回り始める歯車(2024年編集)
~ 警視庁、捜査二課 ~
殺人・強盗・立てこもり・誘拐などの、凶悪犯罪を扱う捜査一課とは違い、贈収賄・選挙違反・通貨偽造・詐欺・脱税・サイバー犯罪などの、知能犯を扱う事に長けた課が、捜査二課である。
佐久間は、捜査二課に赴くと、捜査二課の佐野徳行に、暗号の解読を依頼した。
佐野は、几帳面な性格で、サイバー犯罪にも強く、捜査一課としても、頼りにしている存在であるが、その一方で、私生活は謎めいている。昨年離婚したと思ったら、既に再婚して、周囲を驚かせた。
佐久間は、暗号を見た時、まず脳裏に浮かんだのが、佐野の顔である。
「佐野くん、今回も力を貸してくれ。どこかで見た記憶がするのだが、思い出せん」
佐野は、佐久間の困った様子に、快く頷き、メモを受け取った。
「佐久間警部に頼まれて、断れる部署はないですよ。これですね、例の暗号というのは?」
佐野は、メモを見るなり、納得する様子で、紙を透かした。
(ふむ、そういう事ね)
「どうかね?」
「これは暗号というか、十六進数を示したものですね。キーボードで、変換入力する事で、一定の英単語、つまりアルファベットになるんです。実際に、変換してみましょう」
○ 6e 61 66 61 6e 65は、次の文字に変換可能。
○ 6e→n、61→a、66→k、65→e。つまり、nakaneとなる。
○ 6e 6f 64 61は、次の文字に変換可能。
○ 6e→n、6f→o、64→d、61→a。つまり、nodaとなる。
「中根野田と読み取れますね。中根市野田、野田市中根のどちらかでしょう。これは、どこから入手したのですか?ある意味、暗号に見えるし、中々面白いですね」
「渋谷区道玄坂で起きた、殺人事件のものだ。場所の特定をしたい」
「…ん、そうですね。中根と野田で検索すると、該当します。中根だけなら、目黒区自由が丘に、中根公園がありますね」
(中根公園?)
「第二の被害者は、目黒区自由が丘のマンションで、絞殺されたばかりだ。捜査する価値はあるな」
「中根という地名に絞れば、その線もありそうですが、野田と中根をセットで考えるのならば、千葉県の野田市が有力でしょう。野田市には中根という地域があるようです」
「野田市中根か。そちらの方が、濃厚そうだな」
「この暗号を考えた者と、会ってみたいものです。十六進数を使うのは、中々、センスが良いです。あっ、これは殺人事件でしたね。犯人を褒めて、申し訳ありません」
「いいや、良いんだ。振り回されて、困っていたところだよ。本当にありがとう。二課長にも、よろしく伝えてくれ」
「ええ、伝えておきます」
(…千葉県か。状況次第では、千葉県警察本部に、捜査協力を要請しよう)
歯車が、ゆっくりと回り始める。




