過去後半
「あれれ? おかしいな。ちゃんと事情を説明すれば、フィリアも納得してくれると思ったんだけど??
と・に・か・くお母様? ちょっと私らしくないから、お母さんと呼ぶわ! お母さんは悪く無いのよ?
だからお母さんの事は、恨まないでと言うか許してあげて?
悪いのはあのポンコツ親父なのよ!!
ちょっと勉強や研究は出来るかも知らないけれど、なんていうか人の機微が全くわかってないのよ!!
特に恋愛においては、からっきしなのよね?
良かれと思ってしたのだから、悪気はないんだけど……。
まぁあの人も事情があるから、仕方ないような気もするんだけど! それでも悪いのはポンコツ親父!!
あ〜支離滅裂!? わかんなくなってきた!!」
私がボロボロ泣いたせいで、バネッサがとてもオロオロしてしまっている。話す事すら辛い内容のはずなのに、明るく振る舞うバネッサは、私に気を使っているのは明らかだ。
私の方が前世を含めると大人な筈なのに……。申し訳ない気持ちになりながらも、涙腺を止める事はできなかった……。
こんな悲しい事があるだろうか?
バネッサが、親の勝手な判断で忘れ去られてしまった。
幼い心に傷を負ったに違いない。
いつも明るい太陽みたいなバネッサだけど、こんな事を抱えていたのだと思うと自分の事のように辛くなった。
思わず私はギュッとバネッサを抱きしめた。
「あれあれあれ?
ええっと?
これは慰められている感じ!?
大丈夫よ? もう20年以上前の話だし?
その当時は、腹も立ったし、ポンコツ親父を説教してやったけど、今では納得してるのよ??
まぁ、なるようにしかならないのよ!!
結構充実した人生を送っているしね? 今の生活も気に入っているのよ?」
動揺しているのか疑問系の様な話し方だが、無理して話している様には感じなかった。多分本当にバネッサの中では折り合いがついているのだろう。それでも……。私はバネッサを更に抱き締めた。私が今、何を話しても涙が溢れて伝わらないと思う。こうする事しかできなかった。
「…………。ありがとう」
バネッサは、フッと息を吐いた後、私に腕を回して、慰める様に背中をぽんぽんと優しく叩き、抱きしめ返してお礼を言う。
「うん」
私はなんとか言葉を返す。また泣き出しそうだった。
「ふふふ。こんな風に自分事の様に怒ったり悲しんだりしてくれる人がいるっていいね。
こう言うのって、やっぱり姉妹だからかな?
ふふふ。姉妹って良いな。
フィリアはどう思う?」
「私は……」
声が震える。返事をしたいものの、どう返事をするのが最良なのかわからず、言葉が紡げないでいた。
私も、前世の幼い子供達を置いて転生してしまっている。
私には、どうすることも出来なかった。それは、お母様も同じだ。
私には何もいう資格は無い……。寧ろ、私としては、前世の子供達と重なるバネッサに、前世の話をして、怒ってもらいたいと思ってしまう。けれど、怒ってもらったとしてもそれは自己満足なだけ……それに、バネッサは怒ってくれないだろう。大前提として、異世界転生なんて突拍子も無い話を、信じてもらえるだろうか?
ただの頭のおかしい人に思われるかもしれない……。バネッサと会ったのは、今日が初めて……とても話せる内容ではなかった。
「……本当にフィリア達やフィリアの両親を恨んだり、妬んだりはしてないのよ?
ただ、その……私にも兄弟が欲しかったって言うのが残念だった所なのよね。ちょーっと、色々あって、兄弟に憧れていたのよねぇ。
だから今回、フィリアと会えて私とっても嬉しいのよ?
だから、不快に思う事なんて一切ないんだから!!
こんな可愛い妹が出来て、お姉さんは幸せなのよ!
逆にフィリアが、ポンコツ親父の遺伝子を受け継いで無い方が良かったわ!
あっ……私は、受け継いでるわね……まぁ反面教師よ!!」
バネッサが私の頭を撫でる。
前世でお姉さんはいたけれど、こんな風に抱きしめられた記憶は無い。前世の姉妹仲は悪く、物心つく頃には険悪だった。なので、大人になるにつれ少しずつ距離をとっていった。最後は正月に親族で集まるくらいにしか会う事もなく疎遠だった。
これが本来の姉妹なのかと思いつつ、さっきまで考えていた自分の事は棚に上げて、私は甘える様にグリグリ顔をバネッサに寄せた。
その行動にバネッサが笑い声を上げる。
「ふふふ、フィリアに会えて良かった」
「私もです」
本来は、私が慰める筈なのにバネッサに甘えて良いのかと思う。誰かに前世の事を詰って貰いたいと思いつつ、前世の子供と重なるバネッサが、姉妹として接して欲しいならそうしようと心に決めた。




