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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ アサシン・グルーピー編
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第二十話 アサシン、換金作物の国。

 しばらく魔物もザンガ団の姿もなく、砂で擦り切れた古代の石畳街道をたどる旅が続いた。

 ダンジョンの空間の歪みのなかに歴史があるとすれば、相当高度な文明があったことをうかがわせるものがいくつかあった。


 浮遊する六面体の石を納めた礼拝堂や碑文から分かる高度な行政組織の名残。


 だが、明るく茂った大森林を見つけたときはいくら何でもと目を疑った。

 片方の地平を埋め尽くすその植物は見たことのないただ一種類の樹からなっていた。

 椰子に似ているが葉が大きくて分厚く、高い場所の樹皮がいい加減にほぐした繊維のようになっている。そして、その実は赤く平らで大きい。


 この謎の植物は無秩序に生えているわけではなく、採算性を考えた大農園のように樹の成熟の度合いによってきちんと区画で分けられていた。


「ふうむ」


 実家がベリー採集農家であることから、このなかでは最も農事に詳しいと自負しているクレオが言った。


「これは換金性の高い植物のようだね」


「なんで分かんの?」


「一種類の植物だけを狙って育てるのは難しいんだよ。絶対に雑草が生えるし。そうしたものがまったくないということは誰かが手間をかけて、この植物だけを残している。つまり、この植物はお金になるわけだ」


 神経質な測量士の仕事らしい植物の区画分けは見事なもので、十字路に立つと、それぞれ東西南北の芳香に砂漠の地平が見えた。


 そのうちこの換金植物になる実はおいしいのかどうかが議題に上がった。

 その赤みは熟したカカオに似ているが、樹はバナナの親戚のようだ。


「じゃあ、チョコバナナか?」


「ぷっ」


 ヨシュアとリサークがこの日何度目になるか分からない殺し合いを始め、トキマルとクレオはとりあえず樹に登り、実をもぎ取ってみることにした。

 手鉤をはめて半分ほどよじ登ったところで何かが風を切って、ふたりをかすめた。そのなにかはそのまま空へと高く飛んでいき、閃光と爆音、オレンジ色の火の玉となって、数秒間、太陽の舎弟になった。


「そこを動くんじゃねえ、この泥棒ども!」


 見れば、ターバンを頭に巻き馬に乗った白いヒゲの老人が鐙のそばの掛け金にクロスボウの先をひっかけて弦を引き、次の矢を装填しているところだった。


「泥棒とは失礼な。わたしたちはアサシンです」


「じゃあ、もっと始末が悪い。誰がお前らをよこした? 誰がわしのビフテキの実を暗殺しろと頼んだ?」


「誰にも。わたしたちは自由意志でここにいるのです」


「クソッタレた冗談言うんじゃねえ。お前らアサシンが何のために生まれたか教えてやる。誰も言わないだろうから、このアッカラムさまが教えてやる。お前らはギルドに売られて、殺しを仕込まれて、ギルドに始末されるまでひたすら殺し続けるんだよ。だが、わしのビフテキの実を狙ったのが運の尽きだ。お前ら、全員爆死させてやる」


「だから、おれたちは自由意志でいると言っているだろう」


 正確には違う、とクレオ。


「僕らはそこの少女に依頼されて、ザンガ団の頭目を暗殺するためにやってきたのです」


「ザンガ団?」


 老人は炸薬装填のクロスボウを右手で構えたまま、馬の腹を蹴って、少女の前までやってきた。


「なんでザンガ団の頭目を殺したいんだ?」


「父を殺された」


「お前らがカンパニーの差し金じゃないって証拠はあるか?」


「ないわ」


「おれたちはそいつらと絶賛プチ抗争中」


「あいつらとの付き合い方はふたつにひとつ、やつらの軍門に降るか、全面戦争か。プチ抗争なんて中途半端はありえん」


「でも、事実。沼でもめたり、新しい麻薬流されたりして、いろいろある」


 老人は日焼けした真っ赤な顔を奇妙に歪ませてから「まあ、しくじっても死ぬだけだ」とつぶやいてから、


「ついてこい。ビフテキの実をごちそうしてやる」


 そう言って、少女と彼女に雇用された四人の最高クラスの暗殺術の使い手に背中を見せた。

 特に投げナイフを放つ理由もないし、しくじっても死ぬだけなのでついていくことにした。


 しばらくは頭に載せた白い布で砂漠の太陽を緩和させていたが、今すぐにでも屋根のある場所に行きたくなった。

 そもそも、ここの換金作物の樹は道に影を垂らさない。

 かといって、樹のあいだを通ろうとすると、アッカラムは怒った。


「そういえば――」


 と、クレオ。


「クックック。思い出したよ。僕たちをしつこく嗅ぎまわるカンパニーのスパイがいたから、ボスの命令でそいつを太陽が厳しいことで有名なアンラゴーサの荒野に首まで埋めてやったんだよね」


「ミツルは恥ずかしがり屋だな。おれに頼めば、もっといい拷問ができた」


「わたしなら足の裏の肉を切り取って、荒野を歩かせた」


「おれなら巻き上げ機にそいつを結びつけて体を二倍に引き伸ばした」


「わたしなら――」


「どーでも。で、そいつ、どうしたの?」


「埋めてから二十四時間後に解放するって約束したんだよねえ。ククク」


「それ、いつの話?」


「一週間くらい前。あいつ、生きてるかな? クックック」


     ――†――†――†――


 アッカラムの家はビフテキ樹の森のなかに切り開いた場所にあった。

 熱帯樹の円天井の下、固めた白い土を固めた小屋のそばにはグリル台があった。

 そこに火をおこして、ビフテキの実を金網に並べるとじゅうじゅうと油が火に垂れて音を鳴らした。


 アッカラムに言わせればビフテキの実は彼が三十年かかってつくった新種の植物で、食べればビフテキのような味がするし、搾れば上質の灯油が出る。


「人類の未来だ。照明と食料を同種の作物で解決できる」


「その人類の未来がなんでダンジョンにいるの?」


「カンパニー、あのボケども。わしのビフテキの実よりも獣脂蝋燭を売るほうがいいと思って、わしを追放した。ときの支配者が新しい発明に嫉妬してもみ消すのはよくあることだが、やつら、あそこまで馬鹿だとは。やつらはわしがどこかで野垂れ死にしていると思っているだろうが、この通り、わしは帝国をつくった。この厳しい環境がわしのビフテキの樹を強くする。ずっとうまくて、ずっと油が搾れる最強のビフテキになったのだ」


 少女を除く全員の頭に来栖ミツルが浮かんだ。

 地上ではカンパニーによって禁制品扱いされたビフテキの実の密売組織をつくれるのは来栖ミツルをおいて他にはいない。


「頭領なら売れるね、この実」


「わしもこの実を外に売ろうとしてはみた。だが、やつらが妨害するんだよ」


「やつらとはザンガ団のことですか?」


「あいつらの頭目のレイゼンフェールとかいうやつはカンパニー絡みの実験で好き放題やって、ここに逃げてきた。あのゴロツキのクズ。カンパニーに追われたこともあって、最初は好意的に見てやったが、あいつらはわしの実を盗み、ここで人殺しと盗人を働いている。自作農民の敵だ。あいつらをぶち殺すなら、協力してやってもいい」


「ふうん。母さんもカラスにベリーを食べられて大変だっていうけど。第一次産業は害虫退治が大変だ。ククク」


「それでどうやって協力するというのだ?」


 ふん、と笑うと、アッカラムは家のなかから大きな包みを持ってきた。


「夜逃げするのにちょうどよさそう」


「ザンガ団の本拠地はレイゼンフェールの魔法で蜃気楼のなかに隠れている。そこへ行くための扉を開けることができるのはザンガ団の幹部クラスだ」


 包みを開く。

 白い仮面、赤い衣装、歪んだ短剣、指揮権を任されたものに渡される短い杖が転がり出てきた。

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