次なる戦いに備えて……えっ、面接!?
休日に呼び出しを受けた"魔法少女(略)"たちは、博士の研究所でおしゃべりや宿題などをして憩う。彼はお茶と菓子を出し、勉強を教えてあげたのち、思い出したように本題を語り始めた。
「そういえば、君たちに大切な話があったんだった。カーレル・シズネ町を防衛し続けるために、どうしてもやってほしいことがある」
「先に言いなさいよ! そんな大事な話なら、なんで今まで忘れてたの!?」
「えっ! これ、勉強会じゃなかったの? 博士が宿題見てくれるって言うからてっきり」
「私も……」
「もちろん学業の手助けには喜んで応じるよ。でも、いつ強い獣が襲ってくるかわからない。町を防衛する者として、そろそろ次の段階に進んでいかないと」
準備は整っているよ、と博士はさっそく行動を開始する。
エイプルはきらきらと目を輝かせ、反対にメイとオーガスタは困ったように、顔を見合わせた。
「えっと……新しい武器の、支給とか……?」
「わかった、強化合宿でしょ! これからの戦いに向けて特訓を考えてくれたんだ! やったあああ、みんなとお泊りだ! そうだ、リーネちゃんも誘っていい?」
「あなた、強化合宿の意味わかってるの? みんなと一晩中遊びたいんだったら、別の日にしなさいよ!」
「じゃあ来週のお休みに、私の家に集合ね! メイちゃんもおいでよ!」
「え……私も、いいんですか?」
「そうじゃないって……いや、襲撃のない日は遊んでかまわないんだけど、僕の用件は合宿や特訓じゃない。君たちが任務に相応しいか、あらためて適性を確認したいんだ」
楽しいおしゃべりを申し訳なさそうにさえぎって、博士は少女たちに協力を呼びかける。
彼は、書類と筆記用具を手に立ち上がって、奥の小部屋を指し示した。
「……というわけで、今から面接をするよ。順番に一人ずつ部屋に入って」
「えっ、面接!?」
◇ ◇ ◇
小さな部屋で向かい合う博士とエイプル。ここの卓上にも、お茶とお菓子が用意され、少女たちが本音を言いやすいよう配慮されていた。
「ここで話した内容は他言しないよ。どんなことでも話してくれ。戦闘に対しても悩みや、相談も受け付けるよ」
「は、はい……って、えへへ。あらたまって話すのって、なんだか緊張するね」
「固くならなくていいよ。普段と同じように答えてくれ。さて、エイプル。君はカーレル・シズネ町を守ることに迷いはないかな? 戦いを嫌だと思ったりは?」
ないよー、とエイプルは、砂糖たっぷりのお茶を飲みつつ答えた。魔道具との融合が事故だったとはいえ、彼女の町を愛する気持ちは強く、"黒き獣たち"と戦うことにも疑問は抱いていない。
「そういえば、君は一匹も獣を殺してないね。攻撃はするけど、全部生け捕りにしたのはどうしてだい? いやあ、獣の生態が研究できるから、僕としては助かっているんだけど」
「ええと、あの子たちは何だか……心があるというか。深い感情を持って、行動してるように見えたの。魔法が使えるにしても、普通の動物だったら、絶対にしないようなことするし。不思議だなあって考えたら、なんだか傷つけたくないなって思うの」
これまで出会った獣たちを思い返して、エイプルは静かに言う。感じたことがうまく表せず、うんうん唸っていたが、その思いは博士にもしっかり伝わっていた。
「そうか……前々から思ってたけど、君は本当に優しいんだね」
「ダメなことなのかな? オーガスタちゃんも言ってたけど、獣は敵で、情けをかけたらひどい目に遭うんだって。なるべく傷つけたくないって思うの、変かな?」
「いいや。君は君のやり方で行動したらいい。この町を守ってくれているだけで、けちのつけようがないよ。獣の生死についても悩まないでくれ。戦う力はないけど、僕も大人だからね。責任は取るし、大事な時は、何としてでも君たちを助けよう」
「うん。ありがとね、博士」
面接終了と告げられ、エイプルはすっきりした顔でお辞儀をする。心のもやが、きれいに晴れたよう、感じていた。
「やっぱり話してよかった! ありがとう。博士も優しいんだね!」
その一言に対し、博士ははっきりとした口調で、そんなことはないよと返した。
次に呼ばれたのはオーガスタ。優雅に鎮座する姿は華やかで、お茶を飲む仕草一つ一つも、絵画のように美しい。
しかし博士は、彼女の美貌や力強い視線もまったく意に介さず、質問を読み上げる。
「戦う理由ですって? そんなの、英雄として当然の責務だからに決まっているでしょう? 魔道具に選ばれしわたくしはこの町、いえ、世界すら救う使命を持っているのです!」
「反省の気はない、と……何度も言っているけど、君のやったことは泥棒だからね。謝罪もないようなら、ご両親に連絡を取る以外ない」
「待って待って、なんでお父様とお母様に言うつもりなのよ? 正体が知られては戦いづらいじゃないの!!」
「わからないなあ。人のものを取ったらいけないって、教えられなかったのかい?」
部屋で繰り広げられるのは面接というより尋問。オーガスタは研究所から玉石を盗み出したことから、魔道具と融合した。彼女の家に伝わる宝だったとはいえ、現在の所有者に対価も払わず、勝手に持ち出すのは窃盗だ。
反省を促すため、町防衛の任務に従事させているが、それもまた本人の誤解を増長させている。
「"魔法仕掛けの集落防衛機構"……いや、少女。略して"魔法少女(略)"を秘匿しているのは、君たちのためなんだけどね。自警団の集会では、獣と戦う少女たちを不死者"騎士"の仲間だと説明してある。難しい任務を背負わせちゃったけど、その態度はないんじゃないかなあ」
「なによ! わかってないのはあなたのほうじゃない!! わたくしは英雄なのよ、本当なら伏して功労に涙するものでしょ!?」
「戦ってくれるのはありがたいよ。だけど、泥棒は泥棒だし……そうだ、玉を持ち去ったことだけご両親に話そう」
「えっ!? ちょっ、ちょっとねえ! やめてよ、お父様とお母様には言わないでえええ!」
高圧的な振る舞いは消え去り、博士にすがりつき、家への連絡を拒むオーガスタ。勇者であることを盾に、窃盗の罪を見逃すよう喚く。しまいには戦ってあげないわよ!? と本末転倒な発言も見られた。
「働きに免じて、宝玉を譲るつもりではあったけど……なんで盗んだことを謝れないんだ、君は……」
甲高い懇願の声を浴びながら、博士はため息まじりにぼやく。
最後に入室したのはメイだ。物静かな彼女は、小部屋に入ってから、より委縮した様子であった。卓上のお茶やお菓子にも手をつけられない。
博士からの戦う理由や、現状の思いについての質問にも、やや上ずった声で答えていった。
「……うん、戦闘技術や精神面でも問題はないね。三人の中では最も戦いに適性がある。まあ、君の前職の影響もあるんだけど」
「はい……博士。あの、ありがとうございます」
「ほかに気になってることはないかい?戦闘じゃなくて、普段の生活においても、悩みがあるならなんでも言ってみてよ。僕にできることなら力になろう」
質問以外の言葉を投げかけられ、メイは数秒、視線をさまよわせた。
エイプルたちにも言っていなかったが、彼女にはずっと気になっていたことがある。
「あのう、博士……私は、"何者"なんですか?」
博士は微笑みをやめる。真剣な表情となって、片眼鏡に手をやり、灰色の瞳をメイに向けた。
「私は……孤児、だったところを暗殺組織に拾われて……戦闘の訓練を受けて、育ちました。戦いの才能があると言われて、組織の最終兵器とも呼ばれてましたが……みんな、どこか私を恐れていたような……」
「君は、確かその組織が摘発されたあとに、ミモザさんちへ引き取られたんだっけ」
「はい。エドラ首都で偵察をしていたとき……ミモザさんご夫婦が、強盗に襲われているのを助けて、それが縁で引き取られたんです。捕まって、市中引き回しの際に、お二人に見つけてもらえなかったら……収容所に送られるところでした」
血生臭い世界から脱し、普通の少女としての生活を手に入れたメイには、今の暮らしが輝いて見えた。"獣たち"と戦うはめになっても、必要とされることは嬉しい、みんなの助けとなれることを幸福に思っていた。
だが、生きる場所を変えても、満ち足りた生活を得ても、胸にある正体不明の焦燥が消えることはなかった。
魂の奥底で声がする。
"悲願を達成しなければならない"
"破魔の青をその手に宿せ"
"集え、母なる源流の地へ"
物心ついた時からずっと、メイは自身の在り方に違和感を抱いていた。
「私には、行かなければいけない場所がある……そんな気がするんです」
「メイくん。だって君は、そんな……」
「博士は……何か知ってるんじゃないですか? 私が組織の人から怖がられた理由も、心当たりはないですか? 私の正体も……わかりませんか?」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって博士は……私が、はじめてここに、あいさつに来たとき……とっても驚いてたから。あと、まだ名乗ってなかったのに、私を"別の名前"で呼んでいました」
それは、メイがおつかいを頼まれ、研究所にやって来たときのこと。
はじめて博士と顔を合わせた瞬間、彼は手に持った魔道具を取り落とし、血相を変えて彼女に駆け寄った。
メイはとっさに魔道具を拾ったため、使い手と登録されてしまったが……問題なのはこの直後に、博士が発した言葉の方だ。
「君は……"メイガン"、かい?」
博士は返答に窮し、うつむいたまま黙っている。考えを整理するというより、自らのうかつさを悔いるような風情だった。
「どうして……答えてくれないんですか? 博士は、私のことについて、何か知っていますよね……?」
「ごめん。ちょっと今は答えられそうにない」
「お願いします、教えてください……! 答えてくれそうな人、博士しかいないんです。私は、"誰"なんですか!? "メイガン"って……なに?」
「本当にごめん、そうじゃないんだ。間の悪いことだけど、さっき僕の"陣"が、獣の来襲を感知した。三人でいっしょに出撃してくれないか? 君自身の問題のことは……そのあとで話そう」
急な討伐要請を受け、メイは我に返った。顔を伏せたままの博士に、小さくごめんなさいと言い、仲間たちのもとに向かう。
立ち上がらぬ博士を振り返り、彼女は無垢な紫の瞳を、静かに瞬かせた。
◇ ◇ ◇
木陰に潜む獣を視認し、エイプルは素早く魔道具を発動した。めらっと状態変化した彼女は、黒い影の頭上に魔法を放つ。
爆音と火花を浴びた獣は、音もなく消滅するも、新手が次々に湧いて出る。実体なき幻影の狼……"影狼"だ。
「"赤玉一号"!! んん……あれ? 前は、この魔法で逃げていったのに」
「獣を甘く見ないでって言ったでしょ? あなたたちが戦ったのと同じ個体ってことね。同じ手は通用しないみたいよ」
「それっ"二号"! "三号"!!」
「エイプル! このおばかっ、あなたに学習能力はないの!?」
何度火球を爆発させても影狼は撤退しない。自身を燃やすつもりのない炎を、恐れる理由はないのだ。
場を眺める博士は、影の群れを率いる本体を探していた。その個体を見つけさえすれば、攻略は容易だろう。群れの長は、まだ生後半年もない、片手で抱きかかえられるほどの子犬であった。
「いた! 向こうの岩の上にいるのが本体だ!」
「姿さえ見えればこっちのものよ! いくわよ、"白金閃光脚"!!」
オーガスタによる蹴り上げの一旋は、稲妻の軌道を描き、広範囲を攻撃した。影は一掃されたが、またしても新手が来る。
発現されたのは一匹だけだったが、大きさが規格外だ。狼としての形を逸脱し、黒い小山と思わせる巨体。色も他よりはるかに昏い。
キャンキャン吠える子犬に応え、巨狼は咆哮のち、前足で少女たちを襲う。
攻撃は地面を深く抉った。彼女たちは避けたが、配置が二分されてしまう。
「わ、私が本体を追います! どうかそれまで時間を……!」
「そうね、わかったわメイ。今回はあなたに譲ってあげますわ」
「ありがとう! がんばってね、メイちゃん!」
本体を追いやすい位置にいるメイが追跡を開始する。残る二人と博士は、巨狼を抑えにかかった。
火球に乗るエイプルや、空を駆けるオーガスタのような、魔法による移動方法はメイにない。ただ全力疾走で幼獣を追う。
攻撃の手段がないわけではなかった。メイの水魔法、特に"水弾"は狙いも精緻で、遠距離まで撃ち貫く。的は小さいが狙撃は不可能ではなかった。
けれど、彼女は迷っていた。
「どうして……あなたはひとりなの?」
たとえ変異したとしても、群れで行動する習性は消えないはず。しかし、実体ある狼はたったの一匹。しかも子どもだ。
その姿に、自身を重ねて見てしまう。
「お母さんはいないの? お父さんは……?」
子犬は前に遭遇した時より痩せている。淋しいその背に切なさをおぼえるも、メイはどうしていいかわからない。殺す、傷つける以外の選択肢が思い浮かばない。
迷いは隙へと繋がった。"影狼"の長は、成犬の影を二つ喚び出す。
一匹は本体を優しく守り、もう一匹は彼らを庇い外敵を威嚇する。これは在りし日の、親子の幻影だ。
家族を知らぬメイに、この尊い光景を壊すことはできなかった。
喉笛に牙を受ける刹那……痛みより先に、激しい灼熱と爆発音を聞いた。エイプルの突撃だ。
"彼女自身が火球となり"、巨影を貫通して、メイの危機に駆けつけたのだ。
「エイプルさんっ……!」
「メイちゃん行って!!」
幻影は解かれた。子犬は孤独に戻る。
いまだ対処しあぐねるメイに、額に土つけたまま、エイプルは叫んだ。
「はやく、抱きしめてあげて!」
はじめて得た、他者を害す以外の手段。この瞬間、メイの迷いは晴れた。
だが実行に移す前に、オーガスタの雷撃が巨影を通り抜け、二人に降り注いだ。
「迷いがあるようだったね」
「博士、私は……」
「悩みを抱えたまま戦うのは酷だ。いいよ、"メイガン"について教えよう」
"影狼"は逃走に成功した。怒り狂ったオーガスタが反省会を呼びかけるなか、メイと博士はひそかに集まり、面接の続きをする。
「君はね、聖泉の民なんだ」
紫の瞳、戦闘に特化した身体能力、好戦的な思考を持つこと……民族の特徴に当てはまっている。
「"メイガン"とは、聖泉の民が故郷を出た時に使う名前だ。彼らは凄腕の傭兵として、世界各地を旅し、武名を響かせている……本来なら、郷の外で子どもを作ることはないんだけどね」
「その人たちは……どうして、旅を?」
「郷土信仰の一種で、彼ら一族は故郷にある泉を、"聖泉"と言って讃え、そこに捧げるものを探しているんだ。そして君も、その血を引いている」
「捧げものを探す人が、メイガン?」
そうだね、と博士はやわらかく言った。
「きっと暗殺組織の人間は、まだ覚醒していない君に、半分だけの通り名をつけたんだ」
ゆえに"メイ"。半人前の戦士として、組織の者らは彼女にその名を与えた。最強の暗殺者として期待をかけるのと同時に、いつ組織に牙を剥くか、恐れられてもいた。
メイは打ち震えながら空を仰ぐ。紫瞳を見開いて求めるのは……青だ。
根拠のない仮説だとしても、彼女はこれが真実だと確信する。細胞が沸き立ち、血が歓喜しているのだ。狂おしいまでに源流を求めている。
"聖泉"を見れば、彼女は本物のメイガンとして覚醒するだろう。
ただし、それが幸せなことなのか、博士には答えが出せなかった。