法改正 sideレルート
少し戻って、レルート視点のお話
最初、厄介事が舞い込んだと思い、憂鬱になった。
隣国であり、魔法大国でもあるアーレン王国からの重要案件の人物が、このトライア地区に来るという情報は、各所の上層部に通達された。
私も、精密の魔道具研究免許1級を持ち、魔道具作成免許5級の管理責任者として、事前に通知された1人である。
隣国の王族からの直接の依頼。厄介事を抱えた人物であるのは、皆が思った事だ。
本人は移住を希望していて、特別待遇は望まず、一般市民として暮らすという。
しかも魔道具に興味があるらしい。魔道具作成免許5級をまずは取りたいのだと言う。
隣国の王族からの依頼……そして我が地区の中核を担う魔道具に興味がある……しかも特別待遇ではなくて一般市民として……諜報員の類なのかと邪推するのは、私の性格が悪いのだろうか?
特別待遇になると、周りに人がつく為、ある意味監視にもなる。諜報員なら、やり難いだろう。だから敢えて一般市民を希望したのかと思ってしまうのは、危機管理能力があると思ってほしい。
そう思いつつも、トライア地区のツートップの2人(地区長と総長)は、何故か今回の人物を危険視していない。寧ろ丁重に扱えとおふれをだすくらいだ。
ツートップの2人は、その地位に相応しい人物であるのは、多くのものが支持しているが、今回の事は表面上は肯定していても、危機管理が出来てないのではないかと、納得できていない者が多い様に思う。
そう思っていた矢先、私の師匠から指令が出た。
私が、今回の重要人物をどうにかするようにと。
とても曖昧な指令だ。最終責任は私が取れということだろう。
正直言って私は若い頃は研究だけ出来れば、良いと思う魔道具馬鹿だった。今もその根本は変わらない。本当は魔道具だけに集中したいのだ。
今回の事も面倒としか思わない。
けれど年齢も重ね、弟子を取り、重要ポストに登用されると、そうもいかなくなる。やりたいことをやるには、それ相応の地位が必要で、上にいかないといけない。それには義務と責任も伴う。今回もその為だと諦める。
諜報員の可能性があるだけで、その人物だけをあからさまに排除しようとすると、私が非難されるのは明らかだ。その人物だけを排除するなら、確定が必要なのだ。だが今、確定要素は一つもない。怪しいだけだ。
怪しいものは、未然に排除したいのは山々だが、腹の中では同じ事を思っていても表面上は避難してくるのが上層部だ。それも面倒。仕事がやりにくくなる。
なので回りくどく正攻法で行くしかない。
まずは、5級の法改正をした。
以前の5級は最低限の魔道具の取り扱いと安全性の確保を2週間で学び、その内容の試験と実技で免許を交付して、後は現場で経験を積むというやり方だった。
それをより厳密に、細分化させて理解させ、厳しくし、現場に任せていた初期の演習も免許条件に加えた。
私にはその権限があった。多くの魔道具師にも賛同され、スピード可決成立した。
それに対して、総長や地区長は、時期が時期だけに、今回の重要人物への嫌がらせではないかと言いたげだったが、もっともらしい理由を私は述べた。後付けはいくらでもできる。
ここ20年ほどで、急激に進歩した魔道具と、その需要に追いつく為に超法規的措置で作られたのが魔道具作成免許5級だ。
最低限の基本と上からの指導下でしか魔道具作成を行なえないその免許は、指導者たちは大変だったであろうが、手当が出ていた事もあり、頑張ってくれた。
そのおかげで生産体制は整い、今や主要産業にまで上り詰めている。
が、生産体制も整った今、それ程急いで魔道具作成者を増やす利点はなくなっていた。
むしろ現場にずっと頼って負担をかけていたのだ。
現場の負担軽減と安全性の確保といえば、ツートップも何も言わなかった。
より安全に、魔道具の基礎を学びつつ、現場で行っていた指導も追加したので、正直、法改正によって2週間で講習を終えるのは至難の業だ。
以前でも、安全性に妥協はせず、受講者の半分程はドロップアウトしていたが、法改正で8割ほどに上がり、2週間で受講し終わるのは、ほんの数人、いるかいないかになった。
受講する一般市民からも非難が出たが、こちらも安全性と、現場の負担軽減、長くなった研修中は、最低限の給付金は出すと言われれば推し黙るしかなかった。
今のトライア地区は、豊かで魔道具作成免許に拘らなくても職業の選択は多くあるし、稼げるものもあるのだ。
それでも、その職業を選択するのは個人の自由だ。
最低限の生活資金も渡すのだから文句はあるまい。
8割がドロップアウトする試験。これで、重要人物がドロップアウトしても文句は出ないだろう。
これでハード面は、整った。後は相手がどんな人物か見極めるだけだ。
出来れば自らの意思でドロップアウトしてほしいと思っていた。
さて相手の方はどう出てくるだろう?
怒りを露わにするだろうか?
それとも涼しい顔?
優秀な諜報員であれば、ドロップアウトしない可能性もある。
別の対策を考えねばと、様々な対応策を考えていたが、重要人物はそのどれも違った。




