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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第一章
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12話

 ソラがラヒムに嫁ぐという報せが王宮を巡るのは早かった。珍しく野次馬たちが金糸雀小屋の前に押しかけ、通達の任を受けた官は居心地が悪そうに咳払いをして王太子からの報せを読んだ。

 曰く、ラヒムをソラの夫に指名するので、年内に挙式を行うように。その後ソラの「鷹」の正式な任命式を行う。任命式の後は一月程度で近隣地域の視察を行うように、とのこと。

 事実上の結婚式と新婚旅行の許可期間の報せであった。

 その命をソラは謹んで受けたとのことだ。

「まずはおめでとう、と言っておこう」

「ありがとうございます」

 気難しい上官に呼び出されて、ラヒムは斜に構えながら祝言ほぎごとを受け取った。おめでとう、と言う割にはイーティバルの眉間の皺は深いままだ。ラヒムは上官に聞こえないように小さくため息をつく。年明けに退任する自分に一体なんの用なのか。ただ祝儀をくれるような人物とも思えないが。

「さて……これはまだ正式に公布されたことではないのだが、ビルダグ・ラヒム。君を王太子殿下の副官として再度六年の契約を結びたい。「鷹」がいざという時殿下の元へすぐさま馳せ参じるのに時間がかかるのはこちらとしては惜しい。そこで、子供を二、三人産みきるまで王都に滞在してはどうかという陛下のご配慮だ」

 予想だにしなかった話にラヒムが押し黙る。国王陛下のご配慮ということはラヒムに拒否権はない。大伯父夫婦があと六年領主の任を務めあげるのに不自由しないかは分からないが、その辺りも考えられた上の人事だろう。拒否権はなさそうだ。

「……例えばですが、三年で希望の数の子供を産みきった場合どうなりますか。俺は領地にもう一人妻を持ちたいと思っています。最低六年となると、領主の妻としてふさわしい身分の若い女性に来てもらうことが難しくなって来ると思うのですが」

「もう一人妻を、ふむ」

 イーティバルは顎に手を当てて考える仕草をした。実際考えているのかは不明だ。おそらく王の希望に沿うように幾通りも用意した道筋で、ラヒムの希望も取り入れたものを思い出しているだけだろう。

「あてはあるのか?」

 まだ十四だ。許嫁がいなければいるはずがない。ただでさえ王太子の従者に選ばれて女の子と触れ合う時間がないのだ。他の官のように恋人ができるはずもなかった。

「その様子だとないようだな。よかろう、サグエル領主に命じて自領主の妻にふさわしい身分の女性を選出しよう。選びたいというのならその旨も伝えておくが」

 ラヒムは首を振った。

 既に一人選んだ。それも、とびきり扱いの難しい女の子を。誰かが無難な妻を連れてきてくれるのならそれに越したことはない。それなりに仲良くやっていけて、途中で変な気を起こして逐電でもしなければ。

「それにしても、よく『鷹』を妻にしようと決意したな。なんでも殿下に下賜かしして欲しいと願い出たとか」

「私はイーティバル閣下がそんな話に興味をお持ちだったことが意外です」

 イーティバルが意味深に笑う。妻も子も持たないと公言している男が他人の結婚に興味があるほうが面白いというのに。

 ラヒムは青々と茂った中庭の景色に目線を反らせながら、気まずさを紛らわすように呟いた。

「……俺の領地からなら、生まれ故郷が近いでしょう」

 大伯父の家に行く度、大きな窓から聳える山を見ていた。赤い岩山は入り組んでいて、一人で遊びに行ってはいけない、人さらいが出ると幼い頃よく両親に言い聞かされていた。川も流れていて、その周りには白く小さな花が咲いているのを可愛く思ったものだ。

「母親に見せるくらいは許されると思って」

 イーティバルは長く息を吐いた。煙草を吐き出すかのように細く長く。それがラヒムには自分の心に折り合いをつけているように見えた。

「……そうか」

 それ以上彼は何も言わなかった。ただ、そこには長い間確固として抱いていた鳥人族への嫌悪はないようにラヒムには感じられた。

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