歓迎会
つまみ食いをしながら(デールさんの食事はどれも美味だった!!)、厨房の手伝いをする。
手伝いと言っても、この食材を微塵切り、とか粘り気が出るまでお肉を混ぜてとか、比較的簡単なものばかりだ。
これでも前世は、主婦をしていたこともある。料理は一通り出来るのだ。今世でも、時々自炊もしていたので、技術はそこまで落ちていなかった。
それに、味付けや大事な部分はデールさんがしてくれる。これは安心材料だ。トライア地区にある調味料の分量の知識はない。醤油っぽいものやみりんぽいものはあるが若干違うように思う。
こっそり、デールさんの分量をよく見て心に留めた。次に同じように作れるとは思えないけれど、参考になる。
今日の献立は、何故か、前世でよく作っていた日本の家庭料理が多かったので、なんとか足を引っ張らずにすんだ。
ハンバーグや唐揚げ等、子供が好きな食べ物から、肉じゃがやわかめときゅうりの酢の物等、和食の代表的なもの、タラモサラダなどちょっと変わり種まで、凄い品数だった。
何故か私が好きな料理ばかりで驚いた。
「今日は歓迎会だからこんなに多いけど、いつもは3品から4品なのよ?
味見をしてもらった感じだと、どれも大丈夫そうね? 良かったわ。
私の中では、統一感の無い料理なんだけど、今日の献立はラルフ所長の采配で決まっているから、気になる事があればラルフ所長に言ってね?」
今日の献立はラルフさんの意見らしい。
普段は献立に意見など言わないラルフさんが、私を思って考えてくれたとの事だ。
ラルフさんと初めて会った時から既視感は会ったけれど、食べ物の好みまで、似ているらしい。
血は繋がってないって言ってたのに、なんとも不思議な感覚だった。
◇◇◇
食卓には、今日作った料理が並べられその両サイドに、2歳から成人間近な子供達が十数人程と、お世話がかりの方達が間に座っている。私はなんとも恥ずかしい所謂、お誕生日席に座っている。
みんなの視線が向く位置で、居心地はよく無いが、私のために開いてくれたものなので、なんとか踏ん張る。
心臓がバクバク言っているし、早く帰りたくなる衝動に狩られるが、ここは逃げては行けないところだ。頑張るしか無い。
一つ有難いことは、子供達は目の前に並ぶ料理に目を輝かせているため私に視線が来ない事だ。世話人の方は申し訳なさそうにしているが、歓迎の席で叱るのはよく無いのか、言っても止められないのか、軽くしか嗜めてなかった。
私もその方がありがたかったので、にこりとなんとか笑顔を作った。
みんなが席に座ると、左斜め前に座っていたバネッサが立ち上がる。何故かラルフさんは私から1番遠い隅に気配を隠して座っていた。多分この施設で1番偉い人はラルフさんなのに良いのかと思う。少し疑問に思うけれど、そんな事はお構いなしに歓迎会は始まった。
「はぁい! 注目! 私の右にいる子が、今日から新しい仲間が加わりましたフィリアよ〜!!
私の妹だから、みんな仲良くするのよ〜!」
バネッサは慣れているのか、声がよく通り子供達の注目を集め、話し始める。子供達の視線が私に向いた。私の緊張が一気に増す。私はぎこちなく立ち上がった。
「初めましてフィリアと申します。よろしくお願いします」
気の利いた挨拶も思い浮かばず、最低限の挨拶をしてぺこりと頭を下げた。子供達は多分顔を覚えるためであろう、じーっと数秒見た後、目的は終わったとばかりにサッと視線をご飯に戻す。その仕草はとても有り難かったし、とても可愛らしかった。
……前世の子供達の事が思い出されるが、今は歓迎会をしてもらっている立場なので、なんとか隅に追いやった。
「あ〜はいはい! お腹空いてたら仕方ないわ。少しずつ仲良くなるとして、早速食べちゃいましょう!!」
それを合図に、食事が始まる。子供達がいるからか、始終賑やかだった。子供達はずっと料理に夢中で私を見ていなかったのと、時々皆さんが振ってくれる話に、バネッサのフォローを受けながら、何とか答えたり、返事をしているうちに歓迎会は過ぎて行った。
歓迎会が終わり、バネッサに私の部屋へ案内してもらう。食堂は、中央玄関からすぐの場所にあり、食堂を出て、左の西側には孤児院が併設されている。反対側の右の東側には、研究棟があり、私の私室は研究棟にあるらしい。私の自室は中央玄関から比較的すぐの場所にあった。これなら覚えやすいし、食堂も近い。
自室の扉は、サティカが鍵になっていて私のサティカを登録してもらった。バネッサには、疲れているだろうと言われ、早々にお別れした。
中に入ると、寝室と応接室、トイレと簡易シャワーもついていて、とても良い部屋を用意してくれたのがわかる。
明日再度お礼を言おうと思い、空間魔法から最低限の家具を運び入れ、眠いのを堪えて、なんとかシャワーを浴びて就寝した。初めての環境で寝られないという事はなく、1日の緊張と疲れで、あっという間に就寝した。




