繋いでいくもの
【写真に写るのは】
「ただいま」
和馬さんが居ない日。
退屈なので、実家に戻る。
娘の羽美が先に家に入る。
勇希はすぐどこかへ行くので、手を繋ぐ。
「ただいまー」
羽美も真似。
自分で脱いだ靴。
ちょっと考えて、並べる。
「あら、お利口さん」
お母さん、羽美の頭を撫でている。
ぐずる勇希を寝かしつけたりしている間に。
羽美は家の中を探検していたよう。
「ママ。一緒に見よ」
お父さんに抱っこされて戻ってきた羽美。
お父さんの手には、アルバム?
「ああ、ちょっと懐かしくて出していたのよ。
私たちの結婚式の写真」
お母さんの結婚式の写真は、私も見た記憶ないかも。
「普段から出すことなんて無いし。でも、折角だから」
広げられたアルバム。
丁度勇希は寝ているので、見るなら今。
「お姫様!」
広げた途端、羽美の第一声。
「じゃあ、羽美ちゃんに質問。
写っているお姫様はだあれ?」
お姫様?写っているのはお母さんだよね?
羽美。写真を見る。
首を傾げる。
お母さんの顔を見る。
ついでに私の顔を見る。
いきなり立ち上がる。
立ち上がった勢いで、リビングへ行く。
慌ててお父さんが後を付いて行く。
「これ」
羽美が持っているのはリビングにあった写真。
後ろでは、お父さんまで写真を沢山持っている。
リビングに飾ってあった写真。
全部持ってきたようだ。
なるほど、そう来たか。
「ママ」
自分の持った写真。
真ん中に写ったウエディングの私。
「正解」
実家に来るたびに儀式化した確認。
「あーちゃん」
和馬さんのお母さん。
温子さんとうちの母が呼んでいるのと。
和馬さんの教えたおばあちゃんが混ざって。
いつのまにかその呼び方で定着している。
「正解」
そして、最後。
「なつばあば」
子供には成美がなつに聞こえたらしい。
「正解」
羽美は満足そうに、ふんすしている。
で、肝心のアルバムは誰か判ったの?
【探してみよう】
「この中にいるかい?」
お父さん、持って来た写真を並べて羽美に聞いている。
だよね。全部持たされて来たんだもんね。
羽美も思い出したよう。
「んー?」
羽美が写真をひとつ手に取る。
アルバムと見比べる。
「違う」
それは、羽美が産まれた時の集合写真。
お母さんは、着物は着ているけどドレスじゃない。
あっさりと横に避ける。
お父さん、リビングに戻しに行った。
次を手に取る。
「羽美、お姫様」
勇希が産まれた時の集合写真。
羽美はドレスだったよね。
「違う」
羽美が避ける。
その時のお母さんも、着物だね。
次。
「お姫様いっぱい」
私たちの結婚式の後。
敬老の日にお母さん達は記念写真を撮った。
還暦をお祝いして集まったのは5人。
皆楽しそうにはしゃいでドレスを選んで。
それぞれの手には真っ赤な薔薇のブーケ。
お母さんたちがドレスを選んでいる合間に。
お父さんが他の家族とも相談して。
それぞれの家族がプレゼントしたもの。
あの時の様子を思い浮かべている間に。
羽美の確認作業は済んだらしい。
「違う」
羽美。どの写真にも。
なつばあばが映っているんだけど。
あ、勇希が起きそう。
抱っこして台所へ。
羽美は2人が嬉しそうに相手している。
コップに白湯を入れる。
何故か、寝起きは白湯しか飲まない息子。
…誰に似たんだろ。
諸々を終わらせて戻った頃には。
羽美の確認作業が済んでいたらしい。
「なつばあば。魔法がかかっている」
何の話?
羽美の説明を聞く。
なつばあばが、魔法で若返って。
写真のドレス姿になったと思っているらしい。
何故その発想に至る?
「そりゃ、何十年も前の写真だもの。
花音が産まれる前よ?
私だって若かったわよ。今の花音より」
お母さんの結婚式だから、間違いなく若い。
でも、すねなくていいと思うんだけど。
「でも、羽美にしてみたら。
昔は昔。時間なんて関係ない。
花音だって、昔おばあちゃんに。
恐竜を飼っていた?と聞いていたから」
お父さん。羽美の頭をなでなで。
そんな話をした記憶はないけど。
本当にあった話なんだろう。
いつの間にか写真は全て片付いている。
確かに。
昨日も、数十年前も同じ昔でひとくくり。
羽美は、まだ区別が付いていない。
だから、魔法なのね。
「鈴お姉ちゃんすごいね。
いっぱい魔法を知っているね」
鈴。ごめん。
また迷惑かけるかも。
案の定、鈴に会った日。
「大きくなる魔法?ごめんね。
それは師匠に教わってない」
早速大きくなる魔法を強請る羽美。
鈴、ありがとう。いつも助かる。
【後日談】
後日、和馬さんの実家に戻った日。
話題のついでで、この前の話をする。
「やっぱり、坂上の孫だなあ」
和馬さんのお父さんニコニコ。
羽美の頭をなでなで。
「和馬。わからないことがあると。
本を並べて確認していたのよ」
和馬さんのお母さん。
「そうだっけ?」
和馬さんは記憶に無いようだ。
あ、勇希が起きそう。
目の前に差し出される白湯。
「こんなところも、和馬に似たのね」
今度は、和馬さんのお母さんニコニコ。
「あーたん。ありがと」
白湯を飲む息子に和馬さんが。
タオルで溢さないようにフォローしている。
「ストローも味が違うって苦手だったのよねぇ」
和馬さんのお母さん懐かしそう。
勇希、じっとしていないから。
私に似ていると思っていたけど。
変なところは似たのね。
【未来のお話】
無事、私たちが出会った年頃になった羽美。
楽しそうに彼のためにクッキーを焼いている。
手元には、夫の書いた数式。
影からこっそり見守る和馬さん。
「何しているの?」
私の視線に挙動不審な和馬さん。
あ、羽美に気づかれた。
「お父さん、食べたいなら。はいこれ」
避けられて、お皿に盛られたクッキー。
たぶん、彼には渡さない予定のもの。
和馬さん、渡されたお皿を手に固まっている。
おそるおそる私を見る。
「食べていいと思う?」
???どういうこと?
「だって、愛情は好きな人に向けるべきでは?」
羽美の様子。
手元のクッキー。
そういえば、貰ったクッキー。
彼に返却したって話、あったよねえ。
今更ながら、やっと繋がった。
「親子の愛も、友愛も全部愛情じゃない」
呆れた目で見る。
納得したのか、やっとクッキーを口に入れる和馬さん。
「美味い」
当たり前でしょうに。
後ろで羽美はいそいそとラッピングしている。
「いってくる」
ちゃんとおしゃれもして出ていく娘。
ほんの少し寂しそうに見送る夫。
だから、こっそり羽美に見えない場所で手をつなぐ。
こっちを見る和馬さん。
しっかり繋ぎ直される手。
「せっかくだし、私たちも出かける?」
いそいそと準備を始める和馬さん。
まったく、誰に似たんだろうね。
後姿なんてそっくりだよ。
ストックが切れたので、ここで完結です。
ありがとうございました。




