ポンコツ親父
「わわわっ!?」
私が自己紹介すると男性は更に慌て始めた。
目上の人だし、多分この方が私の師匠になる方だろうと思い丁寧に頭を下げたつもりだったが、余計に混乱させてしまった様だ。
ガッシャーンと凄い音がする。
姿勢を戻すと、男性は何故か花瓶に頭を打ち付けて停止していた。
「あ〜これは思っていたよりも重症だわ。
フィリア、ごめんね? ちょっと時間が必要かも?」
バネッサは呆れ顔で残念な目をして男性を見ていた。
バネッサの声にガバリと顔を上げた男性は、バネッサに声をかけた後、私に向き直り、平身低頭だ。
「バネッサ!! そっそんな事は無い!!
あっ! 俺なんかに頭なんか金輪際下げてはいけない!!
謝るのは俺の方なんだ!!
申し訳ない!!」
とにかく訳もわからず謝りたおされてしまう。
「落ち着いて下さい!」
前世でも今世でもこんなに謝られた経験はない。
今の言葉は、男性に向けてだが、自分にも向けての言葉だった。
どうして良いかわからず、バネッサを見て助けを求める。
「あ〜とりあえず、応接室でゆっくり話をしましょう?」
バネッサもここまで来ると困惑を隠せなくなっていて、とりあえず男性を引き連れて行く。
その間も謝罪のオンパレードだ。
きっと複雑な事情があるのだろうが、謝るばかりで的を得なかった。
それは応接室に入っても変わらずで……。
バネッサが、男性を隣の椅子に座らせて私はテーブルを挟んで対面のソファーに座ったが、男性はテーブルにおでこをつけてずっと謝っている。
バネッサが補足も聞きながら分かったことは、男性の名前は、ラルフさんで、バネッサと私は異父姉妹で、バネッサのお父さんが目の前にいる男性という事だ。バネッサの年齢は私と5歳差だ。お兄様の年齢も考えるとバネッサが物心つく前にお母様と別れた事になる。特に重複していた期間も無いので浮気でも無い。
離縁した理由はよくわからないが、前世でも3組に1組は離婚するのだから、そこまで不思議な事でもない。
こちらの世界の離縁については、よく分からないけれど、そこまで謝られる事なのだろうか?
私は両親の下で成人まで過ごす事が出来たのだから、寧ろ謝るのならバネッサにでは無いのかと思う。
「とりあえず、頭を上げてくれませんか?
事情はよくわかりませんが、私は両親の下で十分過ぎるほど育ててもらいました。お母様が、お父様と結婚する前の事でしょうし、私がラルフさんに謝られる事は無いと思うのですが……?」
ラルフさんはまだ、頭を下げたままだ。
私は困ってバネッサを見る。バネッサは困った様な顔をしつつ、どう言うべきか迷っているようだ。
「こんなに謝られても困るわよね?
まだもう少し込み入った話があるのだけれど、今の話でも結構お腹いっぱいだと思うの。
頭では理解していても、心がついていかなかったり、後からずんと負担になる事もある。
他の事情は、追々話すとして、父さんがとりあえず反省しているのだけは、感じてくれたら嬉しいわ。謝罪を受け入れるかどうかは全てを話し終えてからで良いと思うの」
そうバネッサは言って、ラルフさんの肩を叩くとラルフさんは、消えた。多分何処かへバネッサが転移させたのだろう。
「ふ〜。私もあそこまで、変になるとは思わなかったわ。
身内贔屓だけれど、一応魔道具師としては一流だし、普段は仕事もちゃんとしてるのよ。
父さんにも時間が必要なのかも。変なもの見せてごめんなさい」
バネッサも、困惑している。
「えっと……バネッサは、私に思う事は無いのですか?」
私は思わず敬語になってしまう。
私は両親揃って、愛情深く育ててもらった。
バネッサは、片親。片親だから、劣っている事は、ないけれど、幼少期は母親がいなくて苦労した事もあるのでは無いだろうか?
母親がいない……。前世の子供達を思い出し胸が痛くなった。子供達は母親に対してどう思っていたのだろう。
前世の子供達の姿が頭を過ぎる……が、今はバネッサの事だ。
バネッサは、こんな複雑な関係を隠して、会ってから今まで大人な対応をしている。むしろとても親切だった。
それでも、私に対して何か思うことがあるのでは無いだろうか?




