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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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ぼんやりの釣りタイム


「ふへー。きゅうけーい。」


10匹を釣ったところで、私は釣り竿を手放して腰を下ろす。

小鳥とさんさんはまだ一匹も釣れてない。


「なんかすごいね。変なフェロモンだしてる?」

「出してない出してない。」

「いっそこいつを餌にしてみるか?」

「いいかも。」

「ならない。こわい。やめて。」


私はそんなフェロモンは出してないし、餌にしても美味しくない。

ビギナーズラックというやつだ。

たまたまだよ。たまたま。


「自信なくなるなー。

 まあ釣りは下手の横好きだからいいけどね。」


さんさんはそう言って釣り針を一度引き上げた。

釣り針の先には投げたときと変わらぬ餌がついている。

軽く付け直してもう一投。

またぽちゃんと音が鳴る。


(下手の横好きかー……。あ、そういえば。)


いちごうさんとニッキさんが前にさんさんの得意を教えてくれたっけ。

ちょっと聞いてみよ。


「そういえばさんさんはダーツ得意って聞いたよ。

 ほんと?ダーツ、かっこいいよねー。」


私の言葉に、さんさんは少し困ったような顔をした。

まあでもかっこいいと思ってるのは確かだ。

ちょっとお話聞きたい。


「うーん。と、得意ではあるよ。」

ちょっと歯切れの悪い回答。

でも得意なのいいな。かっこいい。

「わ、やっぱりそうなんだ!

 ダーツやってみたいな。いつもはどこでするの?」

「えっと、普段は家だね。」

「家!すごい!家にダーツあるの??」

家にダーツ台があるってめちゃくちゃかっこいい。

いいな。

私もそんな家に住んでみたい。


「もし良ければ今度遊びにくる?」

「え!いいの!行きたい!」


ということでさんさんのお家見学の予定もできた。

やったー。

ダーツ、めっちゃ楽しみ!


それはともかく、小鳥とさんさんの釣りは続く。

竿はぴくりとも動かない。

ふたりとも魚に嫌われているようだ。


風がぴゅーっと吹く。

なにもしてないとちょっと寒い。


「普段はふたりと来てるんだよな。」

「あー。うん、そうだね。」


小鳥の言葉にさんさんが頷く。

この場合のふたりとは、いちごうさんとにっきさんのことだろう。


「ふたりは釣り、得意なのか?」

さんさんは首を横に振って応えた。

一姫かずきはいつもすぐ飽きてゲームしてるね。

 それでにっきも釣られちゃうかな。」

「釣りだけに?」

「そう、釣りだけに。」

私の茶々にさんさんはそう返す。

飽きてゲームしちゃうなんて、ふたりはそんなに釣りは好きじゃないのかな。


そう思ったとき、ぷるると電話が鳴った。


「あ、私のだ。ちょっと待ってね。」


さんさんがスマホを取り出す。

そしてすぐによく知る声が聞こえた。


『さんちゃん!またひとりで釣りしてるでしょ!』

『ずるい!私も行きたかった!

 雛乃も怒ってるよ!』

『怒ってないわ。いいじゃない。別にひとりで……』

『雛乃は黙ってて!』

『ひどくないかしら?さんさんもなにか言って。』


電話からはいちごうさん、にっきさん、雛乃の声。

どうやら3人一緒にいるみたいだ。


「今日はひとりの気分だったんだよ。」

スマホに向けて、さんさんはそう言った。

するとまたスマホからワチャワチャと返事が帰ってくる。

『もう!私はさんちゃんと釣りしたかったのに!』

『明日!明日また行こ!』

『いちごうは明日、出勤でしょ。』

『雛乃は黙ってて!』

ひとつの言葉に10のワチャワチャ。

さんさんは少し困ったようにその様子を見守る。


ワチャワチャを見守ってしばらく。

さんさんがまた口を開いた。


「悪かったよ。次は誘う。

 またあとで電話するね。今は新入りと……。」


新入りと小鳥さんと一緒だよ。

そんな風に言おうとしたんだと思う。

困りつつも穏やかな表情。

いちごうさんはその困った表情も好きだと言ってたっけ。

でもその表情は、次の一瞬で崩れた。


『お嬢様!小鳥お姉様!楽しんでますかー??』

「……え。」


電話の向こうからフランの声。

それに驚いてさんさんはスマホを落とす。

地面に落ちるより早く、小鳥がそれをキャッチした。


「ふ、フラン!?なんでそこに!?」

『えへへー。雛乃お姉様に連れてきてもらいました!

 今はいちごうさんのご自宅です!

 とっても綺麗な場所ですよ!』


フランはウキウキとそう言ってみせた。

のんびり朗らかいつものフラン。

今日も変わらずとびきり可愛い。

いや、むしろこの一泊二日の間にもっと可愛くなってるかも?


ただまあ。


『新入り!?なんで、さんちゃんと一緒なの!?』

『小鳥さん!?小鳥さんが居るの??

 わ、私、変なこと言わなかった??』

「ふ、ふふふふふふらんちゃん。お家。お家に。」


もう大パニックだ。

特にさんさんがやばい。

手も足も震えて立てなくなっている。


『わ、皆さんどうしましたか??

 えへへ。いちごうさんのお家で待ってますね!

 またあとでです!』


フランは最後にそう言って電話を切った。

お家に帰る前にいちごうさんのお家に寄り道。

場所は……腕輪でフランの居場所を調べたらすぐに分かった。


釣りは一旦おしまいかな。

そう思ってさんさんの方を見ると、そりゃもうすごいことになっていた。


「ふ、ふら、フランちゃん。

 なんで、なんで私は釣りに。

 こんな、こんな悲しいことが。」


もう大号泣だ。

さっきまできりっとしてたのに、見る影もない。


「お、おい。大丈夫か……?

 ほら、顔ふけよ。」


小鳥がハンカチを差し出す。

 それをさんさんは涙目のままに突き返した。


「気遣いありがと……。

 でも時間が勿体ないから……。

 早く、早く行こう。」


テキパキテキパキ。

顔は赤いままに最短経路で釣具を片す。

あっという間に私たちのいた場所は綺麗になった。


さんさんが私と小鳥の背中を押す。

この続きはいちごうさんのお家で。

果たしてさんさんはフランの前で正気を保てるのだろうか。


「ふふふらんちゃん。

 おみや、おみやげ。おみや、なにが、なにに。」


まあきっと無理だろう。

目がぐるぐる回ってる。

頑張れさんさん。

私はそう一度だけ念じて、小鳥のバイクにまたがった。





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