おせっかい
声をかけられたが目線を合わせたく無い。関わりたく無い。嫌な予感しかしない。
けれど、グレゴリーさんの指導を思い出し、なんとか目線を向ける。これは仕事。魔道具作成免許をとるためにはここにいる人達とある程度良好な関係をしておかないと実習でペアになったとしたら、やりにくくなっしまう。ペアになる実習があるかわからないけれど。
そう自分に言い聞かせて目線を上げる。
そこには思ってた通りの人がいた。
ブロンドの髪に紅色の瞳……移住初回講習で難癖をつけてきたその人だった。
「あなたも魔道具師になるつもりなの?」
「はい。そのつもりです」
前回とは少し違い明らかに、こちらを嫌悪しているようでは無いが、探るような視線を寄越してくる。
魔道具師は魔道具3級以上の免許を持っている人の総称だ。
ここに来ている以上、魔道具作成免許5級を取るつもりなのだ。職業として5級のままで良いと言う人いるだろうが、そんな人でもあわよくばと、上の級を目指すのが定石だ。
つまり、ここにいる以上殆どの人が魔道具師を目指していると言える。何が聞きたいのだろう?
「貴方には向いてないと思うわ。鈍臭そうだし」
う……。それは間違いない。
前世の時もそうだった。周りの人達よりも、やる事が遅いのは自分でも理解している。理由は心配性で確認する回数が多いのと、鈍臭いと言うのはその通りだ。
一度チェックした後、重要な事は再度チェックして、再度提出前にチェックする。これも時間がかかるし、入力等作業も遅く、確認に時間がかかっている。
一度、皆と同じように早くしようとしたが、ミスが増えて結局はもっと遅くなると言う悪循環……。
仕事に慣れて、自分なりに効率化を目指したが、それでも他の人には遠く及ばない。
それに、私は順調にいっていても、イレギュラーな事の対応が苦手だ。
私にはスピード重視でマルチタスクを熟すのは向いていないのはわかっている。
勉強が出来て、試験の結果が良くても、仕事とは違うのだ。
前世では、それに落ち込んだが、仕事は待ってくれない。
私は遅い分、残業代は請求しないで、皆と同じように仕事量はこなしていた。なので、上から文句を言われる事は無かった。
私に向いているのは、正確性を重視する仕事が向いている。同じ作業を何度もする事も苦ではない。
魔道具の作成は、正確性に、同じ作業をする事が求められる仕事だ。スピードも必要だろうが、私に向いていると思っている。実際にやってみて難しいかもしれないが、その時はその時だ。やる前から諦める必要はないし、殆ど初対面の人に言われる筋合いもない。
「確かに、鈍臭いかもしれませんが……。魔道具が好きなので、目指すのは個人の自由です」
「ふ〜ん。そう。こっちは親切で言ってあげているのに」
親切の押し売りは迷惑でしか無い。大きなお世話だ。
そう言い返したいが、小心者なので心の中に留めておく。
私が何も言わないのを良い事に勝ち誇ったような顔をした彼女の目線が私の弁当に行く……その目が大きく見開き、口がわなわなして、それを手で隠した。その手も震えている。
「そっそれは……」
「私のお弁当です」
生き別れた親に会ったかのような震える声で言われても困る。なんだか目もキラキラさせている。
多分この人は、魔道具が好きなのだろう。そこは親近感があるが、先ほどまでの態度から苦手なのは変わらない。
ちょうど弁当が温まったのかピーと小さな音が鳴りカパリと蓋が少し持ち上がる。どうやら出来上がったようだ。何となく、この人にお弁当箱を見せるのは、嫌だ。
散々人を馬鹿にした態度をとっていたのだから仕方ない。
心が狭いと思われるだろうが、元々、小心者。心が小さいので許してほしい。
「昼食をとりたいのでもう宜しいでしょうか?」
「う……」
私が態と立ち去るように促してお弁当から遠ざけようとしたためか、彼女の顔が沈痛な表情に変わった。今生の別れのような顔をしている。そこまで魔道具好きなのか?
これは、まだラルフさんの試作品だと言っていた。市場には出回っていないので、珍しいのだろう。
しかし……そんなに絶望的な表情になるのだろうか。
苦悶の表情で帰ろうとして、目線は弁当箱に、体が動かないような様子を見ていると、なんだか可哀想になってきた。
私も大人気が無かったと思い、私も出来上がりが気になっていたので弁当箱を開けようと手を伸ばす。
そうすると、彼女は目をキラキラして動きが止まる。
私はなんと無く、私は手を引っ込めた。
彼女は愕然とした顔になる。
再度、私は弁当に手を伸ばす。
食い入るように彼女の目線がいたい。
更に、私は手を引っ込めた。
彼女はショボンとする。
…………とても分かり易い人だ。




