ちいさきもの。
すみません、本当に大変お待たせしました。
前回迄分は(大筋は変わりませんが)かなりの大幅修正をしてあります。
内容が全く思い出せない場合は、お手数をおかけして申し訳ありませんが読み直しをオススメ致します。
いや何となく覚えてるよ、な方には、簡易的な粗筋を下にご用意しましたので、そこをご覧下さい。多分コレで合ってます。
初めて当作品を読まれる方には100%ネタバレなので、下記には目を通さず目次から最初に飛んで頂ければと思います。
前回迄の大まかな粗筋。
異世界に落ちてきた娘が、蛇族の“白の群れ”の長の白蛇に助けられた後、長のあまりのフラグクラッシャーぶりに、これから先どうなるのかと不安の余り林檎の木に登って黄昏たところまで。
くしゅん。
寒さに小さなくしゃみを一つした綾は、山の空気に冷えきった己の肩を抱いた。
林檎の木に登った時には高い位置にあった日も、惚けていた間に随分と斜めに傾いでいる。
周囲の景色はそこら中に橙をぶちまけて塗りたくったような色へと染まりつつあった。
秋の日はつるべ落としとは良く言ったもので、日が落ちるのが早い。 山の麓が日の陰りに呑込まれていくのが目に見えて分かる程だった。
そろそろ帰らなくては心配やら何やらをかけてしまうと、日が暮れてきたのを期に、綾は寒さと凝りに固まった背筋をそらしてぐぐうっと伸ばしてから、下りるべく自分の足元を見おろした。
自分の足先を置いている枝の上、暗闇に沈んだ木陰の隙間から目を光らせたちいさな蛇たちが何匹も枝に巻きついて、じっと綾を見ていた。
「きゃあっ」
一人きりだと思って油断していたところに、その不意打ちの怪談じみた様相に驚いた綾は、思わず叫び声を上げた。
その悲鳴に蛇――ちいさきもの達はびくっとその身を震わせて、頭を大きく仰け反らせた。 その勢いで何匹かが枝から落ちそうになる。
慌てたように体を枝に巻きつけ直す様子に自分こそ驚かせてしまったようだと、綾は己の跳ね上がった心臓の動悸を抑えるために幹を掴んでいないもう片手で胸元を押さえて軽く深呼吸をした後、驚かさないようにとそっと謝罪した。
「……大きな声で驚かせてごめんなさい。 一人きりだと思っていたから驚いてしまって」
そう声を掛けた綾に、やはりカヅチの言った通りに同種の蛇族でなくとも人の姿をした者の言葉をきちんと理解している様子で、懸命にふるふると首を縦に振るちいさきもの達の姿は、綾の笑みを誘って未だ苦しい胸の内が癒される心地がした。
綾は掴まっていた幹に手を添えて身軽く立ち上がると、足を乗せていた枝へ下りてちいさきもの達のすぐ傍に腰を掛ける。
そうして、じっと己を見上げているつぶらな瞳に話しかけた。
「それにしてもこんなところでどうなさったの?
……もしかしてここは貴方たちのお気に入りの場所だったりしたのかしら?」
お邪魔をしてしまっていたかしら、と綾が首を傾げるとちいさきもの達は慌てたように今度は首を横に振って否定した。
「なら良かったですわ」
綾の微笑みに、ちいさきもの達もその細長い舌をぴるぴると震わせた。
カヅチの言う通りに、綾には口ぐちに何かを訴えるその様子を見ても、言葉として何も聞こえないし細かな意味も分からない。
しかし、綾への好意は伝わってくる。 何となくだが、一緒に居れて嬉しい、と言われているような気さえしている。
思い返せば、出会ったその時から既にちいさきもの達の好意は向けられていたよ思う。
綾が目を覚ました時、見慣れぬ部屋に寝かされていた上に、小さいとはいえ数十匹もの蛇が床のそこら中を這っていた。
更に己の横たわる寝台の掛布の上、片腕分も離れていない目と鼻の先には、チラチラと舌を出してこちらを見つめる小さな蛇が数匹。
綾はその光景にたっぷり固まった後、夢の続きではないかと思い至り、では確かめようと、勢い良く起き上がった。
そうして何の前触れもなくいきなり己の腕に赤い痕を作つた綾に、掛布上に乗っていたもの達はびっくりしたように離れた。
現実であると間違いようのない痛みを覚えたことと、寝起きには激しい行動に頭がついていかなかったのか、くらりと目眩を覚えて再度寝台に伏し投げ出された綾の腕を、恐る恐る近づいてきた一匹が、ちろちろと小さな舌で赤くなった場所を舐めた。
一生懸命に癒そうとしてくれているようではあっても、噛みつく気配など微塵もない。
綾は今まで特に蛇や爬虫類を得意だと思ったことなどなかったが、そんな小さな蛇達は見慣れてくれば可愛いらしく感じられた。
混乱はまだ治まっていなかったが、それで幾らかの冷静さを取り戻した綾は、その後カヅチが部屋を訪れた際にも取り乱した姿を晒すことなくいられたのだった。
「貴方達は本当に可愛 らしいですわね」
ちいさきもの達の存在が、綾の”白の群れ”への執着を強めている一つであるのは間違いない。
今も、一心にこちらを見つめて何かを訴えるつぶらな瞳に、艶やかで滑らかな表皮、くるくると動き回る幼げでコミカルな動きの全てが本当に愛らしいと、綾は時間を忘れてうっとりと眺める。
しかし、山の稜線の向こうへ本格的に姿を隠そうとする夕陽に気付き、そろそろ本当に帰らねば不味いと、綾はちいさきもの達に帰りを促す声をかけようと口を開いた。
だがしかし、それは違う声に遮られ果たされなかった。
「そこにおるのか」
木の下から、男の声が聞こえた。
この声の主は…?
すみません、一回目掲載から二年経ってました。自分で自分に吃驚です。
言い訳は活動報告にしてあります。
女子向けに何とか近づけるよう、次も頑張ります。女子向け恋愛ものとか…なぜ手を出した。あーハードル高い…