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黒と白、分けられない者。善と悪の共存ー聖女の母と副団長の父に愛された子供たち、そして“魔王の生まれ変わり”が目覚めるまでの物語ー  作者: ココアバナナ
第二章 笑っているのに

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第十二話「笑っているのに」


 ――子どもというのは、よく笑う生き物だ。


 理由なんて、大したことじゃない。ちょっとした音。ちょっとした仕草。それだけで、ころころと楽しそうに笑う。


 ……トールも、そうだ。


「きゃはは!」


 リビングに、甲高い笑い声が響く。


 床の上を、よちよち歩きで移動しながら――トールは、楽しそうに笑っていた。


 その後ろを、メリアが追いかける。


「まってよトールー!」


「ねぇね!」


 逃げる。笑う。転びそうになって、また笑う。


 ……どこにでもある、日常の光景だ。


「平和ねぇ」


 ソファに腰掛けたミレイユが、ぽつりと呟く。


「そうだな」


 短く答えながら、視線は自然とトールへ向く。


 ――笑っている。

 いつも通りに。


 何も変わらない。


 (……本当に、そうか?)


 違和感は、些細なものだった。


 ほんの一瞬。ほんの一瞬だけ。


 ――音が消えた。


「……?」


 今、確かに。


 メリアの足音も。トールの笑い声も。すべてが、一瞬だけ“途切れた”。


 だが――


「きゃはは!」


 次の瞬間には、何事もなかったかのように戻っている。


「……気のせいか?」


 思わず、呟く。


「どうかしたの?」


 ミレイユがこちらを見る。


「いや……」


 言葉を濁す。


 説明しようにも、あまりにも曖昧すぎる。


 その時だった。


「……あれ?」


 フレイの声。


「どうした?」


 フレイは、じっと一点を見つめている。


 ――トールの影だ。


「影が……遅れてる」


「……は?」


 視線を落とす。


 トールが、手を叩く。


 影が。


 ほんの一拍遅れて動いた。


「……」


 言葉が、出なかった。


 ありえない。


 光源は一定。遮るものもない。


 影が遅れる理由なんて――存在しない。


 だが。


 もう一度。


 トールが笑う。


「きゃは!」


 影が、遅れる。


 今度は、はっきりと分かった。


「……トール?」


 名前を呼ぶ。


 振り返る。


 にこり、と笑う。


 ――影だけが、笑っていなかった。


「――ッ」


 心臓が、跳ねる。


 だが次の瞬間には。


 影も、元通りになっていた。


「……今の」


 ミレイユの声が、低くなる。


「ああ」


 短く、頷く。


 もう、“気のせい”では済まない。


「この子……」


 ミレイユが、静かに呟く。


「やっぱり――」


 その言葉の続きを、俺は聞かなかった。


 いや。


 聞きたくなかった。


「きゃはは!」


 トールは、変わらず笑っている。


 無邪気に。何も知らないまま。


 ――なのに。


 その笑顔が。


 ほんの少しだけ、“遠く”感じた。


 (……守れるのか、俺は)


 答えは、まだ出ない。


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