第二話 ラケッティア、宇宙帆船なんよー。
フレイア、という言葉を調べるため、師匠奪還に燃えるギル・ローが街じゅう駆けまわり、検索十件ヒット。
全部娼婦の源氏名だった。
なんかもっと核心に迫ったネタはないものかと頭を抱えていると、クレオがやってきて、
「義父さんがこっちに来るらしい」
「星への転移装置絡み?」
「義理の息子の顔を見たいからではないだろうねえ。ククク。まあ、今回のものはこれまで見つかったものとは比較にならないそうだよ」
そういえば……フレイは消えるとき、星、とも言っていたな。
またまたフレイアを検索。ギル・ローが足で稼いだネタは占星術師のホームラン。
フレイアとは星の名前なのだ!
なんで第一回の検索でこのネタが出てこなかったのかと思ったが、ポン引きやヤク中、路上賭博のチンケな胴元相手にききまくったからだろう。
第二回の検索の相手は占星術師、天文学者、星を望遠鏡で覗く金持ちの天体マニアだった。
こうなると、ダメでもともと。
その、星への転移装置とやらを試してみたくなる。
しかも、カラヴァルヴァ市内にあるってんだから。
「クレオ。その星への転移装置、どこにある?」
――†――†――†――
「ヒューマンのブラッダ。元気だや? カルリエド、ご機嫌なハッピーハッピーなもの見つけたんよ~」
〈ハンギング・ガーデン〉の隣、カルリエドの新しい石切り場の竪坑の上にそれは浮いていた。
宇宙をゆく船。サファイアのように輝く船首。石を敷いた甲板、塔に似たブリッジ。そして、この船の上、長さが舳先から艫まである金色と紅の立体的な三角帆があり、左右の翼にはプロペラがついている。
おれはあまり宇宙宇宙したSFは好きじゃないし、その点でいうと、この宇宙船はSF未来よりも古代っぽさがあって、好感がもてる。もてるけど、これ、ホントに宇宙行けるか? 帆とプロペラで?
「実はカルリエド、困ってるんよ。動かす方法、分からないだや」
「燃料は?」
「そんも分からないだや。カルリエド、このシップ、いい子いい子しただや。でも、動かないんよ。カルリエド、お手上げだぎゃ……そうだ! ヒューマンのブラッダ、この子にいい子いい子するんよ。この船はきっとハートのブラッダのブラッダな気がするんよ。ハートなブラッダ目覚めさせたテクで、この船、目覚めさせるだや」
「こいつにちゅーしろってこと? うーん。一応、この手のことに血道を上げてるやつがひとりいるから、そいつを連れてくるよ。ジャック。印刷所に行って、ギル・ローをこっちに連れてきてくれ」
ギル・ローは船を見て、すげえ、と言った。
「で、どうやったら、この船を動かせそうだ」
「まずは内部を見ないとな」
穴の縁の宙ぶらりんの桟橋からワクワクしたギル・ロー、グラグラしたおれ、スタスタしたジャック、そして、だやだやしたカルリエドの順に船に入る。
象形文字のようなものが綴られた石造りの通路を通り、艦橋を上って、操縦室らしき部屋に出る。操縦席らしいものはあるが、操舵輪もレバーもイグニッション・キーを差す穴もない。
「すげえ」
「なあ、ギル・ロー。もっと詳しい感想を頼む」
「これは古代ヨウイェ朝の王族文字の原型となった未知の文字群が何らかの力場として働くように配置されていて、その古代文字配置の切り替えで、細かい操船に必要なエネルギーを抽出していると考えられるが、錬金術士サバノーの説を採用するなら、この操縦には賢者の石と同質、もしくは赤のエリクセルと同質の物体が関わっている。低反発化した反物質をメインの動力源として利用されているとしたら、それは高度な知性を持った反物質であり、操縦者は認識者となり、コアが認識者の意識から抽出した情報を適切な命令に再構築する能力があると考えられるが、これはホムンクルスの製造にもつながる技術であり、古代人たちは高度な科学力をもった精神のみで存在が可能な物体と考えられる」
「長い。もっと分かりやすくまとめてくれ」
「すげえ」
「お前の説明能力、一か一〇〇しかないのかよ。で、これ、どうやったら動かせるの?」
「古文書と師匠の教えから推測すると、動力室にコアがあるから、そこでこちらを認識させる」
「どうやって?」
「魔法だ。強い魔力に晒せば、それが起動のキーになって――」
ガコン!
機械に詳しくなくとも分かる、誰かが触ってはいけないボタンかレバーに触ってしまった音だ。
窓の外の景色がゆっくり沈み始めた――ということは、こっちが浮かんでいるということだ。
「先生怒らないから正直に言いなさい」
「ここからコアにアクセスするのは不可能だ。動力室で何かあったんだろう」
丸い部屋に奇妙な配置の足場が組まれた遺跡のような動力室。
その中心部に青いひし形六面体のコアがあり、そのそばには――。
「お、おれは何もしていない。これが勝手に――」
氷の剣を抜いたイスラントが立っていた。




