達が作り出したポーションが誰かの生活を豊かにする事はなんだかくすぐったい。
嬉しさを噛み締めつつ、レルート教官の手厚い対応に、感謝を述べたのだった。
結局、午前の授業を全て使っても線を引く事は出来なかった。
根をつめても、余計拗れるだけだと、午後からは、講義の時間になった。
レルート教官の講義はとても面白い。
あのテキストを作ったのはレルート教官なのだろう。
解説が、テキストと同じ構成だった。
午後の講義は私の興味のあった量子変化だ。
基本の原理から、変則的な原理までを実験形式で実践してくれる。
この世界の量子と呼ばれる物質の単位は、基本的には目に見えない。それをわかりやすく色をつけて説明してくれている。一つの物質が更に小さな粒子と融合して新たな物質になる為の原則は、なかなか興味深い。
変則変化にも合理的な理由があり、納得が行く。
私がどんどん食いついて、質問しまくったら(他に受講生がいないので、分からないところは、その時に質問するように予め言われていた)、レルート教官は、満足そうに更に発展させてくれた。
そうするとまた、新たな法則が見えてくる。
そういう風に、レルート教官が、予め導いてくれているのだろうが、自分で発見するのは、面白い!! 楽しい!!
そんな事をしていたらあっという間に午後の講義は終わる……。
余りにも時間が過ぎていたようで、別の教官が呼びに来ていた。
「それは、5級でやる講義ではないでしょう」
と、レルート教官の同僚と思われる人に突っ込まれていた。
どうやら5級の範疇をかなり超えていたようだ。
私は楽しかったので満足だけど。
同僚さんの気安い感じの言い方に、バツの悪そうなレルート教官の姿を見るのは、新鮮だったけれど、講義の途中からは、少年のような笑顔で講義をしてくれていたので、こちらが本来の姿なのかもしれない。
私が、質問したせいだと話したが、それに付き合う君も大変だろうと、何故か同情の目で見られた。
「そんな事はないです!! 楽しかったです!!」
と言うと、同僚さんは、一度レルート教官をみて何かしらアイコンタクトをしていたように思う。
その後、私に対して、残念な人を見る目に変わる。
『お前も変人なんだな』
そう言われたような気がした……。
いいじゃん! オタク上等!! と心の中では思うけれど、勿論そんな事は言えず……気づけば、すみませんと、謝っていた。
◇◇◇
本日もまた、急いで中央玄関まで行くのだった。
バネッサに苦笑されたのは、言うまでもない。
ごめんなさい。




