第二十五話 「また来ます」
それから。
ユリウスは、本当にまた来た。
最初は、生徒会室に書類を届けに来るだけだった。
「失礼します」
静かな声。
メリアが「そこ置いといてー」と返して。
ユリウスは、机に書類を置く。
それだけ。
……だったはずなのに。
気づけば。
トールの隣にいることが、増えていた。
昼休み。
中庭の隅。
木陰のベンチ。
トールは、そこでよく本を読んでいる。
黒猫を膝に乗せて。
静かに。
ひとりで。
……いや。
最近は、ひとりじゃない。
隣には、ユリウスがいる。
ユリウスも、本を読んでいた。
難しそうな分厚い本。
でも、トールは気にしない。
ただ、隣に座って。
同じように、本を読む。
二人とも、あまり喋らない。
でも。
不思議なくらい、居心地が良さそうだった。
「……」
「……」
静かな時間。
風が吹く。
ページが、ぱらぱらと揺れる。
トールの膝の上では、黒猫が気持ちよさそうに丸くなっていた。
その時。
ユリウスが、本から目を上げた。
「……トール」
「なに」
「クッキー、もらったんですけど」
制服のポケットから、小さな包みを取り出す。
丁寧に包まれた焼き菓子。
「食べますか?」
「……いる」
僕は思わず吹き出しそうになる。
少し離れたところからその様子を見ていた。
メリアも隣にいる。
「ちょろ」
「しっ」
でも。
トールは、本当に嬉しそうだった。
ユリウスから包みを受け取って。
そっと開ける。
丸いクッキーが、二枚。
「……」
一枚、口に入れる。
もぐもぐ。
それから。
ほんの少しだけ。
笑った。
「……おいしい」
「そうですか」
ユリウスも少しだけ笑う。
それだけ。
たったそれだけ。
ずっと思ってた。
トールを怖がらない人なんて、いないんじゃないかって……。
家族以外には無理かもしれないって……。
でも
ユリウスは違った。
何も変わらない。
トールがどんな顔をしても。
どんな空気を纏っていても。
普通に、隣に座る。
普通に、本を読む。
普通に、クッキーを分ける。
「……兄さん」
いつの間にか、トールがこっちを見ていた。
「なに?」
「ユリウス、変」
「また!?」
ユリウスが珍しく声を上げる。
トールは、クッキーをもぐもぐしながら、真顔で言った。
「だって、ずっといる」
「それ、悪口?」
「違う」
少しだけ。
本当に少しだけ。
トールが、困ったみたいに目を細める。
「……うれしい」
ぽつり。
小さな声。
でも。
ちゃんと聞こえた。
ユリウスが目を丸くする。
それから。
困ったみたいに。
でも、優しく笑った。
「……じゃあ、また来ます」
「うん」
トールが、頷く。
その顔は。
家族といる時みたいに、安心していた。
──ああ、やっとトールに本当の友達が出来たんだ。
僕は安心と嬉しさと……ほんの少しの寂しさを覚えた。




