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○○って飛ぶんですね。

 








「お前は羽根でも隠しもっておるのか?」


「いえ、持っていませんわ」


「羽根も持たずそのように落ちていけば、熟れた実のように潰れてしまうだろうに」


 確かに、このままいけば綾は数分もしない内に地面に叩き付けられてぺしゃんこになるか、木に突き刺さってしまうか、どちらにしても大変残酷な結果になるのに間違いない。

 それを分かっているのかいないのか、問いには答えず綾は微笑んだまま男に質問した。


「貴方は大丈夫なんですの?」


 こうやって悠長に喋っている最中も勿論、綾も男も更に絶賛落下中である。


 おかしな娘だ、と男は思った。

 この高さだ。 迫りくる死への恐怖でとうに失神してもおかしくないのに、正気の目をして笑っている。

 男は、ここより更に遥か上空で、いつものように“群れ”への帰路を送られる途中、丁度良さそうなところで飛び降りたばかりだった。 着地する方法も無論あつてのことだ。 そうしてすぐに、綾を見つけたのだ。

 空中にあって急速落下中のため、スカートを押さえて身動きも上手く取れない綾と違い、男はすいすいと滑るように動いて、綾の周りをからかうように回れる程度には余裕があった。


「羽が無くとも我らには造作もないこと。 しかしお前はこのままであれば間違いなく死ぬだろう……が、助けてやらんこともない」


 高飛車な男の言葉にも、


「まあ、……それはありがとうございます」


 綾は助かりますわ、とにこにこ笑って礼を言った。


 おかしな娘だ。

 男は再度そう思った。


 落人おちゅうど――綾のように空から突然落ちてくる異世界の人間のことを、獣人族はそう呼んでいる。

 貴重な落人は保護すべきモノであると言うのは、全ての獣人族の総意である。


 その今まではごく稀だった落人が、最近は晴れ間に時々雨が降るような頻度で落ちてくるらしい。

 上位種同士での付き合いで耳に入る話題でそれを聞いても、欠片も興味を持てなかったのに、実際の落人とまみえてみれば……至極興味をそそられた。

 男にしてみれば、それこそとても貴重で稀なことだった。


 落人とは、己の目の前にして初めて価値の分かるものなのかも知れなかった。


 そんなことを男が考えている内に、もう地面は目の前だった。

 男にしても、そろそろ動かないと娘と同じように地面に叩き付けられてしまうだろう。

 男は、綾の身体の遥か下の大地に目をやって、下りる位置を確かめた。


 ――いつもの場所へ行くにはもう高さが足りぬ。


 大きく根を張る巨木が斜め下辺りにある。 あそこが良いだろうとアタリをつけた後に、娘を見ればじっとこちらを見ている。


 男はにやり、と笑った。

 この姿は落人から見れば大変に恐ろしく映るのだと聞いた。 それでも動じない娘。


 ――これから無聊をかこつ己の慰めになるやも知れぬ。


「では娘。少々手荒なことになるが生かしてやる。……目を閉じろ」


 男の言葉に、綾は素直に目を閉じた。

 男は大きくその口を開いた。


 綾は、横腹にぶつかってきた何かの強い衝撃で、意識を失った。







 

※貴重だから保護する、と言うのは獣人族が落人を保護する理由を“男”が推測して導き出した回答であり、他の獣人族の方達の考えが同様と言うわけではありません。

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