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消えた花嫁 ~ 佐久間警部の決別 ~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
回り始める歯車
18/26

北原の葛藤(2024年編集)

 ~ 野田警察署 資料室 ~


「これを、ご覧ください」


 北原は、当時の防犯カメラ映像と捜査記録を、包み隠さず、佐久間たちに提示する。


「この事件は、十年前の八月四日、十二時五十二分に発生しました。野田市駅の隣に、梅郷駅があるのですが、駅から数分程度の、野田中央銀行梅郷支店に銀行強盗が押し入り、僅か十五分足らずの内に、当時の金額で、三億五千万円を奪い去りました。概要としては、次の通りです」


 ○この事件では、当時の支店長、櫻井英信が唯一射殺された

 ○その他、被害はなし

 ○櫻井支店長は、翌週には、名古屋市の本社へ栄転する予定であった事が、

  関係者からの聞き込みで、明らかになった

 ○防犯カメラ映像と行員の証言から、犯行グループは四名であった

 ○雰囲気、話し方から、推定二十代~三十代の若い世代で、

  男性三名、女性一名の構成であった

 ○犯行後、グループは逃走用バイクと軽自動車で、県道5号線経由で

  流山方面へ逃走し、数時間後には県境である利根川(新葛飾橋)の

  河川敷きで二台とも発見されたが、どちらも盗難車だった

  (被害届が出ていた)

 ○千葉県警察本部は、特別捜査本部を設置し、犯行グループの特定に

  全力を挙げたが、未だ有力な事件解決に繋がっていない


「これは、口外しないで欲しいのですが、実は捜査中、犯人の一人を、検挙出来そうだったのですが、潜伏場所を、捜索(ガサ入れ)する寸前で、逃げられましてね」


(ほう?)

(ほう?)


「それは、悔やまれますね」


「…ええ。『防犯カメラに映っていた女が、定期的に店に来ている』と、密告(チンコロ)がありましてね。直ぐに手分けして張り込んだのですが、危険を察したのか、二度と現れませんでした。…因みに、その時、初動をミスしたのが、現署長です」


(合点がいった。それで、あの態度に繋がるのだな?)


「さぞ、歯ぎしりしたのでしょうね」


千葉県警察本部(上層部)から、ひどく怒られましたから。重ね重ね、申し訳ありません」


警視庁捜査一課(うち)から送った、写真は見て頂けましたか?」


「率直に申して、『酷似している』と、率直に思いました。特に、女性の特徴が顕著です。伊藤奈緒美が、偽名である疑いが残りますが、捜査に大いに役立つでしょう。……ただ」


「犯人は、野田市には、もう現れない。…そうお考えなのでは?」


(------!)


 北原の顔が、驚きの表情に変わった。


「……佐久間警部は、噂通り、聡明なお方ですね」


(………?)


「噂ですか?」


「ええ。佐久間警部は、心理学に非常に長けていて、推理力や統率力もあり、かつ、部下思いだと。恥ずかしい話ですが、私も、心の底では、署長同様に、『犯人(ホシ)は、野田市(ここ)には現れない』と、思う事も少なくありません。どこかで、諦めている自分がいるのも、事実です」


 佐久間は、北原の肩に、手を置いた。


「北原巡査部長、伊藤奈緒美は、()()この地に現れます。犯行グループが、仲間割れした今、当時の金が、野田市のどこかに隠されている。グループのうち、二名は死んだ。伊藤を除く一名は、人物像が分かりませんが、諦めないで捜査続行です」


(………)


「…そうですね。では、犯行現場を案内します。野田警察署(ここ)から、車で十分程度です」



 ~ 梅郷駅周辺 ~


「ここが、犯行現場となった銀行です」


(………)

(………)


 佐久間は、周辺の地理的条件に注目する。


「山さん、この銀行前の、道路条件なんだがね。…どこかの路地に似ているな」


(………?)


「本当ですか?恥ずかしながら、ピンときません」


「ほら、三つに跨る分岐、駅近。この条件を、警視庁捜査一課(我々)は、確かに知っている。北原巡査部長、この近くに、国道はありませんか?」


「国道16号なら、この場所から、柏方面を見て、左側五百メートル程度の場所にありますが」


(やはりね)


「近くに国道がある点も、港区の中央銀行強盗事件と、条件が一緒だよ。犯人(ホシ)は、同一グループかもしれない。…確か、あの時も、四人グループだった」


(------!)

(------!)


「言われてみれば、そうですね」


「あの、佐久間警部。仮にですが、伊藤奈緒美が、野田市に来るのは、いつ頃だと予想されますか?」


「一ヶ月以内でしょう。警視庁捜査一課(我々)は、わざと、二番目の暗号について、『捜査しているぞ』と、伊藤を牽制した。暗号を知りたい伊藤は、自分が通った道を辿るしかない。その流れで、野田市に来ます。もしかすると、既に、警察組織(我々)を、見張っているかもしれません」


(------!)

(------!)


「本当ですか?だとすれば、どこで見ているのでしょうか?」


 佐久間は、北原を落ち着かせる。


「まあ、待ってください。今のは、例えばの話です。しかし、田中の暗号を知らない、伊藤が取るべき道は、警察組織(我々)の動きを利用して、金の保管場所を探る。この点は、間違いないでしょう。伊藤は、それが分かった時点で、形振り構わず、行動するでしょう」


(------!)

(------!)


「それは、まずいです。直ぐにでも、応援を呼びますか?」


「まだ、早計です。予測の範疇ですし、決定的(これ)といった、有力な情報がない中で、広域捜査を展開しても、伊藤に逃げられます。今出来る事は、人海戦術で、伊藤を探しながら、捜査範囲を狭めていく事です。それが結果的に、一番の近道だと思います。他に、友好な手段が無いか、警視庁捜査一課(うち)で作戦を練りますので、野田警察署には、警らの頻度を上げて頂きたい」


「分かりました。出来るだけの事は、やっておきましょう」


警視庁捜査一課(我々)は、一度引き上げます。何かあれば、直ぐに呼んでください」


 佐久間は、北原と握手を交わすと、梅郷駅を後にした。


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