9th TARGET
【真の支配者】
「───っ!?骨が……それにどうして……。」
黒夢 紫月の肩から骨が突き出ているのだ。
それだけではないがな。
その傷口の血が止まっている事にも奴は今、気がついただろう。
何が起きたか、までは理解出来ていないだろうがな。
やつの敗因はいくつかある。
まず、甘さだ。
やつは俺を殺さないために自分の強さを見せつけようと俺の拳をあえて受けた。
それが最初の失敗。
そして次に、俺に警戒をした事だ。
真に警戒すべきは俺ではなく、俺の行動だ。
やつは俺に警戒するあまり、俺の不自然な行動の数々を見逃したのだ。
そして、大きな失敗はもう一つある。
俺に、時間を与えた事だ。
「お前、何しやがった……。」
ぜえ……ぜえ……。と息が上がっているのがわかる。
これは物理的ダメージよりも精神的ダメージによるものだろう。
"もう終わる"と思った矢先に、絶対優勢だったはずの自分が追い込まれたショックによるな。
「一から説明をしてやろう。」
「ははっ……。なんでかわからねぇけど止血もされてるし、そりゃありがたいな。」
「まず、俺の能力は間接的にでも触れている金属を自在に操る能力だ。だが、この間接的とは俺の触れた金属と金属、またさらにその金属と金属。とこのように金属同士で繋がってなければならない。」
そう、この能力の最大のデメリットとも言えるだろう。
「そして、俺の腕は見ての通り金属だ。」
「っ!まさか、お前あの殴りかかった時に何かしたのか。」
全くその通りだ。
全てはあの瞬間に始まった、と言っても過言ではない。
「自分の発言や体に違和感を感じなかったか?お前の能力は魔力を吸うものだろう。そして、鬼の戦うほど強くなる体質。そうだろう?」
「あぁ。それがなんだよ。」
察しが悪いな……。
「おかしいと思わないか?俺に触れてもなく、戦っているわけでもないのに、お前は強くなっていた。」
「───っ!?そういえば……どうして、だ。」
この程度、トリックとも言わんがな。
簡単なタネ明かしでもしてやろう。
「単純な話だ。俺はあの殴りかかった時からお前に触れ続けていたのだ。」
「触れ……続けていた?いや、だとしても今のこの状況とそれがどう繋がるんだ。」
そういえばそうか。お前は幼い頃に人間の世界を出ているせいで知識が乏しいのだったな。
「俺はお前の体内に腕の一部を繊維状にし、潜ませたんだ。その後、血や骨へと侵食させた。人間の体にはナトリウム、カルシウム、カリウム、塩素、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛などという、たくさんの金属が存在する。それを俺の能力で支配したのだ。」
「……それってつまり。」
やっとわかったか。
そういう事だ、俺の能力により何が起きたか。
つまり────
「今、お前の体は完全に俺の支配下にある。という事だ。生かすも殺すも俺次第、という事になるな。」
さっきは殺す、と言ったがこいつは交渉の材料として使ってからだな。
「出てこい、ミダラ。俺に情報を提供しろ。断るのであれば───。」
「やめぃ!みなまで言うな。そこまで言われずとも抵抗なんてせぬわ。」
そう言うとミダラ、俺へと一冊の書物を投げる。
「それがお主の知りたがっている"北見 翔也"についてじゃ。」
「ミダラ……わるい、俺のせいで。」
「大丈夫じゃ、時間稼ぎとしては十分じゃったぞ。」
ふむ、これが北見 翔也の全てか……。
「では、これでお別れ────」
「お別れするのはお主の方じゃ……。」
俺はミダラに謎の刀を振り下ろされ、空間の亀裂へと飲み込まれた。




