凡人らしく
後日、朝起きて携帯にL○NEの通知を示すランプを見てアプリを開く。
静城あたりが勉強会をする日程でも送ってきたんだろうか?
そう思って見てみると、どうやら予想した通りのようで、明日、土曜日の二時から都合が出来た、という知らせの内容だった。
ふむ、その日は紅葉が突撃をかまさない限りは暇だったはずだから俺は問題ない。
あとは遠見の都合が取れるかどうかだけだな。
俺と静城二人きりとか絶対気まずくなる。
ラブコメの気配?
あるかそんなもん。
静城は俺のことを完全に友達として接している。
というかそれ以外に有り得ん。
なんと言えばいいのか、静城は人との触れ合いに飢えている感じがする。
つまりは俺の性質とは真逆だ。
俺は拒絶し、彼女は受諾し許容する。
あの日、声をかけたのが俺でなくとも、静城はその人物と親しくなろうと歩み寄っただろう。
まあ、その人が邪な人物でなければ、だが。
あれはあれで、ランカー二位としての誇りと驕りはあるが、決して油断はない。
自分をどうこうできるのならやってみろ、という自信が垣間見えるのだ。
だからこそ、彼女は友人に成り得そうな人物なら受け入れるのだろう。
俺はその立ち居振る舞いに感嘆すら覚える。
なんとも奇異な巡り合わせをしたものだ。
俺は身支度を済ませ、朝食を簡単に作って食べながらニュースでも見ようかとテレビをつける。
しばらくテレビを眺めながら用意したコーヒーを啜っているとニュースで取り上げられたある新着情報を聞いて目の色を変える。
その情報とは、他のランカーと違い顔の表示と能力の表示を断った一位の情報だ。
そう、ランカーになったときに表示される顔、そして能力は事前に表示を断ることができる。
通常、名前だけ表示されるランキングは、ランカーになれば顔と能力が追加で表示される。
そしてこの表示を断るような物好きなやつはほとんどいない。
何故なら、ランカーの特典ともいえるこのシステムがあることで、より自分を売り込めるからだ。
そのお蔭で、就職したい企業にすんなり入社できた、なんて例も数多く存在する。
この世界ランキングを利用する者は十代~二十代が最も多い。
その理由は様々だ。
例えば、自分の能力がどれだけ通用するか試したい腕試しをするやつや、自分の能力を思いっきり使いたいという血の気の多い理由。
例えば、自分の能力はこんなこともできる、というアピールを主な目的として参加するという理由。
そうしてランキングを参加し、順位を上げていく。
そうすると、その人それぞれに注目する企業が増えていき、遂にはスカウトされるようなことになっていくのだ。
そうすると自然的に自分にあった職場を自分で選び、スカウトを受けて就職して働けるようになる。
これが、能力者社会の主なサイクルとなる。
つまり、能力者は世界ランキングに参加することで自分のアピールをする公共的な機会を取得していることになる。
そうなれば、後は頑張り次第で企業に目をつけてもらえて、スカウトが来るようになれば好きな職場に就職ができるのだ。
これに最もうまみを感じるのはどの年代かは、もう火を見るより明らかだろう。
そう、社会という荒波に乗ることを不安に思う学生たちだ。
こんな俺でも美味すぎると思うのだから、他のやつらからすれば天から垂れた糸に繋がれたご馳走が目の前にあるようなものなんじゃなかろうか。
それはやばいな。
めっちゃ美味いわ。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。重要な事じゃない。
何故十代~二十代が多いのかはこれでわかっただろう。
能力者社会になってから、各市役所に相談所が設置されるようになった。
役割としては、その名の通り能力についての相談をする場所だ。ランキングへの参加もここでできる。
能力が発現した後、最初に行く公共施設がここだ。
そして国民の持つ住民票に能力の項目が増えるのだ。
自分の能力がどういったものか、ということを名前と共に簡潔な説明も加えて市役所に提出すれば、晴れて能力者として生きていける。
これを提出しなければいつまで経っても能力者とは言えないのでそこは注意だ。
因みに、中三に能力をシロから受け取った俺だが、一応初日にこれを提出してあるので俺も能力者となっている。
話が逸れた。
この市役所にもランキングの情報が載っており、ランカーはここへ足を運び自分の顔、能力をランキングに載せるかどうかを申告するとそれが繁栄される、という仕組みだ。
一位はそれを断り、顔と能力をランキングに載せていないのだ。
わかるのは、あの<空間操作>とかいうチートな能力を持つ静城を差し置いて一位の席へ座っているということだけ。
よって、ほぼ全ての能力者はこの一位の情報に敏感なのだ。
少しでも情報が欲しい、少しでもその能力を知りたい、少しでも一位に追いつきたい、その思いは様々なものだが、皆この絶対者のことを少しでも知りたいのだ。
かくいう俺も、例外ではない。
この一位の情報が欲しい。
それは他の能力者のように、一位になりたいから、とか追いつきたいから、という訳じゃない。
単純に、どんな能力を使っているのか興味が尽きないからだ。
一位になるほどの能力で、かつ<空間操作>をどうやって攻略したのか、できれば存分にその話を聞かせてもらいたい。
おっと、どうやらそろそろ発表されるようだ。
「なんと、私たちニュースONEは世界ランキング一位に席を置く上代有紀さんに直接取材をさせていただけることになりました!!」
マジですか。
これを聞いた瞬間に俺は飲んでいたコーヒーをテーブルに置いてテレビに釘付けとなった。
それくらいぶっ飛んだ内容だ。
なんせ今までこの一位はその能力すら知られることが無かったからだ。
いきなりパッと出てきたと思いきやそれまで一位の座にいた者を退けて一位になったというある種伝説を持っている。
恐らく参加したてで一位に挑みその地位を掻っ攫っていったと推測するが、それ自体本当に半端ないことだ。
確か以前一位だった氷室京真という釣り目が特徴的な赤髪の男の能力が<認識操作>だったはずだ。
静城が二位の地位に就いた時が丁度この人の全盛期だった。
氷室はその能力を使い、自分という存在をひた隠しにして潜む。
その間も相手は能力を使うがその認識を操作されて実際は能力を使っていない状態にされる、という本当に協力な能力を持った人間だった。
正直機会があったら氷室の能力が欲しいくらいに。
一回テレビで見た二位の静城と一位の氷室が行ったランキングバトルはとんでもなかった。
なんと静城は認識を操作されていることを自覚しながらほぼ無意識の状態で能力を発動させて氷室を苦しめていたが、とうとう氷室がその間を縫って静城の認識を操作し船酔いに近い症状にさせて倒れさせて辛勝した。
こうして、記録的には静城は氷室に負けているが、当の氷室は後に、次やった時に勝てるかどうかわからないという旨の発言している。
確か俺が高一、氷室が大学一年の時だったか。あの時は柄にもなく夢中になったものだ。
そんな相手を、現一位の上代有紀は一回の勝負で勝利したのだ。
気にならない訳がない。
「勝敗がどうあれ一切の情報を開示しないと上代との間で約束をして勝負を行っていた」
これは順位が変わっていることを嗅ぎ付けたマスコミが氷室に直接取材許可を取ってそのまま生中継された時に言ったことだ。
氷室はこの約束を守り勝負して負けた以外の情報を開示していない。
そしてその生中継の時に氷室は引退を表明し、世界ランキングから去った。
その後就職したのは確か、能力者が起こした犯罪やテロ、事件を解決するために、警察内にできた新しい課である『能力犯罪対策課』のなかの『戦闘職』だったはずだ。
これは、その名の通り能力者が行った犯罪を解決するために置かれた部署で、全世界同時にこのプロジェクトが開始されたんだったかな。
確か能力者が現れ始めてから増加した能力犯罪の直接的な抑止力として一番貢献した政策だったはず。
あの部署はバケモノだらけだ。
元ランカーがうじゃうじゃいる強者だけで構成された部署らしく、基本的な情報は一般公開されているが、その訓練や実態は極秘とされている。
ただし、この組織の実績は相当に優秀であり、組織前と後で犯罪件数が半減していることからもその凄さが伝わるだろう。
世界ランキングのランカーたちの最終的な漂着場所としては結構一般的に見て有名だったりする。
なんせ本当に強者でなければ、世界ランキングに登録している三十億くらいの能力者の中で十位以内に入りはしないのだから、それに目をつけない『戦闘職』ではないだろう。
恐らく一番熱心な勧誘をするんじゃなかろうか。
――閑話休題。
そんな訳で、上代に関する情報はかなり少ない。
その上代の取材をするなんてこと前代未聞過ぎて一ニュースでやっていいものなのか?
普通なら生中継とかされてもおかしくはないが、今回はこの番組が独自に取材を勝ち取ったらしい。
でも流石に大事過ぎてこれは瞬間的に拡散され世界に広まるだろうな。
さて、どんなやつなんだろうか。
「では、一旦コマーシャルです!」
拍子抜けしてガクッと来た俺は悪くない。
よくあるよね、テレビで一番興味が惹かれた目玉の部分や気になるタイミングで絶妙にCMを入れてくるっていうやつ。
だから俺は悪くない。テレビが悪い。
「ささっとやってくれよ…ん?」
するとさっきまで気にしていなかったが携帯のSNS系統やらL○NEの通知やらが凄まじい数まで溜まっていた。
L○NEとかクラスのグループが主にやり取りがされているのか未読になっているのが軽く百件近くまであって、今でもその数は上昇中だ。
どんだけ話題になってんだよ。
はやる気持ちはわかるが、やはり一位の情報が公開されるとなると俺たちのような大成を夢見る学生が一番興味を惹かれるからか、その情報伝達速度は俺の予想の遥か先に行っていたようだ。
「ははは、現一位様は半端ないな。静城の情報でもここまで炎上しねーっつの…」
もはや呆れればいいのか感心すればいいのかはわからないが、今まで米の一粒ほどの情報も晒さなかった上代が何故今こうしてメディアに出ているのか。
俺もそこは疑問で気になるところだがそれを今回の取材で取り上げてくれるか。
「えーっと、現一位の上代悠希です。」
気が付けば、既にテレビでは上代が喋っていた。
だがその姿と声は加工されているのか、モザイクやノイズがかかっており全容を判別することは出来なくなっていた。
その全てを知れているのは、実際に話を聞きに行ったテレビの人間数人だけだ。
でも、誰が提案したのかは知るところではないが、これはとても良い案だ。
今まで顔すら知られていないため、ここで晒すと下手をすればそれまでの日常が崩れかねないからだ。
だから、こうして『上代有紀』という人物の全容を晒さないことでそのプライベートを保護していると考えられる。
「えー、今回、俺がこうしてテレビに出ている理由としては、俺の情報を一つ開示することを発表するためです」
上代は確かな口調でそう答える。
情報を開示する。
単純なことだが、これは他のランカーが情報を開示する場合とはわけが違う。
どんな些細な情報も明かさなかった一位がそれを明かすと公言した。
もしこれが本当に些細なものだったとしても、社会の時事問題に出題されることは確実と言えるほどに大きな出来事になるだろう。
「その情報とは、一体どんな情報なのか、お聞かせくださいますか?」
「はい、勿論です。その情報はズバリ、俺の能力を明かしたいと思っています」
「まじか…」
一体、上代にどういう心境の変化が起きたのだろう。
氷室に勝負を挑んだ時、こいつは自分の情報が漏れることを一番危惧していた。
その真意は測りかねるが、上代は自分の能力がどんな能力なのか知られることを恐れる、ないし怖がっていたと最低限読み取れる。
若しくは、強すぎる能力なのか。
ただ、こうして表舞台から姿を消すという簡単な方法を取らずに、情報を明かすという大胆な行動を起こしたことから、自分の問題から逃げ出さず真摯に向き合っていることを意味していた。
俺とは違ったアプローチだ。
その点を見れば、俺よりもコイツは大人だと言える。
自身のみならず、いつしか他人の悩みにも敏感になった俺は、上代の行動力に少なからずモヤモヤしたものを感じた。
それは心の強さの差についての嫉妬か、自分自身に対して感じたであろうひどい呆れから来るものかは判別がつかないが、それでも確かに俺はコイツに劣等感に似たものを抱いたとその時自覚する。
「それでは、現世界ランキング一位、上代有紀さんの能力を発表してください。どうぞ!」
「では、発表させていただきます。俺の能力は<因果操作>、あらゆる原因と結果を操る能力です」
「<因果操作>…それなら元一位だった<認識操作>っつう超厄介な能力を持つ氷室京真に勝つなんて朝飯前か」
そのあまりに強すぎる能力を聞いて自失するようにしてそう感想をこぼした。
欲しい。
ランカーの能力は皆協力で、静城の<空間操作>をコピーできただけでも俺の素の戦力は大幅に向上した。
だが、能力を扱った経験がない以上、どんなに強い能力を手にしていたとしても経験を積んでいる戦闘に特化した能力者を誰一人倒せないだろう。
もし、上代が顔をテレビに晒していれば、俺は即座に上代の能力を解析して能力の模倣を試みただろう。
だが、そうでない以上、名前を言おうが、能力を言おうが、実際に見ていない以上イメージがき薄で明確さに欠けるため、能力模倣は従前に発揮しないだろう。
能力を扱うに当たって一番大切なことは、その能力を使った時のイメージだ。
これは俺の<アクセス権>も例に漏れない。
イメージが良くできていれば改変の幅も規模も向上の余地がある。
そういえば、昨日の朝戦った謎の女子生徒の全てを破壊・消失させるあのバカげた力もイメージが明確でなく、本人の正気が失われていたため、逆に能力に使われるような形になってしまったからあそこまで破壊が小規模だったのではないだろうか。
あれは多分、本来の力を発揮できてない。
本気を出せればまだ余力があるような能力だったから、本当なら一度使っただけで視界全てを塵芥に変えれるような、そんな恐ろしいモノだったかもしれない。
そう考えると、考えてしまうと、急に昨日の比ではない恐怖がぶり変える
「アホだよな、ほんと。こんなに震えるくらいならシロに言ってやめてもらえりゃいいのに…」
ガタガタとまるで壊れたブリキの玩具のように震える手を抑えようと手を合わせて握る。
けれどそれが伝染するようにして両手、腕、肩、果てには全身が恐怖によって震えるような感じがする。
ブルブルと、幽霊を怖がる小さな子供のように震える様は我ながら無様としか言いようがなかった。
「ッ!」
ふいに、左腕の肘から先に幻肢痛のようなものが奔る。
今は再生した左腕、直ちに痛覚を遮断するまでのわずかな間。俺は確かに左腕が消し飛んだ時に一生経験するかしないかの凄まじい激痛と喪失感を味わった。
こうして、確かな実感として感じてしまったその痛みがまた帰ってきたようなきがした。
「おいおい、そんな些末なんてとっくに割り切っただろうが」
だから自分自身に腹が立つと同時に、どうしようもなく凡人な自分に悔しさが湧いて仕方がない。
「こんな勝ち確チート貰っといて何もないわけがないってわかってたろ」
乗り越えたはずの障害がまた前にそびえ立って通れない道を、通りたいのに通れない道を凡人は恨めしそうにしながらも通るしかない凡人らしさを、俺という凡人は認めたくない。
自分がどんなことをしたって凡人なのだと認めたくないのだ。
俺はある程度人を救った。
悪人を懲らしめたりもした。
時には濡れ衣を被りながらも面倒事を解決するために尽力したことだってある。
そんな自分が凡人なのだと俺が一番認めたくない。
頭では分かっている。自分はどうあっても凡人なのだと。
けれど俺は納得したくなかったんだ。
世を動かす偉人ような人間でなくても、世を支えるような重要な人間でなくてもいい。
ただ少しでも意味があるような、地味な小さい歯車でもいいから、ほんの少しの非凡人でありたかっただけ。
そんな誰が持っていてもおかしくない凡人が持つただの憧憬で、ただのちっぽけな願い。
そんなありふれたものを俺も持っていただけのこと。
「ただそれだけの、日常が大好きな凡人らしい凡人だろう?」
問いかけるように自分に向けた言葉はそれだけでストンと驚くほど簡単に心へ沁み込んだ。
和紙にこぼされた水滴のように染み渡る自分の言葉はただ言い聞かせているだけの誤魔化し。
でもそうだとして、俺にはなんら不都合がなく、不自由もなく、むしろ快適に過ごすため、潤滑油を指しただけに過ぎない。
「ふぅーっ」
深呼吸をして、やっと落ち着けた。
「以上で終了です。今後の上代さんの行動に期待が集まります。」
完全に平生を取り戻した時には、肝心の取材は終了していた。
少し残念に思ったが、これで発作のようにまた震えが襲ってくるよりはましだ。
時計を見てみると、登校する良い時間だったから飲みかけのコーヒーを素早く飲んでから忘れ物の確認をしたあとに鞄を持って家を出る。
結局途中までしか見れなかった上代の取材はL○NEの溜まった未読数を消化すれば把握できるだろうと考えて通学路を歩く。
その足取りは普段より少し重く、逆に落ち着いているように見えた。
心の傷は未だ癒えなくとも、不安に潰されそうになった時の対処は完璧に近く切り替えも早い。
黒谷蒼太の歩む足取りはとてもゆっくりとしたものではあるが、着実に、しっかりと一歩を踏みしめて歩んでいる。
決して間違えるなと、激励するように。
なかなか展開が進みませんがそこは気にしない方向で。
感想、指摘、アドバイスやコメント等ありましたらいつでもどうぞ。




