きらいなものばかりで、
ひゅう、と鳴って通り過ぎた風の音。
執務室でひとり書類に目を通していた男は、屋敷の外に広がる赤と黄にへと色づき始めた森へ目をやった。
――もうすぐ、冬が来る。
……男は冬が嫌いだった。
凍てつき、誰しもを眠らせてしまうから。
……春も嫌いだった。
浮かれ騒ぐモノたちの気が男には騒々しくてしょうがなかったから。
……夏も嫌いだった。
炎熱のごとき暑気は男を日の下から追い出してしまうから。
……秋も嫌いだった。
冬を予感させる寒さが男に冬の訪れを否応なしに思い起こさせるから。
――男は世界を、その全てを倦んでいた。
「……されど我に、世界を拒むことはできぬ」
男にはその肩からおろすことの出来ぬ責があり、それは男をおいて出来るものはいなかった。
男は遠くそびえる山々のその白い頂を、いつものように気鬱に包まれた瞳で見つめた。
◇◇◇
『かじゅちさま』
執務室と廊下を繋ぐ扉の隙間から“ちいさきもの”――男の一族の将来上位種となる保護されるべき幼きものが、顔をのぞかせていた。
「なんだ」
書類に目を落としたまま男が声を掛けると、許しを得たとばかりにすりすりと這い寄ってきたちいさきものは、執務席に座る男の足元に辿り着くなり、急くように口を開いた。
『かじゅちさまっ、かじゅちさっみゃっ』
焦るあまりに舌を噛んだらしい。
このちいさきものは、その中でも遅くに生まれた為にまだ“言葉”をうまく使うことができない。
ぴるぴるぴるっと舌を出し入れした後に、落ち着かなげに首を振ると男を見上げた。
「乗れ」
溜息を吐息に変えた男は、上体をかがめると手の平をちいさきものへと差し出した。
ちいさきものはその目をぱあっと輝かせると男の手の平へと身を乗り上げ、すべらかなその体をくるくると腕に巻きつかせて、その鼻頭を手の平へとつけた。
《カヅチ様、おちゅうどのひめ様が目をさましました》
「……あれには近寄るでないと申し渡しておった筈だが」、
《カヅチ様がおそろしいものではないとおっしゃっていらしたので》
落人への好奇心と男への全幅の信頼があったから、と心を隠さぬ様子で告げられた。
この様子であれば他のものの行動も察せられる、と己の推測にもう一度嘆息した男は、ちいさきものを腕に絡ませたまま、落人のところへと向かった。
男が扉を開ければ、はたしてそこにはちいさきもの達で溢れていた。
先のちいさきものが知らせに来た時点で半ば予想していたとはいえ、その純真なる好奇心に男の眉間にしわが寄る。
『かじゅちさま〜』
『かじゅちさまきたっ』
『かじゅちさま』
連れてきたちいさきものを男が身を屈め足元へおろすと、擦り寄ってきた他のちいさきもの達が、ずるいずるいとうらやむ声を上げた。
「此処には近寄るでないと言うたであろう」
抱き上げて欲しいと言わんばかりに男を見上げるのを、言いつけを守らなかっただろうと手を軽く振っていなし、そちらへと目を向ければ。
扉から一番離れた一角にあるベッド上で、落人の娘が男――カヅチを見ていた。
どシリアスな雰囲気に癒しをぶちこんでGo!………みたいな感じd(ry
一部修正入りました。
2011 1 20




