メイとジュディのないしょ話(死闘編)
カーレル・シズネ町の夏祭りが近づき、住民たちは期待と準備に浮足立つ。この行事は町合併による風習の統合と親和を表すものだ。ゆえに絶対成功させようと、皆は意気込んで各々の仕事に励んでいた。
楽しげな喧騒に合わせて、ひとりの少女が友人の家の扉を叩く。
「メイちゃんさーん、遊びにきたっすよ! こんにちはー! こんにちはあああああ!!」
「うるせええええ!!」
客人の来訪に、ラリィは怒気を隠さず対応した。ほぼ同時に、彼の義姉メイが顔を出す。
義姉弟は昼食後に剣術の鍛錬をするつもりだったが、予定はジュディの襲撃により、変更を余儀なくされた。
「急に押しかけて悪いとは思ってるっすよ。でもやっと都合がついたんです! メイちゃんさんには、ぜひとも、わたしの居候先にきてほしいんす。ちょうど今、博士も自警団の集会に行ってて留守ですし」
「わ、私も……ジュディさんとは、一度……ちゃんとお話ししなきゃって思ってました。あと、呼び名は"メイ"だけでいいです……ごめんね、ラリィ君。戦闘訓練は夕方になってからでもいい?」
「はああ!? なんだよそれ! ちっ、しかたねーな。あんま遅くなるなよ、メイ姉」
「うん! ありがとう……じゃあ、行ってくるね」
「おっと、そうだ。おめーに渡すものがあるんだった」
歩き出しかけた少女たちをラリィは引き止める。義姉は何事かと首を傾げるが、用があるのはジュディの方らしい。彼は家に戻って数秒後、木箱を抱えて走ってきた。
中身を確認した彼女は、途端に笑みを消し、冷めた目でラリィの反応を伺った。
「おめーが町の前で行き倒れてた時に、押収したブツだ。ウェザーから今度会ったら返すよう言われてた……一応言っとくが、俺たちはそいつの中身や、おめーの素性について聞くつもりはない」
「ふーん。でも、そんなに簡単に返していいんすか? キミたち、わたしがどういう人間で、これが何に使うためのものか、わかってるんすよね?」
「ああ。おめーが危険な女だってのは知っている。だが、悪いことはできないんじゃないのか? ウェザーはこうも言っていたぜ……"お嬢様は、おめーのことを心から信じているのに"って」
釘をさすような物言いに、ジュディはひくりと喉を震わせた。彼女がどんな目的を持つにしても、オーガスタからの信頼には逆らえないようだ。この反応が何よりの証拠。ウェザーの考察は正しかったと、少年は感心した。
早く行くっすよ! と、彼女はわざと明るい声を出し、メイを連れて研究所に向かった。
「ラリィ君の言ったこと、気にしてる……?」
「そんなこと……ないっすよ。いやあ、この町のちみっ子諜報部員たちはすごいっすねえ! 空腹で極限まで弱っていたとはいえ、わたしを縛り上げられるし、なんか正体にも気づいているっぽい! 本当にやばいっすよ、ここ」
「……私には、よくわからないんですけど……普通と違うんですか?」
「普通だなんてとんでもない! 町歩いてても手強そうな人けっこういたし、おまけに不死者まで住んでるとは……でもね、わたしが一番驚いたのは、あなたがいるってことですよ……メイちゃんさん」
メイだけでいいです……そう言おうとし、ジュディの顔を振り向いたが、彼女は研究所前で静止した。
ただ、熱のない碧玉の瞳でメイを見ている。
「最後に会ったのは、三年前の組織間抗争のときっすよね。あなたの担当が陽動だけだったとしても、その戦いぶりに、わたしたちは大いに絶望したものっす」
「私も……こんな形で再会するなんて、思ってもみませんでした。その……"まだ生きていた"ってことにも、びっくりしました。やっぱり、この町には……任務のために来たんですか?」
若干の不安を込めて、元暗殺者の少女は訊ねる。
個人的にメイは、博士がこの彼女を"魔法少女(略)"にしたのは、間違いだったのではないかと考えていた。
「だって……ジュディさんは、殺し屋でしたよね?」
◇ ◇ ◇
"肉壁七番"。それが、メイの知る彼女の呼び名であった。
ジュディは、殺しを請け負う組織において、集められた孤児、奴隷たちのひとり。仕事を効率よく達成するために用意された"消耗品"である。
幼くして組織入りした彼女は、投薬と暴力により恐怖を感じぬよう洗脳され、自滅的な殺人を手伝わされていた。
兵器として扱われたという点で、メイとジュディは同じだ。しかし、メイが鑑定書つきの名剣だとすれば、ジュディは使い捨ての付け焼き刃。今までの任務で生き残ったのは強運と言うほかない。
現状、平和に生きているとはいえ、過酷な世界で生まれ育った二人である。他の仲間たちとは相容れない、"歪み"を抱えていた。
「そんなわたしたちが! なにやら"魔法少女(略)"というやべえ力を手に入れて! おとなしくしていられるわけないじゃないっすかああああああ!!」
「だ、だからって……私と全力で戦ってみたいっていうのは、ちょっと……」
「大丈夫っすよ! 鍛錬ですってこれ。ほらほらぁ、とってもいい場所があるじゃないすか」
家主のいない研究所をジュディは我が物顔で歩く。向かう先はメイにも見当がついた。研究所地下、捕獲した獣たちを収容する大森林だ。
不死者"博士"が、膨大な魔力を費やして作った空間は、獣の生態研究のため、自然と変わりない環境となっている。また、彼の魔力があれば、中の森林はいくらでも元通りに再構築できる。
つまり、思う存分暴れても、支障ないということ。
「ごめんね……獣さんたち、今日は遊びにきたんじゃないの」
「みんなー! ちょっと場所借りるっすよー! おっと、"影狼"! ダメっすよ、今は"本物ど~れだ?"遊びはできないんす」
「えっとね、この野原から先に出ないでね……命の保証はできませんから」
上下移動する箱のような小部屋、昇降機を出れば、獣たちがメイとジュディのところに寄ってくる。世話をするジュディにもだいぶ慣れたようで、影狼でさえも尻尾を振って、到着を出迎えた。
けれど、今日はかまってやれない。胸に覚悟を秘めたような少女たちの様子に、"激走透過狸"だけは、不思議そうに首を傾げた。
獣たちを避難させれば戦闘開始だ。二人は向かい合って魔道具を掲げる。
"魔法少女(略)"発動の光とともに旋風、雨雫が巻き起こり、少女たちを彩った。舞姫を思わせる武装を纏い、両者は瞬時に距離を取る。
肩を並べて戦ったときから、互いの攻法には注視していた。ジュディは風を、メイは水を司るが、二人はともに中、長距離での魔撃として使用している。今回の"鍛錬"でも、当初はそのように戦うだろうと、ジュディは予測していた。
なので、彼女は滞空する。
風を手繰って翼を編み、無制限の飛翔を強みにし、メイのいる地へ斬撃を降り注いだ。
「風切り、"斬森刃"!」
メイはおそらく、付近の木に隠れて、水弾による狙撃を行う。滑空し身を隠せないジュディを、地上から撃墜するつもりなのだ。しかし、それすらも見越して、ジュディは手始めに周囲の木々を粉砕する。
森ひとつ薙ぎ斬る、高威力の風刃を発現。林ひとつを微塵とするも、この程度でメイを撃破できるとは考えていない。
組織の者から伝え聞いていた。幼くとも、気弱なれども、彼女は"聖泉の民"。世界に名高い、最凶災厄の戦闘民族なのだ。
「ジュディさん……本気なんですね」
水魔法"水晶の箱"の中から、メイは碧色の羽衣を見上げ、呟く。初手だけでジュディは多くの思いを伝えてくれた。
これが鍛錬とは名ばかりの、正真正銘の死闘であることと、自身についてどれほど恐れを抱いているかを。
「でも……あなただって、とっても危険な存在じゃないですか……」
裏社会で聞き知った"教育"を彼女が受けていたとしたら、決して見過ごしてはおけない。
どんな手を使っても命令を実行する装置、それがかつてのジュディだ。今もまた、殺しの任務を携えていることは間違いない。
現に彼女は、オーガスタを探すために、この町に来たと言っている。
絶対に目的を聞き出さないといけない、メイは青の短剣を固く握りつつ思う。発現した水壁が攻撃に削られ、限界を迎えるまでの間、彼女は冷静に策を講じた。
風刃を防ぐ壁が破られると同時に、地表を霧が満たした。これもまたメイの魔法によるものだ。ジュディは攻撃魔法を止め、靄を払う旋風を巻き起こす。
霧隠れからの奇襲を想定し、新たな遮蔽物を排除しかけたが、ジュディは風の一薙ぎだけで、相手の姿を発見した。
メイは流された霧に飛び込まず、両手に短剣を持って立ち、自由に飛ぶジュディを堂々と見上げていた。まるで、隠れずとも仕留められると言わんばかりの態度だ。
「それほど狙撃に自信があるんすか……でも、そんな隙なんて与えないっすよ!」
ジュディは短期決戦に賭ける。実力差を身に宿した魔法で補い、必殺の風を吹かす。
しかし、再び風刃を降り注いでもメイは退かず、あろうことか不可視の攻撃をすべて躱してみせた。
「ふえええ、なんでっ!? 大気の流れが見えるんすか?」
風刃は凝縮した空気の塊でできている。気体が目に見えないように、ジュディの攻撃もまた視認できず、避けられないはずだった。
ありえない芸当を見せられ、ジュディはメイの実力に戦慄する。急いで潰さねばと焦り、攻撃範囲を広げるべく、接近して豪風を浴びせにかかる。
だが、メイの挙動はすべて誘い出しの罠。
ジュディが降下した瞬間、中途半端に流された霧の下から、氷の長槍が突き出された。危うく避けても、二本目、三本目と連撃で彼女を襲う。メイは自身を囮にし、霧の中にて"氷柱針の槍"を用意していたのだ。
ふいを突いた攻撃ゆえに、ジュディの逃れる道は限られていた。白い靄のどこから、幾本繰り出されるかも不明。警戒し、回避に集中して動いた。
それが、誘導されていたと気づいた時には、もう遅く。
氷槍を足場に、滑走してきたメイが、目前まで踊りかかっていた。
地表はすでにメイの支配下にあった。周囲はすべて、戦いに適した環境に整えてある。
風刃を躱せたのも事前の準備があったためだ。メイは頭上に、霧より薄い色の雲を張って、それの動きで斬撃の規模を確認していた。
手掛けた陣地にジュディを落とせば、それ以上戦うまでもない。メイの勝利は確定する。
ただし、地に敷いてあるのは柔らかい"煮こごりの青"。着地した彼女に突きつけた短剣も、とどめを刺す前に、水に戻った。
「どうして、こんなことを始めたんですか……死にたいんですか?」
「なんで……殺してくれないんすか、メイちゃんさん」
鍛錬を言い出した目的は、死闘の果てに自身を殺させるためだった。
これはみんなのために必要なことだと、ジュディは痛々しげに笑って言う。なぜなら……
「わたしは、お嬢様を殺害するために遣わされた、殺し屋なんですよ?」
◇ ◇ ◇
それは、簡単な任務のはずだった。
影ながら要人を弑す暗殺組織とは異なり、ジュディのいた組織は見せしめとしての惨殺が得意だった。敵対する相手方全体に、恐怖を与えるような所業を、多く行っていた。
標的はエドラサルム=ジ・エラの最高議長一家。娘のオーガスタが参加する慈善事業にかこつけて、組織は奴隷に扮した殺し屋を送り込んだ。
「今日からあなたは"ジュディ"よ! 物なんかじゃないわ、ちゃんとした人間なの!」
気位は高いが人の良い令嬢は、主人として厳しく接しながらも、少女の人間性を目覚めさせるべく、手を尽くしていた。
「いっけええええ! そこですわラムザロッテさまあああああ!! きゃあああああ、またあの方の勝ちですわ!! 見ていたでしょう、ジュディ? なにか心に感じるものはあって?」
変心の契機となったのは、隣国ルトワヘルムの闘技場に連れ出されたとき。ジュディはオーガスタとともに、若き剣闘士たちの試合を観戦した。
ろくに感情も見せない、命令に従うだけの元奴隷を、オーガスタはとても気にしていた。この遠出も、自我を目覚めさせるためにしたことだ。
「ジュディだけに教えてあげるわ。多くの群衆は、ラムザロッテさまが使う雷撃ばかり持て囃したり、二百年前に存在した大英雄になぞらえたりしているけれど、わたくしはね、本当の強さはそこじゃないと見ているの」
オーガスタお気に入りの少女剣闘士、ラムザロッテのことならジュディも知っていた。組織の殺害対象になっていた相手だ。
賭け事の交渉や八百長を決して受け入れない、扱いづらい闘士として、裏社会では有名であった。何度か刺客を差し向けたが、いずれも返り討ちにあっている。
構成員らは彼女の存在を忌々しく思っていたが、ジュディはひそかに、その戦いぶりに焦がれていた。
「あの方の戦いには、見ている人を鼓舞する力があると思うの。本当に、眩しい"光"みたいな人……あのような存在を、英雄っていうのかしらね。わたくしも、そうなりたくて武を磨いてるの。だって、"光"がもうひとつあれば、もっと世界は明るくなるでしょう?」
「ぁ……」
主人が語った憧れは、意図せずジュディの心を動かした。それは無知ゆえに言い表せなかった本心。
「わ、たしも……そう思う、っす」
かの剣闘士のような強さがあれば、今と別の道が拓けたかもしれない。彼女の生き様は眩く、潔く、自由や希望という概念持たずとも、見ているだけで伝わってくるようだった。
そして、英雄になりたいと言う主人からも、同じような光を感じた。
「たったそれだけのことで、わたしはお嬢様を殺せなくなりました」
「でも……ジュディさん。オーガスタさんの一族はもう、エドラの議会とは無関係です……それなのに、まだ命令は有効なんですか?」
「わたしの身も心も、その任務を達成するために調整されているんす。どれだけ殺したくないって思っても……何かのはずみに、お嬢様一家に剣を向けてしまうかもしれない……」
組織に帰還する方法など知らなかった。オーガスタの家族を害し、そのまま衛兵に殺されるか、捕まる前に自害するよう刷り込まれていた。
実行前にオーガスタの父が議長の職を辞し、見せしめに殺す価値がなくなっても、任務の内容はジュディに刻まれたままだ。
「だって、実際にわたしは、お嬢様のところへ戻ってきてしまった! いてもたってもいられなくなって、首都を飛び出してきちゃったんす!! あれは、心配だっただけじゃなく……もっと、別の衝動も確かにありました」
「ジュディさん、それは……」
「だから!!」
野原に座り込んで語っていたジュディだが、突如着衣の下から刃物を取り出す。
メイの青髪数本を掠めたそれは、先ほどラリィから返却された道具のひとつ。少年たちに捕まったとき、没収されていた暗器である。
丸腰のメイを斬りつけたのも、彼女に正しい行動を促すため。やはりジュディは、オーガスタの安全を確約するには、こうするしか思いつかなかった。
「あなたにしか頼めないことなんです! 今ので、わたしを殺す口実ができたでしょう!?」
「違います! 話を、聞いて、くださいっ……」
「わたしを止めるには! どうすればいいか! あなたならわかってるはずっす!!」
「……ジュディさんっ!」
再び死闘が開始した。今度は状態変化なしの、生身での攻防となる。メイが攻撃を紙一重で躱しながら説得を試みるも、ジュディは聞き入れない。
止めるには反撃するしかない。しかし、卓越した技能を持つメイの制止は、下手すればジュディに致命傷を与えかねない。
あくまで牽制のため、メイはやむなく手刀を繰り出す。通常なら軽くいなせるはずの攻撃だが、ジュディは避けなかった。
防ぐ気など微塵もなかった。はじめから、メイの手にかかって死ぬつもりなのだから。
決死の瞬間……見えたのは血の赤でなく、銀色の光。
ジュディを貫くはずの攻撃は、獣の魔法によって"すり抜けた"。
"やめたまえ君たち"
とでも言いたげに、"激走透過狸"は二人の間に飛び込んで、そのままメイにまとわりつく。彼女が地面に膝をつくまで、もふもふの毛皮をすり寄せた。
「ひゃっ! や、やめてください……きゃああ!! くすぐったい、です……!」
「ふわ~ダメにされちゃったっす~」
一方のジュディは、背後から"綿玉兎"たちに襲われ、ふわふわの体毛に包まれてしまっていた。
触り心地いい獣五匹に蹂躙された彼女は、すべての気力が削がれ、ただ野原に寝転がるのみ。
獣から見れば、彼女たちの行動は実に不可解なもの。ただ、あれらの行為がよくないものであることは感じられた。
なので、二人を止めるために、一番有効な手段を実行した。
「メイちゃん! ジュディちゃん!」
赤茶の髪が向かい風に翻る。傍目にも、"激走"と呼べるほどの勢いで、エイプルが駆けつけた。衝動そのままにジュディを抱きしめる。
「エイプルさん!? い、いつから……聞いてました!?」
「だって、町でラリィと会って、メイ姉の帰りが遅いって言われて……研究所に着いたら、この子が"こっちに来い"って……」
エイプルはすでに大泣きの状態であった。しゃっくりあげながらの状況説明を打ち切り、ジュディに縋る手を強める。
野原での諍い声は、彼女の耳にもしっかり届いていた。
「うわあああ! 死んじゃやだよ、ジュディちゃあああん! オーガスタちゃんがそんなの望むはずないよ!!」
「そっ、そう言ったって仕方ないじゃないすか! わたしみたいのが、生きていいはずないんすよ!! ケジメのつけ方に口出さないでください、あなたとは住む世界が違うんすから!」
「ううん、いっしょだよ! 同じ、カーレル・シズネ町に住む仲間でしょ!!」
「おっ、おお……確かにそうっすけど、そういうことじゃなくて……」
「昔、何があっても、今は私たちと同じ町で暮らしてる。こうやって手の触れる距離にいるよ。だから助け合おうよ! 私、ジュディちゃんに遠くに行って欲しくない!!」
そうです! と珍しく声を張り、メイも同意した。
ジュディの手を取って、誓うように告げる。
「もし、ジュディさんが暴走したとしても、私が止めてみせます……! はじめて会ったとき、感情のなかったあなたが、ここまで変われたんです。いつか、きっと……任務からも解放されるはずです!」
それとも……私じゃ、力不足ですか? とメイに問われれば、ジュディは首を振るしかない。
自暴的な結論に走る必要はなかった。エイプルもメイも、彼女の問題を受け止めてくれた。思ってくれることの喜びと優しさは心の刺激となる。
ジュディはまだ、より良い方向へ成長していける。
「二人とも、わたしなんかのために……ありがとう、ございます」
「あ、屋台だ! メイちゃん、ジュディちゃん、ちょっと待ってて。おやつ買ってくるね!」
メイとジュディの、途中からエイプルを含むないしょ話は平和に終結した。
帰路につく二人を送るついでに、いっしょに町を散策する。
「すごいっすよねぇ、あの人。誰に対してもああなんすか?」
「はい。すごく、優しい人ですよね……エイプルさんは」
「……でも、ちょっとおかしくないすか? 暗殺者と殺し屋を簡単に受け入れるのって、普通じゃありえないっすよ」
「そうなんですか? ……私は、あまり人と関われなかったから、よくわからなくて……」
菓子売りの屋台へ、元気よく注文を言うエイプルを見ながら、メイとジュディは不思議がる。
彼女はただの町娘のはずだ。消息不明の母親がいることを除けば、何の問題もなく、すこやかに育てられた。
平和な環境にいるからこそ疑問に思う。なぜエイプルは、戦闘に順応できる身体能力や、他者を受け入れる大器を備えているのか。
彼女は、町を出たことすらないはずなのに。
「……どうだ? "俺の"エイプルねーちゃんは?」
まるで、動揺を見透かしたような少年の声。
「存外に優しいだろう?」
振り向けば、目下に琥珀色の髪。屋台で買った菓子を手に、少女たちの近くを通りかかったウェザーは、彼方のエイプルを見つめて言う。
彼女に注がれる視線は、ただ馴染みの少女に向けられるものとは、明確に種類が違っていた。
それは、丹精に育てた花を愛でるような。
あるいは鳥籠の中の雛を見守っているのに似た……




