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静城風香にとっての『強さ』

2か月ぶりの更新です。え? 先月? 短編投稿してるからサボってないって……。

 掛かった、掛かった、掛かった!!

 あの静城を、圧倒的強者を、女王を、策に乗せたのだ。


 体は空中、暗闇に慣れた目に太陽の光はさぞ辛いだろう。

 それは明確な隙(・)。


 不可能とも思われる静城の隙を、俺達は作り出した。


 だが、油断はできない。

 この瞬間を逃せばもう俺達に勝ちはないのだから。


 合図はしない。それをすれば何をされるのかが静城にもわかってしまうから。


 だからこそ、俺達はそれを作戦に組(・)み(・)込(・)ん(・)だ(・)。

 どの道、静城は空間を感覚として知覚できる。これがあるからこそ静城は奇襲を許さない難攻不落の要塞と化し、俺達どころか他の連中の攻撃も悉(ことごと)く無意味に帰した。


 ならそれを利用できれば、必ず隙が生まれる。


 そう考えて、静城が空間の知覚に頼らざるを得ない状況へ追い込んで、暗闇に目を慣れさせた。

 光のない空間で慣れきった目が、燦然と輝く太陽を前にすれば必然、体は強張る。


 地下鉄事件の時に俺と遠見が中村に出会う前、松島と名乗る男がさく裂させた光に遠見が苦しんだように、いきなり光を直視すればどうしたって隙(・)が生まれる。


 故にこの瞬間、最初で最後のチャンスは生まれた。


 光によって静城が怯んだ今でなければ、直ぐに対応されてしまう。それも迅速に、有り得ないくらいの早さでこちらに合わせてくるだろう。

 ならばこちらもそれよりもっと速く勝負を決めなければならない。


 だから、俺は一条と菱田を静城の知(・)覚(・)す(・)る(・)範(・)囲(・)の(・)外(・)へ(・)逃がした。


 だから、俺は暗闇の中、静城が俺を追って上に目を向けた瞬間に<空間操作>で静城の真下へ位置取った後に影の空間を解除した。


 だから、静城は暗闇に慣れたその目で太陽を直視し、体を硬直させた。


 これから始めるのは、勝つか負けるかを掛けた最後の詰め。この勝負に終止符を打つ一瞬の交錯なのだから。


 まず動いたのは、俺だ。


 空中に体を委ねながらも<振動操作>を発動させて無理矢理空中を蹴って肉薄し腕章へ手を伸ばす。

 それとほぼ同時に、教室の外へと転移させた一条達もそれぞれ能力を発動させて同じように腕章を狙う。


 ここから先は完全にアドリブだ。俺達が考えた作戦は静城の隙を作り出すことまでで、その先はない。どうせこの状況を作れなければ負けなのだから、その先を考える余裕なんてこちらにない。


 だからこそ、こちらにできることは静城に無理矢理にでも選択肢を突きつけること。そうして判断を迫り狂わせることだ。


 「っ!!」


 声を出せばそれだけで悟られる。だが動き自体は能力によって知覚されている。けれども三方向から腕章を狙われれば誰であれ焦るはずだ。付け入る隙はそこにある。


 俺はそれを見(・)極(・)め(・)る(・)。


 だが、俺の予想とは反して静城はどこまでいっても残酷なほどに冷静であった。


 「なっ!?」


 俺達の動きを察知し、突然叩きつけられた三つの選択の内最善とも言える選択を静城は選んだ。それは即ち、初めに迫った俺ではなく、一瞬遅れて腕章を狙いに来た一条を標的として捉えたのだ。


 唯一の隙を晒して肉薄を許しても静城は何ら堪えていない、確かにそれは驚愕すべき事実。この局面で一条を落とせば残る俺達は無視できる。だって一条は俺達クラスの代表だ、ルールに当てはめれば一条が落ちた瞬間が俺の敗北の瞬間。


 だが――――――、


 ニイ、と俺の口元が釣り上る。


 一(・)条(・)が(・)落(・)と(・)さ(・)れ(・)る(・)前(・)に(・)、俺(・)が(・)静(・)城(・)を(・)落(・)と(・)せ(・)ば(・)い(・)い(・)。


 静城は俺と、一条と、菱田に腕章を狙われている。俺は下から、二人は左右から、それぞれ別々の方向から狙うが、それをものともせずに静城が手を伸ばしたのは一条の方。

 位置関係で言えばこんなところ。

 

 更に言えば、今の俺の位置は考え得る最高の位置。手を伸ばすだけでは静城には届かず、一条を離脱させようにも静城が手を加える方が速い。そんな位置。

 だが、それでいい。


 この位置を感知した静城はこう考えるはずだ。


 『この位置なら、黒谷蒼太が行動を起こすよりも速く王手を掛けられる』、と。


 その通りだ、俺が<空間操作>を使っても、<振動操作>を使っても距離で言えば一メートル程の短い距離が埋まらないのだから。


 だが、一つだけある。これを打開できる能力が。

 

 暗闇を作り出した、影を操作する能力が。

 

 位置的に、静城の真下に俺はいる。


 だからこそ、俺(・)に(・)で(・)き(・)た(・)静(・)城(・)の(・)影(・)を(・)操(・)作(・)し(・)て(・)こ(・)の(・)距(・)離(・)を(・)届(・)か(・)せ(・)る(・)。


 「……っ!!?」


 交錯は一瞬だった。

 時間で言えば、それは正に瞬き程の小さな隙間。静城が空中へと投げ出されてから二秒と経たない時間が過ぎた時、その勝敗が今ようやく決した。


 『こ、これは、すごい……すごいぞ!! 私はこんな勝負が見たくて対抗戦を考案したと言っても過言ではない!!! 五月の対抗戦、勝利の栄光をつかんだのは――――――三組ーーーーー!!!!!』


 一条の腕章が剥がされるかという瞬間、静城が力を込めるよりも先に、俺が操った影が静城の腕章を切り裂いた。


 「か……勝った……?」


 教室の方から聞こえるスピーカーの放送で、鳴沢のハイテンションなトーンと共に対抗戦の勝敗が告げられる。

 それを俺はどこか他人事に感じていた。


 自由の利かない空中で、すぐそこにいる静城を見て、それから。


 ――――――それから。


 「……あ? やべ落ちる!?」


 それから、俺の体は浮遊感に襲われた。

 それも当然だ、今の今まで空中にいたのだからそこにあるのは落下という結果に至るまでの過程でしかない。


 あの静城相手に隙を作ることだけを考えた結果、その後をかなぐり捨ててアドリブに頼った。それだけ必死だったというのもまた事実だが、さてどうしよう。


 「え、ええと……<振動操作>で何とか衝撃だけ殺して着地……うん、これだな。寧ろそれ以外考えられねぇ……」


 流石に焦ったが、何とか道筋は組み立てられる。後はどうにか着地してから、それから考えよう。やることは沢山ある。


 「おっ!!?」


 そうしてようやく地面に顔を向けたかと言う時、遠くに見ていたそれが一瞬の間の後にはすぐ目の前にあった。

 この浮遊に浮遊を重ねた様な感覚は、空間転移。つまり俺を地面へおろした人物は静城だ。


 「……馬鹿なの?」


 丁度見下ろすようにして立っていた静城と目が合う。その表情は少し暗い。


 「俺の勝ち……で、いいんだよな?」


 地面にへたり込んだまま、見下ろされたまま紡いだ言葉は誇る様なものではなくただの確認だった。ランカーに勝ったからとか、静城との勝負に勝ったからどうしたと言うのは無く、ただ水が湧き出るように感じる達成感だけが俺の胸を満たして離さなかった。


 それを自覚できたのは、俺の言葉に頷いた寂しそうな影を感じる静城の姿を見てからすぐのことだ。


 ◆◆◆◆


 静城との勝敗が決してからしばらくして、対抗戦という月に一回のイベントは終結した。最期に壊した教室の壁もそれまでにあった傷も何もかも、『修復屋』の完璧な仕事で綺麗に修復された。


 それからは昨日の準備の時の様に生徒全員で片付けを終えて、時間は四時過ぎ。放送では各自下校する旨の連絡が流れた後だった。


 何の因果か、俺のクラスが担当した場所は静城のクラスと合同で片付けをすることになった。

 まぁ、俺のクラスは静城のクラスに、静城に勝利したという形であったからかなりそれでいじられたとだけ言っておこう。大勢の人と話すのは絶対に慣れることは無いと確信する出来事ではあった。


 当然と言うか、なんと言うか、その間に静城との会話はなく事務的な返答くらいしかできていない。

 

 「ん?」


 それはもう少しで帰ろうかと言う時のことだった。待ちに待った遠見から『準備OK』の連絡。それを確認した後直ぐに静城に声をかけた。


 「静城、ちょっと来い」


 「……? わかった……」


 丁度静城も帰る所だったのか、既に身支度を済ませていたので都合がいい。


 「朝野の件で、遠見の方の準備が整ったらしい」


 「っ! そう……」


 「……んな肩肘張らなくても、ただ話すだけだろうが。もっと楽にしとけ」


 「……うん」


 静城は俺の後を追うようにやや後ろに位置付いて顔を伏せていた。どういう心境なのかは知らない、それでも何か負い目があるか、若しくは憂いているのだろうか、表情はまだ暗い。


 「……あの時」


 「ん?」


 「……教室で、後ろにいた時。蒼太は何をしてたの?」


 無言の空間がしばらく続いて、その沈黙を破ったのは静城。

 

 「あー……別にそう難しい話じゃない。静城もわかってるだろうが、俺は『地下鉄事件』の時に<影操作>をコピーしてて、それ使って教室を覆う箱を作った」


 ここまでは静城も分かることだろう。仕掛け自体は静城が影の中の空間にいる時点で始まっていたがそれがわからないなんてことはないはずだ。


 「んで、お前をあの箱の中に入れた時からずっと、教室の壁も壊しながら徐(・)々(・)に(・)外(・)へ(・)移(・)動(・)さ(・)せ(・)て(・)た(・)の(・)さ(・)」


 そう言いうと静城の表情はわかりやすく変化した。


 「……おかしい」


 「何が?」


 「気づ、かない……はずない。どう……やって……?」

 

 相当驚いたのだろう、足を止め目を見開いてこちらに問いかける。それ程に静城にとって俺のやっていたことを見逃した事実が信じられないらしい。

 だが静城は事実、俺のしていたことに気づくことはなかった。

 何故あの時間で、何故あのタイミングで、何故あの教室なのかを疑問に持つことなく静城は自身で罠に掛かった。


 「そうだな、強いて言えば一条達を見くびり過ぎで、俺の事を警戒し過ぎ」


 「……え?」


 理科室は他の教室と比べて広い、だから静城の知覚する範囲の方が広くとも菱田と一条が動き回ることである程度の誤魔化しが効いた。

 そして肝心なのが時間だ。丁度昼頃だったからこそ、太陽の位置が真上だと分かっていた。


 「そんだけ挑発が効いたのか、周りに意識が向いてなかったかは知らねぇけど、お前は周りの奴らを舐め過ぎてんだよ。だから今回みたいに足元掬われる」


 いいか、と前置きしてから静城に向き直り、人差し指を突き付ける。女王様の勘違いをここで正す為に。


 「お前が思うほど、俺は強くも無いし他も弱くない」


 「……?」


 静城は女王だ。その自負もあってなおかつ驕ることなく、ただ強くあることを求めて愚直に邁進している。その姿は好意的に映るし間違ってもいない。

 それは確かに正しいと思えるし、口が裂けても間違いだなんていうつもりはない。


 だが、だからといって他を見ようとしないのは違う。


 「お前は確かに驕らない、けど視野は狭い」


 「……蒼太には……関係、ない」


 「塚野から相談受けてる時点で関係大有りだ」


 「……」


 俺がそう言うと、静城は黙り込んだ。

 理由は知らないし興味もない。けれど伝えることはまだまだあった。


 「俺が思うに、静城はいくつか勘違いをしてる。それが原因で、まぁ朝野と衝突したんだってことも何となく想像がつく。だからこの際聞いておきたい」


 「……何?」


 「お(・)前(・)が(・)弱(・)い(・)か(・)ら(・)っ(・)て(・)迷(・)惑(・)を(・)被(・)る(・)奴(・)が(・)い(・)る(・)の(・)か(・)」


 「ッ……!!!」


 そう口にした瞬間、今までそっけない態度を取っていた静城が一変してこちらを射抜くように睨みつける。

 俺はその姿に内心舌を巻いていた。


 「……そういう表情、静城でもするんだな」


 普段のおっとりした様子からは想像つかない程に、その表情から滲み出る怒(・)気(・)は凄まじいの一言に尽きる。

 身構えていなければ怖気づいていただろうそれに負けないよう、一歩足を出して息を吸う。

 次の言葉を間違えれば、俺との関係は恐らくふりだしどころか永遠に修復は出来なくなるだろう。だからゆっくりと、慎重に、俺は心を整える。


 「それこそ、蒼太は……関係ない。これは、私の問題」


 そんなことは分かっている。けどだからこそ、今ここで静城の勘違いを正せなければまた今日のような事を繰り返す。それが分かるから、俺は今静城の地雷を踏み抜いている。

 静城は言った。私は私を証明する、と。


 それは恐らく、自分自身が強者であるという自覚から来るもの。それを証明するという事は、強者であると主張するという事は、すなわち数多の制限が掛かる対抗戦で無事に勝利を収めるということ。

 

 強者である自分は、確かに強者であると安(・)心(・)さ(・)せ(・)よ(・)う(・)という証明。


 故に、俺はそれを間違いであると言う為に、口を開く。だってそれは、独りよがりの自己満足でしかないのだから。


 「お前が認めないなら何度でも言ってやる、そ(・)れ(・)は(・)間(・)違(・)い(・)だ(・)。大体、強かろうが弱かろうがお前の立場が変わる訳でもないだろうがこのわからずや」


 「強く……なきゃ、私はランカーだから、二位だから、強く……ないと、ダメなの!!」


 「関係ない」


 「関係……なく――――――」


 「関係ねえんだよ!! 今までお前に関わった人間が一回でもお前の『強(・)さ(・)』に拘ったのか!?」


 その言葉に、静城は再び目を見開いた。

 顔を上げ、睨むでもなく視線を迷わせ、言葉に詰まってはくしゃりとその小奇麗な顔を歪ませる。


 「結局、お前が一番『強さ』に拘ってるだけだ。そのせいで余計話が拗れるし周りもそれで勘違いする。だから――――――」


 そのまま目線を合わせるように頭一つ分屈み、真紅の様な赤い瞳を真っ直ぐと見つめる。そして同時に悲鳴の一つでも上げそうな表情を払拭するように頭の上から手を置く。

 図らずも、その姿はまるで人に怯える小動物がこれから撫でられるような感じがして少し笑えた。

  

 「――――――だから、お前はもう少し人の話に耳を貸せ。……まぁ俺が言えた義理じゃないけどな」


 そう言って、ぐりぐりと静城の頭を撫でまわす。同級生を妹のように扱ったことが照れ臭かったのもあるけれど、柄でもないことをした事実を誤魔化すように、絹の様な質感の髪をくしゃくしゃになるくらい乱暴に。

 

 「さ、行くぞ」


 手を離してもしばらく目を回す静城にまたこみ上げる笑いをかみ殺し、遠見たちの待つ体育館の方へ向かった。

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