第八話 ラケッティア、ちょっと考える。
入浴はシャワーで一日一回。
どこかに温水をためるタンクがあるのだろう。刑務所にしてはなかなか気の利いた待遇である。
きいた話では別の国の株式刑務所が囚人にろくにシャワーを浴びさせず、不潔なままにしておいたら、疫病が発生して、囚人全員と看守全員、監獄長官一家とバクテリア頑張ったの皆殺しが起きたそうだ。
きっとカンパニーの帳簿係は相当な損失を借方に綴る羽目になっただろう。
ヤクとオカマの移動販売が来たので、そこからちっこい石鹸と木彫りの鉢みたいな洗面器を買い、即席お風呂セットをつくる。
シャンプーハットがないのが残念だ。
トッポといい、ポッキーといい、ここの購買はどうもコツを心得ていない。
ここだけじゃない。
改善点はいくらでもある。
囚人に特権を許すことは秩序に悪影響かもしれないが、収益に優しい。
どのみち、ムショのなかのカネはダウンかメツガーにまきあげられるようになっている。
それをムショの側でまきあげずにどうするのだ?
「よし。おれがこの刑務所の収益を倍に増やしてやろう」
「おれ?」
「じゃなかった。わし」
牢屋の相方のネギーニョじいさんが訝し気な目を向けるのは、おれが心の一人称をトチって口にしたからだと思っていたが、この刑務所の収益を倍にするというほうが気になったようだ。
まあ、どこの世界に自分がぶち込まれたムショのためになるようなことしてやろうなんて、ましてや収益を増やしてやろうなんて思ったりするやつがいるのか。
そんなん考えるのは頭クルクルパーだけ。
きっとネギーニョじいさんの目にはおれが痴呆の第一段階に入ったと思ったことだろう。
でもね、おれは正気ですよ。
ただ、このままじゃいかんと思っただけ。
だって、さっき運動の時間がやってきたんですけど、その運動ってのが井戸の底みたいな部屋に連れていかれて、その丸い壁に沿って、ちんたら歩くことだけなんですよ。
空を仰げば、丸く切り取られたちっぽけな青空。貞子もこんなふうに空を見上げたのだろうか。
刑務所側の言い分ではこれで日光浴と運動の両方を行い、健康に配慮したことになっているのだが、でもここにいる連中って自分の嫁を殺して食べたとか、人間の顔がおせんべいみたいになるまで踏みつけたとか(注:カサンドラ・バインテミリャ)、男を逆さづりにしてその下で火を焚いて顔をあぶり煙で窒息させ死ぬ直前に魚釣り用のナイフで腹を裂いたとか(注:ガエタノ・ケレルマン)、これまで切り取った耳を蒸留酒に漬けてコレクションしているとか(注:フェリペ・デル・ロゴス)そんなんばっかなんすよ?
そいつらを薄暗い穴倉みたいなところに鎖でつないでぐるぐる歩かせても、その狂気が深まるだけでちっとも世のなかのためになっていない。
そりゃ現実の刑務所だって、日本は例外だけど、ほとんどの国は普通の犯罪者を凶悪な犯罪者に変えて釈放するようなもんだけど。
「入浴開始。囚人は廊下にて整列せよ」
さてと、お風呂に行きますか。




