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山川の決意(2024年編集)

 ~ 野田市二丁目、みずき公園 ~


 無線連絡で、野田警察署から、北原朋和が駆けつけた。遠目からでも、佐久間の失意が分かる。


(…壮絶な光景だ)


「掛ける言葉が見つかりません」


 全身、真っ赤に染まった佐久間の前で、肩を落とす。


「……大丈夫です。それより、犯人(ホシ)を山川刑事が追跡中です。そちらの援護を、お願いしたい。車内が汚れるかもしれませんが、北原巡査部長には、清水公園まで、今直ぐ同行願いたい」


「清水公園ですか?」


「強奪された金が、清水公園の赤門付近にあると、同僚が遺言してくれました。犯人(ホシ)も逃げながら、清水公園に向かうはずだ。絶対に奪われてはならない」


(------!)


「現場検証は、他の者に任せます。我々は、清水公園へ向かいましょう!」


 佐久間は、もう一度、佐野と池田を強く抱きしめ、心に語りかける。


(お前たちの、…魂のバトン、確かに受け取った。安心して、眠ってくれ)


 佐久間を乗せたパトカーが、清水公園へ急発進する。



 ~ 野田市、清水公園 ~


 佐久間たちが、清水公園に現着した。周囲に、人の気配がない。


(山川の追跡が、功を奏したか?これで、時間を稼げるぞ)


「警部、先回り出来たようで、良かった」


「北原巡査部長、この清水公園には、赤門はいくつありますか?」


 北原は、車内から、野田市内の地図を取りだし、佐久間に示した。


「赤門は、清水公園の入口と、アスレチック施設の入口。この二箇所になります」


「では、道中、手配した通り、五名ずつ、二班体制で配置しましょう。警察車両は、現場から、全て遠ざけて隠してください。各自、持参した私服に着替え、待機です。まだ時が稼げそうだ。…今夜は、月がない。おそらく犯人(ホシ)は、闇夜に紛れて現れます」


「分かりました、手配します」


「一斉に、この場所から離れるのはマズい。赤門の警備をしつつ、交代でいきましょう。それと、赤門付近に隠れそうな建物、身を潜められる場所があれば、手を打ちたい」


「分かりました。公園管理者には、野田警察署(我々)から、話をつけましょう」


「プルルルルルル」


 山川からの着信である。


(捕らえたか?)


「警部、申し訳ございません。松戸方面で見失いました。犯人(ホシ)は、常磐自動車道で逃走。念の為、高速警ら隊に事情を話し、三郷料金所と小菅付近までの、応援要請を行いました。二人は間に合いましたか?」


「…ダメだったよ。だが、大きな置き土産を、遺してくれた。今夜、犯人(ホシ)決着(ケリ)をつける。山さん、野田市の清水公園という、割と大きな公園があるんだが、合流してくれ」


(清水公園?確か、愛宕駅の一つ先が、清水公園駅だったな)


「…分かりました。直ぐに向かいます。一時間以内に、合流出来ると思います」


「了解だ、よろしく頼む」



 ~ 一時間後、清水公園 ~


 山川が合流し、佐久間を気遣った。


「警部、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。犯人(ホシ)への憎しみと怒りが、何とか、支えてくれている。…今夜、全てを終わらす」


(………)


「犯人、現れますかね?」


「絶対に来るさ。リーダー格の佐野が死んだ今、大金を掴むのは、今日しかない。警察組織(我々)の動きが、加速するからね」


「しかし、腑に落ちません。何故、清水公園(こんな所)に大金が?みずき公園では、なかったのですか?」


「佐野が死ぬ間際に、『()に脅された』と、証言した。もしかすると、死を覚悟して来たのかも知れない。余りにも、引き際が良すぎたからね。事情を聞きながら、『佐野が、全てを自供後、自殺するのではないか?』と、勘繰った程だ」


「…そうですか。…佐野()も、『刑事だった』と、言う事ですね」


「ああ、立派な刑事さ。……佐野も、池田も」


「池田は、警部の盾になって、職務を果たしたんです。自分も、同じ行動を取ったでしょう」


(………)


「池田にも言ったが、それは違うよ。私も刑事だ。殉死の覚悟は、出来ている。上司よりも先に、部下は逝くべきではないし、順番が違う。次の世は、若者が守らなきゃならん」


 山川も、珍しく、異を唱える。


「警部のお気持ちは、嬉しいですが、戦国の世なら、佐久間警部は大将です。大将を見捨てる、足軽はいません。大将が足軽に、『自分の事は良いから、お前は逃げよ』と命令しても、足軽は、絶対に聞かないでしょう。それと同じなんです。だから、警部は、ドンと構えていれば良いんです」


(………)


「……分かったよ、山さん。でも、山さんは、絶対に、死なないでくれよ」


「死にませんよ、私は。何があっても、警部も、自分も助かります。そんな事より、今日を生き延びましょう」


「ああ、そうだね。勝負はこれからだ」


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