28.対話
呼びかけを耳にし、それが先ほど自分を目覚めさせた声だと分かると、ヴィンセントは探っていた感知を引き戻し、乱れていた思考も収めた。そして単刀直入に、低い声で問いかける。
「お前たちは何者だ」
「世界の心を手に入れたのに、私たちが何者かも知らないのか?」
穏やかな男の声には、わずかな驚きが混じっていた。
世界の心という言葉を聞いた瞬間、ヴィンセントの内心にも驚きが走った。老バダが以前、この秘宝の名を口にしていたような記憶がかすかにある。
だが、ヴィンセントはひとまず沈黙を選んだ。
エリカのように頭の回転が速いわけではない。自分の身に何が起きたのかすら分かっていない以上、無事に野営地へ戻るためにも、慎重に動かなければならなかった。
しばらく待っても新しい仲間が口を開かないと分かると、穏やかな男の声も気にする様子はなく、あっさりと言った。
「まあいい。お前は知性時代になってから生まれた末裔なのだろう。知らなくても仕方がない。私のことはオスヴィドと呼べばいい」
「オスヴィド。俺は……ヴィンセントだ」
少し迷った末、ヴィンセントは本名を名乗ることにした。
「では、新しい仲間のヴィンセント。お前の迷宮城はどこにある? 何の種族だ? 助けは必要か?」
オスヴィドは一息に三つの質問を投げかけた。
もともと彼は、自分が関心を持たないことに時間を費やすのをあまり好まない。それに、この新たに生まれた仲間の素性については、すでにある程度の予想があった。
それはおそらく、あまり愉快な答えではない。
だからこそ、すぐに本題へ入った。
「俺の迷宮城?」
ヴィンセントは聞き間違えたのかと思った。
相手の言い方では、まるで自分が一つの迷宮城を所有しているかのようだ。それに先ほど聞いた世界の心という言葉を合わせると、一つの信じがたい答えが浮かび上がってくる。
「世界の心を手に入れれば迷宮城を操れる。お前の一族の族長や長老、祭祀のような年長者から教わっていないのか?」
「……まあいい。それなら、幸運に恵まれた者よ。お前は何の種族なんだ?」
どうやら自分が予想していた状況とは少し違うらしい。
相手が本当に何一つ知らない様子を見せたことで、オスヴィドは興味を抱き始めた。
もしかすると、ほとんど滅びかけている種族の生き残りが、偶然にも幸運にも迷宮城の継承を得たのではないか。そう考え始めたのだ。
ヴィンセントは幼い頃から人を観察することが多かった。そのため、相手の口調からすぐに何かがおかしいと察する。
少し考え、現在の状況に合わせて真実と嘘を織り交ぜながら答えた。
「自分が何の種族なのかは分からない。幼い頃から野外を転々としていて、何かを教えてくれる者もいなかった」
オスヴィドはそれを聞くと、予想と大きく違わない答えだったにもかかわらず、しばらく沈黙した。
どうやら、その返答をすべて信じたわけではないらしい。
「……まあ、今はそういうことにしておこう。それで、自分の迷宮城がどこにあるかは分かるか?」
「……分からない」
自分のことを明かさないため、ヴィンセントは再び嘘をつくしかなかった。
「はは、面白いな。何も知らない生命が、混沌時代末期以来、最も貴重で、とうに失われたはずの迷宮城の継承を手に入れたのか。どうやら新しい仲間であるお前は、何か思いもよらない変化をもたらしてくれそうだ」
立て続けに答えを得られなくても、オスヴィドが腹を立てた様子はなかった。穏やかに笑っているだけだった。
だがヴィンセントは、それでも相手の変化を敏感に感じ取った。
しかも今は相手に聞きたいことがある。ヴィンセントは誠意を示すように答えた。
「すまない。本当に何も知らない」
オスヴィドもそれ以上は追及せず、話を本題へ戻す。ただし、その口調は先ほどより少し淡くなっていた。
「それなら……何も知らない新しい仲間。三つ目の質問だ。何か助けてほしいことはあるか?」
慎重に考えた後、ヴィンセントは先ほど自分の身体に起こった変化と、その姿について説明した。
そして続けて三つ問いかける。
「どうして俺は……あんな姿になった? どうすれば血を吸いたくなる衝動を抑えられる? お前たちも、俺と同じように変化するのか?」
話を聞き終えたオスヴィドからは、長い沈黙が返ってきた。
あまりにも長い沈黙だった。
ヴィンセントのいる奇妙な部屋そのものが静まり返り、巨大で重苦しい、殺伐とした冷気のようなものが、抑えきれず巨大な光球の中から滲み出そうとしているのさえ、かすかに感じられた。
ヴィンセントには、自分が何を言い間違えたのか分からない。
一度はすぐに手を離し、ここから立ち去ることも考えた。
だがオスヴィドは、今の自分に答えと進むべき方向を与えられる唯一の存在かもしれない。
そう考え、巨大な光球との繋がりを維持した。
やがて沈黙は終わる。
再び穏やかな声が響いた。ただ、その声はわずかに上ずっており、驚いているようでもあり、何か別の感情を隠しているようでもあった。
「その話を聞く限り、お前は血族のはずだ。だが私の記憶では、血族は混沌時代末期から知性時代初期にかけて、すでに完全に滅びている。まさか生き残りがいたとはな。何も知らないのも無理はない」
「血族? 何の種族なんだ?」
ヴィンセントは、その名を一度も聞いたことがなかった。
そして、自分がもともと人間だったことだけは間違いなく分かっている。
それを聞いたオスヴィドは笑ったようだったが、むしろその笑いにはわずかな侮蔑が混じっているようにも聞こえた。
少し答えに困ったように言う。
「血族の詳しい歴史までは私も知らない。ただ、私たち堕天使一族と同じように混沌時代に活動していて、混沌時代末期まで存在していたことは知っている。当時は、悪魔種族の大半がまだ互いを狩り合っていたからな」
「悪魔種族? 俺が……血族が、混沌時代の悪魔種族なのか?」
堕天使。
ヴィンセントは以前、旅の途中で他の冒険者がその名を口にしていたような記憶があった。
だが、ほとんど覚えてはいない。
天の魔王が治める「蒼穹の島」に暮らす悪魔種族だということくらいしか知らなかったし、今の彼にとって最も重要なのは、自分自身の状態だった。
「ああ。当然、悪魔だ。ただし血族は少し特殊でな。戸惑うのも無理はない。お前たちは混沌時代末期には……それなりに名を知られていた。さっき話した身体の変化と吸血衝動こそ、何よりの証拠だ」
ここまで話したことで、オスヴィドの中ではさらに推測が固まっていた。
相手は、おそらく人目を避けて生き延びた血族の末裔なのだろう。
かつて秘法によって血脈を眠らせ、各種族からの追跡を逃れた。そして知性時代になってから、偶然に世界の心を手に入れたことで血脈が目覚めた。
だからこそ伝承が完全に途絶え、何も知らない。
そう考えれば辻褄が合う。
何しろ、この若い血族に少しでも一族の伝承が残っているのなら、オスヴィドの名を聞いた時点で逃げ出しているはずだった。
ヴィンセントは信じがたい気持ちだった。
半日も経っていない少し前まで、自分は人間だと思っていた。それが今は、見知らぬ声から突然、お前は悪魔だと告げられている。
だが、地下洞窟の浅瀬に散らばっていた、血を吸い尽くされて潰れた魚の死骸こそが、何よりの証拠だった。
珍しく茫然とした感覚が胸を満たす。
ヴィンセントは、ただ問いかけた。
「それなら、制御する方法はあるのか。……人間と同じように暮らすことはできるか?」
「ほう。そう聞くということは、血族として目覚めるまでは、人間として暮らしていたのか。 確かに血族は変身していない時なら、知性種族と外見上の違いはほとんどない。それがお前たちの最大の特殊性でもある。今の知性時代では、多くの悪魔種族が羨む特徴だろうな」
オスヴィドは口にしなかった。
だが、その特殊性こそが、血族が混沌時代末期に各種族から共同で滅ぼされた理由の一つでもあった。
そう言った後も相手から返事がないことで、オスヴィドは、新しい仲間が確かに人間と共に暮らしていたのだと判断した。
当然、この時代になって悪魔種族がどれほど厳しい状況に置かれているのかも理解していないのだろう。
そう考え、話を続ける。
「血族が吸血衝動を抑える方法なら、もちろんある。それすらできないなら、悪魔種族ではなく、ただの邪悪体に分類されている」
ようやく知りたかった答えを聞き、ヴィンセントはすぐに低い声で尋ねた。
「どうすれば抑えられる?」
「以前、血族と戦った経験から判断すると、お前たちが制御を失う原因は、体内の血が暴走することにある。その血こそがお前たちの力の源だ。制御する方法は二つある」
「一つ目は、天賦を繰り返し鍛え、実際に使うことだ。お前は人間に詳しいようだから、人間が編み出した、肉体を通してエネルギーを制御する技巧も知っているだろう。天賦も技巧と同じだ。何度も使い、繰り返し練習してこそ、自分自身を最大限に制御できるようになる」
「二つ目は、自分自身がもっと強くなることだ。血族の天賦は体内の血から生まれる。重傷を負った時や、力を使いすぎた時には、身体が自然に吸血衝動を起こし、自分の意思とは関係なく変身する。ならば強者になればいい。常に負け知らずの勝者であり続ければ、自然とずっと人間のように生きていられる」
「どうだ、ヴィンセント。できるか?」
オスヴィドの問いかけには、少し意地の悪い面白がり方が混じっていた。
一つ目なら、できる限り試してみることはできる。
だが二つ目は、常に負け知らずでいろという話だ。
これまでただの一介の冒険者にすぎなかったヴィンセントにとって、それはほとんど不可能だった。
アンダほど強い野蛮人であっても、極めて難しいだろう。
「……分からない」
結局、ヴィンセントはそう答えるしかなかった。
千年もの間ほとんど現れなかった悪魔の末裔がまだ迷っていると分かると、オスヴィドもそれ以上からかうのをやめ、珍しく慰めるように言った。
「安心しろ。強くなるまでは迷宮城にいればいい。それでも外へ出たくなったとしても、生まれたばかりの血族でさえ、この知性時代では決して弱くない。少し慎重に動けばいいだけだ」
「でも、迷宮城は今、冒険者に攻略されている」
「……」
オスヴィドは一気に困った気分になった。
「迷宮城の場所を教えてくれ。他の仲間にも声をかけて、一緒に方法を考えよう」
また長い沈黙が続いた。
新しい仲間は自分を信用せず、もう繋がりを切ったのではないかとオスヴィドが思い始めた頃、ようやく声が返ってきた。
「冒険者はまだ第一層を攻略し始めたばかりだ。今のところ問題はない。それより知りたい。……お前たちは何者なんだ? どうして俺を新しい仲間と呼ぶ? 悪魔種族は昔、互いを狩り合っていたと言った。それなのに、どうして俺を積極的に助けようとする? 何が目的だ?」
人間にとって最大の敵は人間だ。
その考えは、ヴィンセントが人生の大半を歩む間、ずっと彼の中にあった。
悪魔であろうと、ほかの種族であろうと同じことだ。
相手がどれほど善意や熱意を示していようと、簡単に信じることなどできなかった。
ここまで話して、オスヴィドもようやく、この新しい仲間がどれほど慎重で疑い深いのか理解した。
千年という歳月を経ていなければ。
今も最も混乱していた混沌時代であれば。
ヴィンセントが何一つ知らない新しい世代でなければ。
これほど歯切れの悪い返答を続けられ、しかも相手が血族だと知った時点で、オスヴィドはとっくに一族を率い、相手も迷宮城もまとめて滅ぼしていただろう。
だが、今はもう知性時代だ。
オスヴィド自身も、殺し合うことにはとうに飽き、疲れていた。
少し考えてから答える。
「助けが必要ないのなら、私にも答えられることはない。お前は基本的な情報すら何も話していないからな。人間はよく言うだろう。生命同士は互いを尊重すべきだ、と。そうじゃないか?」
ヴィンセントは答えなかった。
同じ状況で立場が逆なら、自分だって大した答えは返さないだろう。それは理解できた。
まだ考えていると、オスヴィドが再び口を開く。
「本当にすべてを知りたいのなら、次に新生と逝去が入れ替わる日、光明と暗闇が巡る時、世界の心を通じて集まりに参加するといい」
「集まり?」
「ああ。毎年決まって一度だけ開かれる。私たちに残された、数少ない共同活動の一つと言っていい」
ここまで得た情報から考える限り、相手は伝説に語られる古い神霊時代の怪異な邪神ではない。
だが少なくとも、それよりは新しい混沌時代に存在した堕天使一族ではある。
自分がなぜ突然、人間から血族になったのかは、依然として分からない。
それでも相手から多くの情報を得られたことは確かだった。
何より重要な、自分自身を制御する方法も教わった。
「ありがとう。ただ、必ず参加できるとは約束できない」
少し考えた末、ヴィンセントは正直にそう答えた。
そもそも、先ほどオスヴィドが口にした開催時期の言い方すら、ほとんど意味を理解できていなかった。
「はは、構わない。だが、いずれにせよヴィンセント。お前は長い間現れることのなかった、血族の新しい世代だ。ひょっとすると、知性時代で唯……一の血族かもしれない。参加してくれることを期待している。何しろ……新たな変革が、まもなく始まるかもしれないからな」
また、よく分からない話だった。
だがヴィンセントは追及しなかった。
もともと好奇心が強い性格ではない。
自分が知る必要のあることなら調べるが、自分が知る必要のないことなら、慎重に距離を取るだけだった。
「覚えておく。その集まりは何と呼ばれている?」
地上へ戻ることができたら、自分でも調べてみてもいいかもしれない。
「そうだな……遥か昔、ほかの悪魔種族や知性種族は、確かこの集まりをこう呼んでいた……」
あまりにも長い間そんなことを聞かれていなかったため、オスヴィドはすぐには思い出せなかった。
ヴィンセントもしばらく待った。
もう質問を諦めようかと思った頃、ようやくオスヴィドは思い出したらしい。
穏やかな声が、直接ヴィンセントの頭の中へ届く。
「魔王の庭」




