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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
星々の世界 ラケッティア宇宙へゆく編
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第十四話 ラケッティア、翼人の都のスケッチ。

 精米済みの米粒を縦にしたような巨大な浮遊島があり、その崖を切り込んでつくったところに家があり、魚屋があり、市場があり、祈祷所がある。


 以前、ノミ屋商売で稼がせてもらったリヴォンブルクという街に似ているが、決定的に違う点がある。

 土地を結び付ける階段や梯子の類がいっさい存在しないのだ。


 当たり前だ。やつらは飛べる。

 たぶん、階段とか梯子という概念すら存在しない。


 この巨大な浮遊島にはシップが余裕で通り抜けることのできる巨大な裂け目があり、島の内側につくられた街へとつながっている。


 たいまつと壁に開けた穴から差す日光のみのオレンジ色のもやが漂う巨大な空間には地球を裏側から見たような趣がある。


 なだらかに内側へ弧を描く崖に魚卵酒の醸造所や粘土でつくったグリホルツヴァイの像を祀った祠、ガラス玉と魚の牙でつくった装身具を売る店が乾電池みたいにはまり込んでいて、限られた光と色の燈明のなかでも多様な色を主張する。


 いくつかの洞窟からはまるでこの浮遊島の心臓の鼓動に合わせたみたいに光がふくらみ火の粉が吐き出されていた。あれはみな鍛冶屋らしい。

 タムタムと太鼓のリズムがきこえる洞窟があれば、魚肉団子を煮るにおいのする洞窟もある。


 その手の洞窟のなかでもかなり大きな洞窟があり、シップはそこでおれたちを下ろすためのタラップを伸ばした。


 そこいらじゅうから翼人が集まってきたのだが、それもそのはずで甲板ではやつらの守護神グリホルツヴァイがドリアードを口説こうとあれこれ甘いが嘘くさい言葉を吐いているのだ。


 おれたちが立ったのは三層構造のバザールだった。

 壁にうがった四角い穴では首飾りや魚の干物が売られ、翼人たちがバサバサ飛び交っている。

 道に落ちた羽根を子どもたちが集めて、頭に飾ったりしていた。


 爆撃部隊を指揮していた武人らしい翼人がおれたちの案内をするといった。

 名前はロタロタ。猛禽類らしい鋭い目と引き締まった体の持ち主で、手には羽根を飾った鋼の槍、腰には黒曜石のナイフを差し、腕と胸に細かい模様の入れ墨があるが、それはロタロタが〈赤き鷲の戦士〉たちの長であり、帝国の飛行兵を三十七人討ち取ったという意味らしい。

 顔つきは二十代なのだが、年齢をきいてみたら、六十七だと言った。


 あとで赤き鷲の戦士たちにきいたところ、ロタロタを長にしたことは六十七歳という若さを考えれば大抜擢らしい。

 樹人たちほどではないが、寿命はかなり長いようだ。


 そんな翼人ロタロタがおれたちを長老のもとに案内するというのだから、モー、このちょーろーの年齢については相当なことになっているだろう。

 アロサウルスとタイマンしたとか、ティラノはおれのマブダチとか言ってもおかしくない。


 しばらく三階建てのバザールみたいなところを歩いていた。

 新生フレイア帝国の侵攻が進んで、翼人たちがまともに商売できるのが、もうここしか残っていない。

 そのため、バザールはにぎわっていたが、ここがつぶされたら、翼人はもう帝国に屈服するしかない。


「で、帝国の派遣した将軍ってのは、どんなやつなんだ?」


「ルハミという男だ。背中から刺すのが得意な卑劣な男だときいている」


 つまり、アサシンみたいな戦い方をするってことか。


「そいつ、青いカッターナイフ、っていうか、薄くて青くて半透明な剣を大切にしてない? こんなやつなんだけど」


 おれは大きなカバンの留め金を外して、なかの〈剣〉を見せた。


「いや。分からないな。だが、長老さまならば、何かご存じかもしれない」


 バザールを奥まで進むと、様々な色や材質の反物が高い天井の梁から垂れさがる、修行場のようなところに出た。


 翼人たちの組む円座があちこちにあり、無数に置かれた黒い壺から立ち上る線香の煙に『目がシパシパするんよ~(カルリエド談)』。


 大きな鷲と無数の風の渦の壁画がある部屋の壁に小さな穴がひとつ空いていた。ロタロタはカプセルホテルみたいな寝床のひとつをのぞき込んだ。


「いない」


「だれが?」


「長老さまだ」


「え、この棺桶みたいに狭いスペースに? 長老がいるの?」


「ああ」


「長老って偉いんだよね?」


「当たり前だ。なぜ、そんなことをきく?」


「いや、こんなところにいつもいるなんて、老人虐待してんのかな、って思って」


「無欲な方なのだ。ところでさっき言ったカンオケ、とはなんだ?」


「棺桶は棺桶だよ。棺ともいう」


「分からん」


「死体を入れる箱だよ。で、そこから穴掘って埋めるか、死体ごと焼くんだ」


「なぜ、そんな無駄なことを?」


「あんたたちはどうやってるんだ? 死者が出たら?」


「焼く」


「棺桶は?」


「死者は薪の上にじかに置かれて焼く」


「そんなことすると、死体がバタつくことがあるんじゃないか?」


「よくある。最初は生きていたのかと思ったが、そのうち炎で体が急速に縮み始めたせいだと知れた。それ以来、焦ることもなく死者を焼いている。それにしても長老はどこに行ったのだろう?」


 修行場をさらに奥に進む。


 床は砂でザラザラしていて、道端には虫がか細く鳴き暮らせるほどの草木がある。

 鳳凰樹の花は借りたカネ返せなくて火をつけられた債務者みたいに燃え上がり、名もなき雑草たちの葉の裏には密輸屋たちが飲み込むヘロインぎゅうぎゅうのコンドーム玉みたいな種が繁殖の合図を待っている。

 虫どころかコロンビアの共産ゲリラ組織がAK抱えて丸ごと隠れられそうなジャングルもあった。


 そのジャングルから出てきた修行者にロタロタが長老はどこにいるかたずねたが、修行者はこの十年間ジャングルのなかにひとりでこもる修行をしていたので、どこにいるのか見当もつかないという。


「ロタロタ殿ではありませんか?」


 子どもっぽい声、というか子どもそのものな声が呼び止める。


「長老。どこにおられたのですか」


「原初の部屋に」


 長老――十三歳か四歳くらいの、白い翼が華奢な少年がにこりと笑った。

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