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準備

今日から三日間午前0時に一話ずつ合計三話投稿しますんで、よろしくお願いします。

 作戦が決定し、メンバーそれぞれの立ち位置や動き方もある程度共有しあって、俺達はつつがなく作戦会議を終わらせた。


 内容としては、まぁ納得のいくものだがやはり気乗りはしない。けれど反抗しようなんて気も起きないので、とりあえず指示通りは動くがそれ以外は正直一条達で何とかして欲しい。


 俺としては静城の問題以外は基本どうでもいいのだ。


 例え俺のクラスが負けようが、勝とうが、目立つことを良しとしない俺にとってはこの対抗戦は煩わしいことこの上ないのだから。


 ふと、窓の方を見れば向こう側の校舎の様子が見て取れた。

 一年生だろうか、生徒先生構わず忙しなく準備を進めておりその作業もいよいよ大詰めなのか、小さく見える教室の中は空っぽだった。

 時期にこっちの方にも手が伸びるだろう。


 「おぉ、皆すごいね。作戦会議って一時間もしてないのにもうあっち側の校舎の準備終わってるよ」


 それを菱田も見ていたのか、俺の隣に来ると窓の方に身を寄せてどことなく目をキラキラと輝かせている様にも見える。


 「葵、あんまり窓に近づきすぎるとついイタズラしたくなるから離れて」

 「うえっ」


 そんな上機嫌らしい菱田の行動を中断させたのは篠原だった。

 情けも容赦もなく後ろから菱田の襟をグイッと引っ張り後ろに下げる。菱田がいきなりえずいたのはそのためだ。


 傍から見れば篠原の行動は乱暴だと思わざるをえないが、当の菱田は対して気にしていない様子。

 

 「テンション上がるのは分かるけどはしゃぎ過ぎちゃダメでしょ」


 「あははは……ごめんごめん」


 「仲いいんだな」


 そんな場面を見たからか、つい思ったことが口から零れる。


 「えへへ、まあね」


 ハッとしても、既に言ったことはもう取り消せない。

 俺から進んで間に入る気など無かったのに、菱田と篠原の時間に水を差した様に感じてしまう。

 悪いことをしたのではないか、と思えてきて仕方ない。


 ……いや、だが待て。よくよく考えてみれば俺に非は無い。

 整理すれば、ただ二人が話している所に俺が声を掛けただけの事。 

 そんな興味本位の行為を咎められる謂れはないのだから、俺がこんなことで怯える必要なんざ無い訳だ。


 「一応幼馴染だし、クラスメイトよりも仲がいいのは当然」


 「あーほらまた!」


 篠原の言葉に菱田は耳ざとく反応した。

 その行動を見る限り、普段から菱田に何か言われているのだろうが、それは二人だけに通じるもの。

 当然ながら俺には篠原のどこが悪かったのかはわからない。


 「……また?」


 「そう! またなんだよ黒谷君!」


 また、と言われても反応に困る。

 二人の事情など知らない俺にはとりあえず菱田の言葉に曖昧な笑みを浮かべながらコクコクと頷く以外の選択肢が無かった。


 「い、いや今のはセーフでしょ。大体黒谷とはいつもこんな感じなんだから問題ないよ」


 「言い訳は聞きません。いいから謝りなさい」


 「う……」


 二人のやり取りを見る限り、完全にヒエラルキーは菱田が上の様だ。

 本当はそのまま事の行先を見ているだけでも俺は構わないが、気になるのはどうして篠原が謝る流れになっているのかだ。

 別にどっちでもいいが何もされていないのに謝られる方も釈然としない。


 意味ないかもしれないが、篠原が珍しく狼狽えているのだから、それに免じて助け舟でも出してやろう。

 

 「別にいいんじゃないか? 訳も分からずに謝られる側としては気が引けるだけだぞ」


 「ほ、ほら。黒谷だってこう言っているのだし、今回は不問でいいだろう?」


 責められる篠原が可哀想だとか本当に気が引けるとかではなく、断じてただの気まぐれだが、篠原はこれを好機と見たのか下手に出つつ話の方向を変えようと試みる。

 

 だが、それは無慈悲にも菱田にぶった切られた。


 「ダメです」


 手を前で交差し×(バツ)の字を作る。それは意見を絶対に曲げないという意思の表れか、俺にはとても強固なものに見えた。


 「うぐっ……でも―――――、」


 「でもじゃありません。謝らないと千冬ちゃんが―――――、」


 「わわ、わかった! 謝る、謝るからそれだけはやめてぇ」


 その鉄壁はどうやら篠原では破れなかったらしい。


 「うぅ、す…………すまない、黒谷。あの……えっと、癖……というか、何と言うか……。あの、キツイ言い方をした。謝る」


 そう言い、篠原は素直に頭を下げた。

 

 「あ、おう……」


 謝られた側として、こう答える以外に選択はなかった。

 しおらしい篠原を見て責める気になるわけでもないし、そもそもこっちとしてはどうして謝られたのか、という理由を今しがた篠原が口にしたということくらいである。

 許すことよりも困惑が先に来る。


 「はぁ、いい加減その癖どうにかできないの?」


 「で、できるか!! 性分なのだから仕方ないだろう!?」


 「言い訳は聞かないからね? それで友達が少ないって相談された幼馴染の気持ちをちょっとは考えて見て欲しいよ」


 菱田の言葉から察するに、どうやら幼馴染であるらしい篠原の相談を受けたことによってこんなカオスじみた状況の発端らしい。


 それにしても、相談か。


 なんとも、都合がいい。上手く話を合わせれば今直面している静城の問題を解決するのに役立つかもしれない。

 勿論篠原のものと静城のものは毛色が違う。だがそれでも参考にはなるはずだ。

 後は、あっちが乗ってくれるか、それに尽きる。


 「相談されたのか?」


 「そうなんだよ! こうして対抗戦に選ばれるくらい能力が強くて勉強の成績も結構優秀なあのちーちゃ―――――、んん、千冬ちゃんが相談事があるから聞いてくれって言われて吃驚してたら、友達が少なくて寂しいから友達を増やせるようなアドバイスが欲しいなんて言うの! それでね、私はそれが疑問で仕方なかったんだよ、だってちーちゃんは気が利くしとっても優しいしすごくいい子なのにどうしてそんなことになってるんだろうって! いじめられてるのかなって心配もしたくらいなのに、蓋を開けてみれば単にちーちゃんが人見知りしてキツイ言い方ばっかりしてただけなんてーー!!」


 言いたいことを言った、という表現が正しいくらいに、菱田の叫びは強い感情をむき出しにした。


 「はぁ、はぁ……」


 だが、そこに篠原に対する怒りの感情は見えなかった。


 「う……あ、葵ー。呼び方戻ってる……」


 「う……、呼び方はもういいよ。勢いに任せて言っちゃったのは謝るから、そこはごめんなさい。……けど、千冬ちゃんだって悩みを解決したいんなら、ちゃんと謝るところで謝らないとダメだからね?」


 「うぐ……わかった。努力するよ」


 菱田の一見キツイ物言いに肩を落としながらも篠原的にはしっかりと納得したらしい。


 「で、そっちで話が纏まってるとこ悪いが、どうしてそうなった?」


 「ああ! ごめんね、私と千冬ちゃんだけで話し込んじゃって……置いてけぼりだよね……」


 「葵、別に黒谷も責めてる訳じゃないんだから、しおらしくなる必要はないよ」


 「いやでも、黒谷君にわるいよ」


 「あー……いいよ、これに関しては俺は部外者だし、それで俺の方を気にする必要はない。ただ、そうだな……こっちの都合だがちょっと参考程度に二人の話を聞かせてくれればそれでいい」


 そう言うと二人は顔を見合わせ、何やらひそひそと話し始める。

 内容としてこれは予想が付く。

 ズバリ俺に話すかどうかだろう、篠原の問題に対して俺は関係のない人間だし、幼馴染である菱田がこの個人的な問題の事を俺に話すかどうかをこうして相談するのは正解だ。


 だから菱田達に非はなく、俺がここで口を挟まずに二人の選択を待つことが俺の正しい選択であると俺は思う。


 そして、ここまで来ればもう確実だ。狙い通りに話を聞くことができるだろう。


 「まぁ、黒谷も黒谷で苦労があるのだろうし、いいぞ。……あんまり人には話したくない恥ずかしい話なんだけど」


 「助かる」


 篠原は篠原で勇気を出し、俺の事情のことは聞かずに応えてくれた。だから俺も素直に礼を言った。その方が自然だし、何よりこうも簡単に篠原が話してくれるなんて思わなかったからだ。

 菱田の言う通り、篠原千冬は確かに優しい女の子だった。

 俺の言葉に疑問を返さずに信じ、菱田と相談し、協力してくれたのだから。


 確かに篠原の物言いは思うところが無いわけでもない。人によっては冷たくもそっけなくも感じるだろう。けれど、篠原は俺が持っていないモノを()()()()()、それだけで俺にとっては眩しく見える。

 それだけで、十分な敬意を持てる。


 「これは貸しに―――――」

 「ちーちゃん?」


 「何から聞きたい? 最初から? それとも相談の内容だけ? 気にするななんでもこい」


 だが、やはり力関係は完全に菱田の方が上らしい。


 「なら初めから。できるだけ詳しく話してくれると助かる。それだけでかなり参考になるから」


 「わかった。けど……この辺りの準備をしながらでいいか? この日は何か手伝いでもしていないと落ち着かないんだ……」


 「かまわない」


 それが対価だというのなら、安いものだ。

 ここいらの準備が出来れば早く帰れるし、その間俺は篠原の話を聞ける。


 こんなにも益のある話を逃すはずもない。


 「なら、まずは机と椅子の方を外に出そう。そうした方が後に楽だろうしな。葵もそれでいいか?」


 「勿論、ちーちゃんに付き合うよ」


 篠原はうっすらとほほ笑み、今までで一番穏やかな声で一言。『ありがとう』と言った。


 内心の笑みは悟られることはなく、俺と篠原双方に不都合もない。

 もののついでで利用した俺の選択は、正しい。


 

 ◆◆◆◆


 

 準備、と言ってもやっていることはこの校舎にある椅子と机を指定の教室へ運び出すだけの作業だ。

 故に教室ごとに椅子と机を運ぶ場所が定められており、準備の時誰が来ても分かるようになっているという説明いらずの親切設計だ。

 

 ついでに言えばこの辺りの教室は階ごとにある準備用の教室へ運び込むだけなので、まずは椅子と机を教室から出してから一気に運び出してしまおうと提案したのは、菱田だった。


 特に反対も無く、今は丁度三つ目の教室で運び出していた時、ポツリと零すように篠原は口を開いた。


 「私の言葉づかいに違和感を覚えるようになったのは丁度去年の四月くらい。進学して周りに知ってる人とかほとんどいない状況になって、初めてわかった。今まで葵に甘えてきたんだなーって」


 この辺りへ来る人影は教師生徒含めてまだ姿を見せず、誰かに聞かれる心配もないと判断したのだろうか。

 向こうの校舎とは対照的にとても静かな空間には驚くくらいすっと声が通っていた。


 「何か話を振られた時、意見を求められた時。それぞれ普通に答えたつもりが、その子たちにはすごく不機嫌に聞こえたらしくて、気づけばクラスメイトからは鼻つまみ者。本当に嫌われてる訳じゃないとは思ったけど、すごく近寄り難い人なんだって思われたの」


 深く考えずとも篠原の言葉には確かに棘があるように感じる。

 まるで私はあなたが嫌いですと態度で誇張するように。

 他人とは一歩引いて、近づいてきた相手には隠し持った鋭い棘を以て威嚇する。そう感じたのは偏に篠原自身の態度が原因であった、という訳なんだろう。


 「それに気づいたのは葵に相談してからだったけど、その時は深く気にして無かった。いつも通り、小中学の時みたいに話せば分かってくれるんだろうなって、酷く楽観的だった」


 「けれど、そうはならなかった。と」


 「ま、そう言う事。何か用事があったりだとか、興味のある話だったりとか、理由はそれぞれだけど私が話かかけた時にすごく怯えられたの。それが酷く寂しくて、辛くて、泣きそうだったから、私は信頼できる幼馴染の葵に相談した」


 「その内容が、さっき菱田が言った――――――、」


 「うん。言葉使いのこと」


 言葉使いか。

 人によってそれぞれ異なる、言葉の言い回し。使い方。

 篠原の場合、それが悩みの種らしい。


 「おーい、そっちの教室はもう終わった?」


 そこへ、今しがた近くの教室の椅子と机を運び終えたのであろう、菱田が扉から顔を出した。


 「ああ、葵。こっちはあと少し」


 「あ、もしかして邪魔した?」


 「別に、話はもうちょっとで終わるから問題ないよ」


 「篠原の悩みの種が何なのか、丁度今聞いたところだ」


 「あぁ、ならあと少しだね。それじゃあ、今度はあっちの方を運び出すから、終わったら一気にやっちゃおう」


 そう言うと菱田は通り過ぎる風の様に、また椅子と机の運びだしへ戻っていった。

 後に残るのは、一度話を切った時の少しの気まずさだけ。


 「さっきの続きだけど、そうやって全部葵に話してみて、私もどうにかしたいって思ったから今みたいな形になった感じ」


 「それは?」


 「単純に、キツイ言い方をした時に謝れって、葵が」


 「ああ……なるほど」


 性格的には穏やからしい篠原だから、直ぐに謝ることは難しいことではない……のだろうか?

 それにしては、さっき俺に対して謝ろうとした時はかなり渋っていたが。


 「実際それってできてるのか?」


 「黒谷、そう簡単にできてたら私は今頃皆と仲良しになってる」


 どうやら進捗は良くないらしい。


 「……それで、どう? つまらない話だけど、参考になった?」


 「………ま、それなりに」


 俺の方に相談する程の悩みは無いが、今回どうしようもなく手をこまねいていた理由は、相談を解決する側にまわったことだからだ。


 初めての経験というものは得がたいものだが、今まで遠くから眺めるだけでしかなかったものに自分から首を突っ込んで行くことをしなかった故の、草食動物のように怯え見ているだけしかできなかったこの膠着を、どうにかする方法はなんとなくわかった。


 菱田が篠原の相談を聞いた様に、俺も塚野の相談を解決する為にまず静城の話を聞けばいい。


 本人の口から、事の経緯を全て。

 解決できるかどうかは、まずそれを聞かない事には始まらない。


 なら、どうやって聞くのか。

 当然俺は静城の家がどこにあるのか知らないし、今LONEでトークを送っても返信して貰えるか怪しいところだ。

 それなら、ほぼ強制的に、最低限俺と静城が会話できる条件がそろっている状況。それが必要だ。


 「黒谷、考えるのは別に止めないけど、ちゃんと手伝わなきゃ葵に言いつけるからね」


 「あぁ、悪い」

 

 だが、今それを考える余裕はなさそうだった。

 静城からどう話を聞き出すのか考えるのは確かに重要だが、かといって目の前の作業を篠原に押し付けるのは道理じゃない。


 すぐさま思考を切り替え、俺は篠原と一緒に机や椅子を運ぶことに専念した。

 途中からはコピーした能力の練習も兼ねて、浮かせてみたり運んでみたり、<空間操作>で物事態を転移させたりと、遊んだ部分もあったが、たったの十数分余りでこのフロアの片付けが終了した。


 それを可能にしたのは菱田の獅子奮迅たる活躍の賜物だが、流石に一教室分の運搬を一度で終えていたのを見た時は三度見した。

 

 何はともあれ、現時刻三時二十分を以て校内全ての準備が完了したアナウンスが各教室のスピーカーを通して静かに告げられたのであった。

誰か! 誰か感想を! メディーック!!!

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