第二十一話 農場主、したたか。
別に意図して隠したわけではないのだが、ビフテキ・プランテーションの主アッカラムが言わなかったことがある。
というのも、クレオたちが来る一時間前……。
――†――†――†――
「わしのビフテキの実を狙った極道どもが!」
「待ってください。おれたち、そんなつもりはなかったんです」
「そうだぜ、じいさん。だいたいあんなところに実をつけてるのが悪い」
「この野郎、減らず口叩きやがって。おい、フィヒター! このガキ極道はお前の親戚か?」
「違うよ。僕はギルド長に言われて、彼らについていっているだけだ」
「信じられないな。信じてもらいたかったら、ザンガ団を撃滅してこい。ほら、これを着ろ」
――†――†――†――
と、いうことがあった。
パーティひとつ送るよりはふたつ送ったほうがよりザンガ団の滅亡が確かなものになる。
だが、パーティをふたつ送るよりは三つ送ったほうが確実性の問題はよりダイナミックな次元において解決を見る。
――†――†――†――
「殺すぞ、ガキども!」
「ぶっぶー。だめです。イケメン暗殺者に生まれ変わってから――(さくっ)――ぐふっ」
「お、お前、自分の仲間を簡単に――」
「ちょっと死んでいてもらったほうが誤解が解きやすい。おれたちはあんたの作物を盗む気は毛頭ないんだ」
「そこまで情け容赦のないやつなら、できるかもしれん。お前たち、ダンジョンを冒険している以上、クエストは受けるんだろ? じゃあ、わしのクエストを受けてもらおう。いいか、まず、ザンガ団という盗賊どもがいてな――」
――†――†――†――
これは三時間前の出来事だ。
頭にナイフが刺さった少女は生き返ったわけだし、連中もきっとやってくれるだろう。
アッカラムは満足だった。
彼は農園の半分を渡すとかそういった血の涙が出るような譲歩なしにザンガ団を滅ぼさせるという重要な契約を結んだのだ。
しかし、三つ送るよりは四つ送ったほうがもっと確実になるなと思ったときだった。
どさっ。ずる、ずる……。
何かが力なく這ってくる音がきこえた。
ゾンビだろうか?
だが、ゾンビが生まれるには多少の水分が必要だ。
砂漠はゾンビの発生要件を満たしていない。
砂漠でゾンビは生まれない。ミイラだ、生まれるのは。
ずる、ずる……。
静かにクロスボウを取り、炸薬ボルトをつがえる。
「ゾンビか何か知らんが、わしのビフテキの実を狙ったのが運の尽きだ。――くたばれ、ゾンビども!」
クロスボウを腰だめに構え、農道へ飛び出す。
だが、そこには誰もいない。
ゾンビというものは立たずに四つん這いになって動くこともあることを思い出し、もうちょっと狙いを下げる。
ぐ~、ぎゅるるるる~。
アッカラムは世界最高峰の暗殺術を持つ少女四人が栄養失調で目をまわしているのを見つけたのだった。
――†――†――†――
「ガツガツガツ!」
「うまっ! うまっ!」
少女たちは最初、ビフテキのにおいを嗅いで、力なく手を振って遠ざけようとしたが、これはビフテキそっくりの味の木の実だから、ビフテキほど太らないと説明すると、ひとり十枚、ビフテキの実を平らげた。
いくら何でも食べすぎだし、どんなものでも食べすぎれば太るという意見は胸にしまい、このパーティをザンガ団にぶつける四つ目の砲弾にできるかどうかを慎重に見極めることにした。
なにせ、この少女たちは飲まず食わずでこの地下四階まで下りてきたのだ。
腕は間違いないだろう。オツムはちょっと、アレだけど。
「ふむ。そうか。痩せるためにダンジョンを冒険していると」
アッカラムの問いにマリスがこたえた。
「そうなんだけど、ここの魔物弱すぎて話にならない」
「弱すぎる? ここに来るまでどんなやつに出会った?」
「一つ目の巨人」
「おっきな狼」
「二本足で走る鳥の赤いやつ」
「大きなお猿さんにも会ったのです」
「そいつら、みんな下層階から迷い込んだ強敵だぞ」
「仕方ないでしょ。弱いんだから」
「わしは手強い敵を知っておるぞ。そいつと戦うと間違いなく百キロ痩せられる」
「そんなに軽くなったら、アレンカは空気の妖精さんになるのです」
「どうやっていくの?」
――†――†――†――
そんなやりとりがあったのが、三時間前。
外の砂漠からは爆音がいくつもきこえてきている。
どーん、どーん、と。
アッカラムは陶器のパイプに煙草を詰めた。
彼の農場経営において、タチの悪い害獣が厄介な客人を押しつける形で消えてなくなろうとしている。
見事な丸い煙の輪を出すと、遠くで滅んだ盗賊の要塞の断末魔が轟音となって響き渡り、輪が歪んだ。




