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Vtuberをさぼってみた(リメイク)  作者: 東海林


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本社についてみた

女の子――いや、まだ名前を知らない子に案内してもらい、俺はようやく目的地に到着した。


「……ここか」


目の前に建っているのは、思っていたよりもずっと大きなビルだった。

これが、闇音恋歌が所属している事務所の本社らしい。


「結構デカいな……」


Vtuber事務所って、こんなに大きな建物が必要なのか?

そもそも事務所運営って、そんなに儲かるものなのだろうか。

俺が活動していた頃は、自分の家で配信していただけだった。


個人勢なので当然だ。

だから、企業のVtuber事務所というものがどういう仕組みになっているのか、俺はよく知らない。


「……本社に何しに……来たの?」


隣にいる女の子が、ビルを見上げながら聞いてきた。


「なんか呼ばれたから来た」


「……そうなんだ」


「うん」


そういえば、昨日からずっと一緒にいるけど、この子には何も説明していなかった。

まあ、聞かれたから答えただけだ。


「そういえば、君はどこに住んでるの?」


「……私?」


「うん」


「……川崎です」


「川崎のどの辺?」


「……高津区」


「へえ」


「……どこに住んでるんですか?」


「俺も川崎。高津区」


「……え」


女の子が少し目を見開いた。


「私の家から……近いかも」


「本当に?」


「……うん」


「じゃあ、そのうちどこかで会うことがあるかもな」


「……そうですね」


女の子が小さく頷く。

川崎に住んでいると言うと、何故かやばい人が住んでそうと思われることが多い。


いや、別にそんなことはない。

川崎にだって普通の人は大量にいる。


……まあ。

川崎駅周辺は、たまに本当にどうなってるんだと思うような人がいるけど。


それはそれだ。


「……」


「……」


ふと気付く。

俺たちは本社の目の前に立ったまま、ずっと喋っている。

傍から見たら、かなり怪しい二人組なのではないだろうか。

しかも、俺はこれからこの会社に呼ばれている身だ。


「とりあえず、中に入ろう」


「……うん」


女の子も頷いた。

俺たちはそのまま本社の入口へ向かった。

中に入ると、すぐ目の前に受付がある。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でお越しになりましたか?」


受付の女性がこちらに声をかけてきた。


「闇音恋歌さんのマネージャーさんに呼ばれて来ました」


「……雛罌粟さんですか?」


「はい。そうです」


受付の女性は、手元の資料を確認してから顔を上げた。


「お待ちしておりました。それでは、三階へお進みください」


「ありがとうございます」


「お気をつけて」


俺は軽く頭を下げる。

それにしても。


「……普通に美人な人だったな」


まあ、受付なんだから当然なのかもしれない。

そんなことを考えながらエレベーターへ向かう。

扉が開いたので乗り込む。


すると――


「…………」


何故か女の子も乗ってきた。


「……ん?」


別に乗ってくること自体はいい。

ただ。


「てか、君もついて来てるけど、用事は大丈夫なのか?」


「……三階に用事があるから」


「三階?」


「……うん」


「そうなんだ」


なるほど俺と同じ階に用事があるらしい。

何の用事かは分からないが。

エレベーターが動き始める。


そして、しばらくして。


チン。


三階に到着した。

扉が開く。


俺は先に降りる。

そして周囲を見渡した。


「……結構普通だな」


想像していたよりも普通の会社だった。

フロアの半分くらいには、一般的な会社と同じようにデスクが並んでいる。

社員らしき人たちがパソコンに向かって仕事をしている。


そして、もう半分。

そちらには、向かい合うように席が配置されている。

打ち合わせスペースなのだろうか。


「……どこで待てばいいんだ?」


受付からは三階へ行けと言われただけだ。

とりあえず邪魔にならない場所で待っていればいいだろう。

そう思っていると。


「雛罌粟さんですか?」


「はい?」


後ろから声をかけられた。

振り返る。

女性が一人、こちらへ歩いてくる。


そのすぐ近くにはトイレがある。


「……トイレから出てきたのかな」


まあ、どうでもいい。

女性は俺の前で立ち止まった。


「お待ちしておりました」


そして、丁寧に頭を下げる。


「闇音恋歌のマネージャーをしております、宮本紗南と申します」


「雛罌粟です。よろしくお願いします」


俺も頭を下げる。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


宮本さん。

それが闇音恋歌のマネージャーらしい。

思っていたより普通の人だ。

もっとこう、Vtuberのマネージャーというからには、何か特殊な雰囲気の人なのかと思っていた。


「それと……」


宮本さんが、俺の隣を見る。


「早坂葵さんは、どうして雛罌粟さんとご一緒に来られたのですか?」


「……道案内をして来た……から」


女の子――早坂さんが答えた。


「そういうことですか」


宮本さんは納得したように頷く。

そして、フロアの奥を指差した。


「早坂さんのマネージャーさんでしたら、あちらにいらっしゃいますよ」


「……ありがとう」


早坂さんは小さく頭を下げる。


「それでは、私はこれで」


「うん」


早坂さんは宮本さんが指した方向へ歩いていく。

俺はその背中を見送る。


「早坂葵……」


初めて名前を知った。

昨日からずっと一緒にいたのに、今まで知らなかった。


「……葵っていうのか」


そういえばマネージャーがいる。

しかも、わざわざ本社まで来ている。


「…………」


俺は葵の後ろ姿を見る。

もしかしてこの子もYouTuberなのか?


いや、待てもしかするとVtuberかもしれない。

この事務所の社員らしい人にマネージャーが付いているということは考えにくい。


ということは、何らかの活動をしている人なのだろう。


「こんな感じで喋るVtuber、いたかな……」


俺は少し考える。

……分からない。


そもそも俺は、Vtuberにそこまで詳しくない。

自分が活動していた頃も、他のVtuberの配信を積極的に見ていたわけじゃない。

だから、分からなくても仕方ない。


「まあ、いいか」


俺はそう結論付けた。

それより今は、自分の用事だ。


「申し訳ありませんが、闇音恋歌がまだ来られておりませんので、こちらの席でお待ちください」


宮本さんに案内され、俺はフロアの一角にある席へ向かう。


「失礼します」


椅子に座る。

宮本さんも向かい側に座った。


「……」


周囲を見る。

会社員らしき人たちがパソコンに向かって仕事をしている。

電話をしている人もいる。

何か資料を確認している人もいる。


……ここでいいのか?


ふと疑問に思う。

俺は完全な部外者だ。

それなのに、こんな普通のデスクが並んでいる場所に座っている。

普通に社員同士の会話も聞こえてくる。


これ、社外秘とか大丈夫なのか?」 


俺が心配することでもないのだが万が一、ここで会社の重要な情報が聞こえてきたらどうするんだ。


……まあ聞こえてきたところで、俺にはどうしようもないけど


企業秘密を聞いたところで、俺は企業の人間じゃない。

そもそも何が秘密なのかすら分からない。

そんなことを考えていると遠くから誰かの声が聞こえてきた。


「――なので、次回の配信については……」


「…………」


……本当に大丈夫なのか?

俺は少しだけ不安になりながら、闇音恋歌が来るのを待つことにした。

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