試験結果
「真面目過ぎて責任を感じすぎちゃったり、成果が出なくて罪悪感に苛まれたりしそうよねぇ。
私の助言って結構当たるのよ?
心には留めといたほうがいいわよ。
まぁ、新たな魔道具を試作するような師匠がもういるなら、その陰に隠れていれば、大丈夫かもねぇ?」
何故かちょっと嫌味な言い方で最後の言葉は言われた。
確かに成果が、でなくて落ちんだりすることはあるだろう。一理あるけれど、まずは目の前の魔道具作成免許5級だ。それは、作成免許の受験資格が得られた時に考えたら良いと思う。
的を得たような内容だけれども、今の5級の試験は関係ない。
ルビーの助言は心には留めといて、今は講習に集中したいと思う。
「そうですね。それは、魔道具作成免許3級の受験資格が貰えたら考えますよ。今は5級を取ることに集中します。」
「ふーん。あっそ。後悔しても知らないから」
憎めない人だとそう思っていたけれど、やっぱり違う?
どうしてそんなに私に魔道具作成免許を取らせたくないのだろう?
私の疑問は増えるばかりだった。
◇◇◇
試験の結果が出た。
私は20の教室に配属された。
どうやら、その教室の筆記試験又は実技に合格すれば、一つ数が下がるらしい。つまり、1の教室の試験に合格すれば、魔道具作成免許5級の受験資格が得られる事になる。
つまり20の教室に配属されたという事は、一番最初に学ぶ所からという事だ。
試験内容を省みるに、この結果は当然だったと言わざるを得ないけれど、それでもちょっと凹んだ。
20の教室は、試験の会場と同じで、私は移動なしだった。
どれくらいの人が飛び級出来たのかはわからないけれど、20の教室には多くの人が残っていて、それが普通なのだと思う。
予定時刻少し前に、レルート教官は来た。
周りをザッと見渡してため息を吐く。
「はぁ。ここにいる人は魔道具作成には向かない人だと思ってください。諦めた方が時間の無駄にならなくてすみますよ」
最初の一言からとても辛辣だ。
生徒達のすこしピリピリした険悪な感じが場を作り出していてとても居心地はよくなかった。
レルート教官は、全体を見渡した後、もう一度ため息を吐き話し出す。
「それでも受けたい人は茨の道です。相当の努力が必要だと思って下さい。
ここにいる人達は、魔道具の基礎を学ぶ以前の教養や自然の摂理、倫理観、心構えが足りない人達です。
それぞれ、足りない部分は違いますから、私が一つの講義をするのでは効率が悪いので、サティカに各々の課題を出しました。1項目毎に、テキストを読む時間と、確認試験で約1時間かかるのが目安です。
試験は95点で合格ですが、確認試験は毎回問題が違います。
私が課題を出した全ての項目の試験に合格した時点で、次に行く教室を案内します。
それでは始め!」
レルート教官はそう言った後、私達には目もくれず、椅子に座り本を読み出した。
傷を抉るような言動に、落ち込むけれど、魔道具作成免許は是が非でも取りたいため、やるしかない。
前世で諦めた物作りをするために、初日で諦める訳には行かなかった。
早速サティカに触れると、目の前にボードが現れて、項目一覧が出た。
…………。
いや、いやいや……これはちょっと……。
私の足りない項目は20個以上あった……。
午後の講義4時間、1単元1時間だと20時間必要だ。
明日から午前、午後4時間ずつでも3日かかる。
それもストレートで合格したらだ。
更に落ち込んだが、1つずつやればいつかは終わる!!
そう思い一つ目のテキストを開いた。
◇◇◇
思っていた以上に、テキストは楽しかった。
元々活字が好き、読書好きなのもあるけれど、動画もあり、知らない事柄や事象は、興味をそそる。
飽きさせない工夫もされていて、面白い。
読書オタクな私には、新しい知識は、活力であった。
新しい知識って、世界が広がると言うか楽しいよね!!
えっ? そんな風に思うのは私だけ?
まぁ、私は変わってるということで!! ふふふ。
どんどんのめり込み、時間を忘れて読書に励む。
るんるんで見ていると、いつの間にか、レルート教官が目の前にいて私を見下ろしていた。
レルート教官は、何がそんなに面白いのだと、言いたげな複雑な顔をしつつ私に話しかけた。
「テキストが気に入ったのは分かるが、もう閉館の時間だ。
帰ってくれないか?」
その言葉に周りを見渡すと誰もいなかった……。
どうやら、午後の授業時間はとっくに過ぎていたらしい。
授業後1時間は自習用に教室は開放されているが、もうその時間も5分ほど過ぎていた。
申し訳ない。
読書に耽けると時間を忘れてしまうのは、私の悪い癖だ。
前世ではそうならないように、携帯アラームをかけていたが、今世はそんなものない。自重しなければ……。
「申し訳ありません。すぐに退出します」
私は慌てて、サティカからテキストをしまい、帰る準備をした。
少し呆れたような顔だが、どこか楽しげなレルート教官はありがたい事を教えたくれた。
「別に、テキストは逃げない。
受講者以外のテキストの閲覧、使用は禁止されているが、半径2メートル以内に人がいない場所でなら受講可能だ。
それに注意してなら、テキストは開くことが出来るし、帰ってからも使用して構わない」
「本当ですか!?」
「そっ……そうだ。ただ、明日の受講もある。
……午後の11時までの閲覧制限をしておくから、それまでの間にしなさい」
「承知しました!!」
前のめりに聞いてきた私に、レルート教官は顔を引き攣らせた。
やったぁ!! ちょうどいいとろだったのよ!!
早く帰って続きを読みたいな!!
良いところで、読むのを止めると無性に続きが見たくて仕方ない。きっと悶々として寝れなかったはずだ。レルート教官の言葉は神のようだった。今はそんな心境だ!!
嬉しさを噛み締めていたら、ある事を思い出した。
あっ……マズイ。バネッサと午後の授業終了後に待ち合わせをしていた。バネッサも心配しているかもしれない。
すっかり忘れていたことに反省しつつ、急がねばと思い、レルート教官に別れの挨拶をして、足早に教室を去った。




