第四十七話 クール系ライバル、悪の才能とトラブルバスター。
巨大な魚竜から解放されて戻ってきたら、来栖ミツルがサメ相手に借金をしていた。
「……さっぱりワケが分からないんだが……ヨハネ、どうして、お前はそんな平然としていられるんだ?」
「オーナーらしい動きだ。問題はない。それより、イース。お前はあの後、なにかあったのか?」
「話したくない」
「そうか。おれは、なぜか五つの店の用心棒をすることになった」
「何をしているんだ、お前は?」
「おれにもよく分からない」
「……それで、来栖ミツルはどこにいる?」
「本部を借りに行った」
「本部?」
「オーナー曰く、ジェノヴェーゼ・ファミリーがイースト・ハーレムに持っていたパルマ・ボーイズ・ソーシャル・クラブみたいな店だそうだ」
「……お前、その言葉のうち、ひとつでも分かるものはあるのか?」
「アンソニー・サレルノが率いる、最も強力だった116ストリート・クルーたちの溜まり場ということくらいしか分からない」
「ついでに言うと、116ストリート・クルーはもともとは19世紀末のモレロ・ファミリーの通称だった。つまり、ニューヨーク最古のマフィアの出発点ってこと。それはつまり、〈水の星〉のクルス・ファミリー出発点にふさわしい格があるってことだ」
「――だそうだ」
来栖ミツルとヨハネはドヤ顔、というのか、そんな顔をしてくるが、おれには何が何だかさっぱり分からない。だが、なんとなくむかつく。
「心配するな、イース。お前もじき慣れる」
「そこまで慣れ合うつもりはない」
――†――†――†――
正直なところ、なぜ来栖ミツルが世界じゅうの暗殺組織や犯罪組織にあれほど恐れられ、そして羨望の的である犯罪帝国を築けたのか、これまで分からなかったが、ここにきて、それが分かってきた。
この男には悪のセンスがある。
赤線地帯の路地につくられた〈クルス・ボーイズ・ソーシャル・クラブ〉は初日はうまいウミウシ・コーヒーを出す店として知られた。
高利貸しから借りたカネの一部を使って、ウミウシ濃縮機を買い、それでエスプレッソ・ウミウシをつくっていたのだが、開店初日の午後にはもう色街絡みのトラブルの解決を求める相談が持ち込まれた。
来栖ミツルはこれまでふたつの星で帝国軍とやり合ったこととあのローンシャークから初対面にして多額の宝貝を借りだしたこと、ヨハネが五つの娼館で用心棒として声がかかったことの三つをフルに利用して、自分をトラブル解決の何でも屋として売り出した。
「いやあ、神さま、仏さま、ジャックさまだよ。たいていのトラブルメーカーはジャックがシメてくれる。おかげで〈クルス・ボーイズ・ソーシャル・クラブ〉は大繁盛だ。あ、肩、お揉みしますね」
こんなことを言っているが、自分の手ゴマをフルに活用する術ではかなうものがいない。
持ち込まれるトラブルの種類はいろいろあり、遊女に付きまとうストーカー退治、ライバル店に邪魔されたウミウシ購入の仲裁、遊女の引き抜き騒ぎを穏便になかったことにするなどで、娼館の主幹に関わるものが多い。
それをポッと出の来栖ミツルに依頼するのは不思議の極みだが、来栖ミツルにはトラブルを相談したくなる雰囲気のようなものが自然と身についている。
たいていの客は初対面の来栖ミツルが本当に自分のトラブルを解決してくれるか危ぶむが、十分もしないうちにもうトラブルは消えたも同然だと快活な気分でエスプレッソ・ウミウシをすすっている。
たぶん、これまでの犯罪組織の首領として渡り歩いた経験が挙措動作に染みついているからだろう。
最低労力で最大効力の解決法を生み出すのがうまい。
ライバル店とのトラブルでは両方の肩を持ち、うまく仲裁するなどして、敵を作らないようにしている。
宝貝三万を借り入れしてから三日後の返済日、その手元には宝貝が三万あった。
二万を設備投資に使い、その二万を二日で取り戻したのだ。
だが、返済は五万。残り二万をどう捻出するつもりか――。
「いや、捻出しないよ」
「は?」
「全部返しちゃったら、〈海竜の墓場〉にどうやっておれを埋めるつもりか分からないし、何より、あのローンシャークのバックにいるゴッドファーザーに会えない」
「あの手の金貸しがどんな手に出るか、きみだって知らないわけじゃないんじゃないか?」
「そりゃあ、おれのこと、ぶち殺してサメの餌にしようとするだろう。でも、あいつらも馬鹿じゃないから、おれの手元に貝があることは知ってるはずだ。それを稼ぐ方法があることも。全く返さないわけではなく、利子の二万だけ返す。その後、三日ごとに追加利子の一万ずつ返す。全額返さないのは海の世界のゴッドファーザーに会うため、利子だけ返すのはおれが会うだけの価値があると示すため」
「それで納得するのか?」
「闇金は利子吸い上げてナンボの世界。むしろ、おれみたいな返し方はまさにカモの返し方だよ。とはいえ、念のため、何されるか分からないので、ジャックは連れていくつもりだ」
「おれも行こう」
「ん? どういう風の吹き回し?」
「別に。ただの興味本位だ」
「武器預けないといけないけど」
「構わない」
実際、来栖ミツルの言う通りになった。
ローンシャークは利子を受け取って、自分のバックに話を通すように言ってきたのだ。
「な、言った通りだったろ?」
「ああ」
「ただ、残念なのは水のなかだから、こんなウェットスーツしか着ていかれないことだな。中折れ帽もジャケットもなしだよ。冴えないよなあ」




