62.ログラム
「ログラム団長、砂漠の迷宮城と奇岩の迷宮城からの人員は全員揃いました。いつでも出発できます」
「前線は現在も第十層で足止めされ、先へ進めていません! 報告によれば、最近は鎌蜘蛛の襲撃頻度が増しており、懸空石道を通じた物資輸送でも多くの死傷者が出ています。後勤組と冒険者からは、こんなものは死にに行かせるような任務だと抗議が上がっています!」
「狼煙を何度も上げ、階層を飛ばした探索も繰り返した結果、現在は迷宮城の攻略方向をおおよそ特定できています。基本的には下層へ向かっており、全体を大きく見れば、複数の山壁の間を貫く巨大な下降螺旋のような経路になっています。最下層は死亡峡谷の底にある深淵付近だと推測されています」
「現在は大量の鎌蜘蛛に阻まれているため、複数階層を飛ばした直接攻略を実現できず、最下層の位置を突き止めることも困難です。迷宮城の構造を完全に把握するまでは、飛空艇を投入してもここでは大した効果を期待できません。現時点では、帝国に飛空艇の支援を要請することは推奨しません」
「離反者ヴィンセントは一か月以上姿を現していません。各階層の拠点では警戒を強化し、透明化した者の侵入を防ぐため多重結界と複数の罠を設置しています。ただ、毎日透明化を探知するための措置を維持する消耗が大きく、後勤組から循律の塔への追加発注に必要な予算を増額してほしいとの要請が……」
「存在する可能性のある残る二人については、いまだ発見されておらず、生死も判断できません」
「帝国が過去に神々の国から入手した文献によると、離反者ヴィンセントは悪魔種族の一つである血族へ変化した可能性が極めて高いと考えられます。すでに滅びたとされるこの種族は、一般的に飛行、変身、血液を操る能力を持っていたと伝えられています」
「一方、透明化、加速、そして先日の潜入襲撃で見せた吸血による高速回復については、血族の中でも強力な個体が持つ固有の天賦である可能性が高く、牽制しながらの遠距離攻撃を推奨します」
希望町に到着して以来、ログラムは毎日のように部下から最新の報告を受けていた。会議を開くことも、すでに日課の一つとなっている。
だが、攻略は一向に進んでいなかった。
上座に座るログラムは、硬度の高い上質な軽鎧を身につけている。働き盛りの男で、痩せた顔立ちに、髪にはわずかな白いものが混じっていた。近頃の激務による疲労が表情ににじんでいるものの、それでも有能で切れ者という印象は揺るがない。
今日の会議で挙がった要点を素早く整理すると、ログラムは指示を出し始めた。
「まず、離反者ヴィンセントの問題はいったん脇に置く」
「帝国からの命令は二つだ。一つは迷宮城攻略の加速。もう一つは、黒泥がすでに希望町の重要な経済資源となり、今では帝国の特産品にまでなっている以上、壊死の大地周辺の安全を確保することだ」
「安全が保証できなければ、富を求めて集まってきた商人も冒険者も、誰より早く逃げ出すだろう」
「もっとも、黒泥に関しては殲滅騎士団がすでに対処を引き継ぎ、帝国を満足させるだけの成果も上げている」
「それに対して、こちらは迷宮城攻略で何一つ進展を出せず、毎日莫大な消耗と死傷者を出し続けている。このまま成果を示せなければ、女皇は皇家冒険団をもう一度粛清することをためらわないだろう」
最後の一言が終わると、会議室にいる者たちの表情が一斉に険しくなった。
誰もが無意識に、部屋の隅に座る監察使へ目を向ける。
ログラムも横目でそちらを確認したが、相手に反応がないのを見ると、そのまま話を続けた。
「今はまず、現在の攻略における最大の問題――鎌蜘蛛の解決に戦力を集中させる」
「この魔獣の群れが迷宮城でどれほど長く生き続けてきたのかは分からないが、数が異常なほど多い。どれだけ待ち伏せして迎え撃っても殺し尽くせず、地形のせいで有効な対処法も見つけにくい」
「そのうえ補給路は懸空石道しかなく、戦線が延びれば延びるほど後勤組への負担も増す。攻略を止めたとしても、今の戦線を維持するだけで相当に厳しい。そこで……何か案はあるか?」
新任の団長が簡潔に状況をまとめて問いかける。
だが、出席者は誰一人口を開かなかった。
戦力が足りないわけではない。
問題は、懸空石道という地形があまりにも特殊なことだった。
両側の山壁から鎌蜘蛛が空を覆うほど次々と押し寄せてくれば、どれほど強力な戦士や魔法師でも満足に力を振るえない。
足元の石道を誤って破壊すれば、自分たちの隊が危険に晒されるだけではない。すでに次の階層まで進んでいる仲間たちの退路や補給まで断ちかねなかった。
魔獣を相手にするだけでも精も根も尽き果てる状況で、切断された橋を架け直すなど至難の業だ。
そのため、襲撃を受けるたびに、結局は狼狽しながら一つ上の階層へ撤退するしかなかった。
誰からも意見が出ないのを見て、今日これ以上会議を続けても同じだとログラムは悟った。その顔が沈む。
それでも今は、前線拠点をしっかり維持し、すでに攻略を終えた石窟を迷宮城の守衛に再び占拠されないよう命じるほかなかった。
そうして会議は解散となった。
部下たちが全員会議室を出て、最後まで鋭い視線でログラムを睨むように見ていた監察使まで去ると、危機的な状況の中で団長に任命された男は、ようやく深い憂いを表情に浮かべた。
ここ最近、女皇から届く催促の命令は回を追うごとに厳しくなっている。
循律の塔、遊騎兵ギルド、人亜連合、鋼鉄の玉座。そのいずれもが攻略への参加に強い意欲を示しており、蒼藍帝国がいつまでもこの迷宮城を単独で封鎖し続けることはできない。
シロ大陸がどれほど広大なのか、正確に把握している種族は一つとして存在しない。
砦の遺跡や禁忌の地、迷宮城などを抜きにしても、すでに存在が知られている未開拓地域だけで、人間が何世代にもわたって探索し続けられるほどの広さがある。
そのため、各国と各勢力は基本的に、同盟を結びながら発展し、互いに不足する部分を補い合うことを暗黙の了解としていた。
他国は蒼藍帝国を開拓の先鋒とし、同時に資源、素材、人口などの開発と流通の中心として必要としている。
そして蒼藍帝国もまた、それぞれ異なる分野に強みを持つ盟友たちの支援を必要としていた。
たとえば鋼鉄の玉座と循律の塔が共同で生み出す魔導製品。
神々の国と四正教が有する神官、神術、文化教育。
人亜連合と遊騎兵ギルドが育成する大量の冒険者。
閉鎖的な竜と飛鳴の地を除けば、知性種族は基本的に一つの大きな共同体ともいえた。
どの国、あるいはどの大組織が欠けても、シロ大陸における知性種族の生存には少なからぬ問題が生じる。
だからこそ蒼藍帝国には先行して単独開発する権利が認められているものの、二度の天象異変があまりにも広範囲に影響している以上、明らかに重大な問題を抱えたこの迷宮城を長期間独占することは不可能だった。
前任の皇家冒険団団長は、女皇の恩賜によって無事に退任したばかりだ。
だが、後を引き継いだログラムには、前任者のように長年の支持によって築いた立場も人脈もない。
その状態で始末に負えない厄介事を山ほど押しつけられ、背後からは監察使に厳しく目を光らせられている。毎日心労を重ねるだけで、白髪がかなり増えたように感じられるほどだった。
そんな新任団長が一人で頭を悩ませていると、見張りの者から報告が入った。
一人の老冒険者と、一人の光騎士が連れ立って訪ねてきており、迷宮城に関する情報があるという。
少々微妙な組み合わせだった。
ログラムは、二人が迷宮城攻略と深く関わっていたことを知っている。
就任前に前任者が残した資料にも目を通していたため、真っ先に頭に浮かんだのは、それぞれの背後にいる『槍と剣と火』と双子教会が持ち込むかもしれない面倒事だった。
だが、攻略を急がねばならない現状を考えれば、話を聞かずに追い返すわけにもいかない。
結局、ログラムは二人を通すよう命じた。
連絡を受けたのち、数日ぶりに老バダとディアドラは皇家冒険団の会議室へ足を踏み入れた。
「お二人には、これまでの攻略で多大な協力をいただきました。おかげで皇家冒険団も無事に迷宮城の第十層まで進むことができています。本日は、何かこちらに忠告しておきたいことでも?」
新任団長は二人を礼儀正しく迎え、言葉遣いも非常に丁寧だった。
だが、老バダはその態度に動かされることなく、黙って相手を観察していた。
年齢は四十代ほど。
人間としてはまさに働き盛りで、軽鎧を身につけていても、その下に鍛えられた筋肉の線がはっきりと見て取れる。
顔立ちは角張っていて威厳があり、疲労が見える中でも意識して浮かべている穏やかな表情からは誠意が感じられた。
人に信頼感を抱かせ、自然とその言葉を受け入れさせる雰囲気を持つ男だった。
「私たちは攻略に加わり、もう一度前線へ戻りたい」
ディアドラは隠さず、単刀直入に要求を口にした。
ログラムは迷うような表情を浮かべた。しばらくしてから、やや困った様子で説明する。
「ディアドラさん。光騎士であるあなたが皇家冒険団に加わってくださるのは、もちろん大歓迎です。しかし、四正教はすでに攻略への参加を当面見合わせると表明しています。そうなると……こちらとしても非常に扱いが難しい」
「それから老バダ殿。あなたが名高い冒険者であることは承知していますし、私個人としても大いに敬意を抱いています。私もかつては冒険者になることを夢見ていましたから。ただ、帝国のためにその夢を諦めました」
「それに、以前ドゥノが提出した報告書は、あなたについて……あまり好意的な内容ではありません。十分な理由もなく再びあなたを起用すれば、女皇に説明がつきません」
どちらについても完全に拒絶してはいない。
新任団長は明らかに、二人が検討に値するだけの材料を差し出すのを待っていた。
眉を寄せるディアドラとは違い、長年冒険者として世間を渡り歩いてきた老バダには、こうした国の大人物が何を考えているのか分かっていた。
彼はこのところ集めていた大量の資料をあっさりと取り出し、新任団長へ渡す。そして、先ほどディアドラに話した推測と疑問をもう一度説明した。
話を聞くにつれ、ログラムの顔色はますます険しくなり、心も重く沈んでいった。
彼は最初から死亡峡谷攻略に参加していたわけではない。多くの出来事を、あくまで書面の報告から知っているだけだった。
立場上、老バダより多くの機密や情報を握ってはいるが、ヴィンセントやその家族と実際に接触した経験はない。
危険性を、確かに過小評価していた。
「……つまり、あなたの考えでは、我々は迷宮城を攻略しながら、二人……あるいは三人の悪魔による襲撃まで警戒しなければならないと?」
老バダが頷く。
ログラムは手早く目を通した資料をテーブルへ戻し、少し考えたあと、あまり賛同できないという様子で首を振った。
「離反者への備えは、すでに行っています。今の話を踏まえても、増えるのは最大で二人の悪魔です。今回、皇家冒険団は戦力を集中させ、数千人を投入して攻略に当たります。彼らに対応するだけの人員は十分にいる」
「これだけでは、お二人を再び起用する理由にはなりません」
それを聞いたディアドラは、少し考えた。
今の状況は、以前遊騎兵ギルドで話した時とは違う。
蒼藍帝国の者たちは、結局のところ本当の意味での冒険者ではない。自分たちが何を懸念しているのか、その重大さを明確に伝える必要がある。
光騎士は、悪魔に襲われたあと、自分の精神が次第に侵され、苛立ちや怒りを抑えにくくなり、血を求める衝動まで生じたことを説明した。
そして、迷宮城の中でヴィンセントを滅ぼさなければ、いつか外へ逃げ出した時、希望町はもちろん、各国のあらゆる知性種族に甚大な危険をもたらすと強く訴えた。
ヴィンセントは以前、人間に偽装して営地へ戻り、妻とその妹を連れ去っている。
その時点で、彼が普通の悪魔とは違い、知性種族と同じように光神の下を歩けることは証明されていた。
光騎士の説明を聞き終えると、今度はログラムが沈黙した。
手元の資料にも、その点については記されていた。だが、彼は特に問題視していなかった。
どんな種族にも例外的な個体は存在する。
悪魔が一体、光神を恐れずに行動できるからといって、それがどうしたというのか。
今や知性種族は膨大な数に増えている。仮に好きなだけ殺させたところで、一体の悪魔に殺し尽くせるような数ではない。
しかし、資料には書かれていなかった。
血を吸われた者の精神まで侵されることなど。
明らかに、蒼藍帝国が過去に神々の国から入手した血族の文献は完全ではなかった。ログラムは、その後に精神への侵蝕まで起こることを本当に知らなかった。
しかも、それは意志の強さで知られる光騎士ですら、自分を制御できなくなりかねないほど危険なものだ。
血を求める衝動に耐え抜ければまだいい。耐えられなければ殺戮へと沈み、二度と正気を取り戻せなくなる。
長年努力を重ね、ついに数千人を率いる皇家冒険団団長となったログラムは、自分の意志の強さが双子教会の光騎士に劣っているとは思わない。
だが、相手を大きく上回っていると考えるのも現実的ではなかった。
つまり、自分自身も奇襲を受けて精神を侵されれば、狂乱状態に陥る可能性がある。ましてや、ほかの重要な幹部たちはなおさらだ。
三人の悪魔が迷宮城での混戦に乗じ、指揮系統だけを狙って襲撃を繰り返せば、皇家冒険団はたちまち瓦解しかねない。
これほど恐ろしい事態も、一人か二人が被害を受けるだけなら、まだ隠し通すことができる。
だが本格的な襲撃が始まり、血を吸われた者に起きる異変が知れ渡れば、崩壊するのは皇家冒険団だけでは済まない。
恐怖が広がれば、希望町そのものさえ維持できなくなるだろう。
新興の町も、特産品となった黒泥も、一瞬で何もかも失われかねない。
しかも、そのような血族の悪魔が三人いる可能性さえあるのだ。
「ディアドラさん。あなたの話には、確かに説得力がある。ただ……血族が危険だとして、お二人は皇家冒険団にどのような助力を提供できる?」
清麗な光騎士は、揺るぎない表情で答えた。
自分を推すことに一切の迷いはない。
「私はすでに、その侵蝕を乗り越えた。前線で血族と戦うには最も適した人選だ。ヴィンセントたちが姿を現したなら、悪魔の討伐は私が引き受ける」
そう言うと、五本の指を開いた手を隣の老人へ向け、厳かな口調で続けた。
「ログラム団長もご存じのはずだ。老バダは、ヴィンセント一家が逃亡しようとした時、唯一その企みを見抜き、間に合ううちに阻止しようとした人物だ。この名高い冒険者なら、三人の悪魔への対処でも必ず力になると私は考えている」
「私たちが加われば、皇家冒険団は悪魔への対処に余計な戦力を割く必要がなくなる。迷宮城の攻略だけに集中できる!」
ログラムはしばらく考え込んだ。
親指と人差し指で、顎に生えた短く硬い髭を何度も撫でる。
やがて口を開いた。
「分かりました。お二人がそこまでして加わってくださるというのなら、皇家冒険団としても確かに助かります。双子教会と帝国には、私から説明しましょう」
「数日後、皇家冒険団は正式に出発し、迷宮城の本格攻略を開始します。その時は、お二人も私と一緒に前線へ来てください。補助の人員もこちらで手配します」
ようやく新任団長の了承を得た。
ディアドラと老バダはそれ以上余計なことを言わず、手短に礼を告げて別れた。
二人とも、それぞれ出発までに準備しておくことがある。
「さっきはあなたに言われた通りにした。今度は教えてくれ。なぜ、ログラムを説得する役を私に任せた?」
作戦部の会議室を出て、人影のないところまで十分に離れた時、ディアドラが突然問いかけた。
老バダは懐から煙管を取り出し、煙草を詰めて火をつける。何度か軽く煙を吸い、立ち上る煙の向こうで目を細めた。
「迷宮城に入るのは危険なことだ。まして、これから俺たちがやるのは、以前のような探索や攻略だけじゃない。何も分からない環境の中で、潜んでいる悪魔を探し出すんだ」
「だから俺は、協力する相手がどんな人間なのか、余計なことに気を取られず観察しておく必要があった」
ディアドラはわずかに目を見開いた。
そんなことは考えもしなかった。
「ログラムは、どんな人間だった?」
「普通の帝国人だ」
「どういう意味だ?」
「蒼藍帝国のためなら、冒険者になる夢を捨てられる。そして蒼藍帝国のためなら、冒険者たちの命も捨てられる人間だ」




