最終章 旋律は終わらない
二人がステージを下りた後も、拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
電力が復旧しても人々はステージの前で拍手を打ち鳴らし続ける。
まだ曲が続いているかのように、主役の時間が終わっていないかのように。
「……終わったな」
「……うん」
舞台袖にはけたにも関わらず、まだ熱狂は冷めやらず、二人の鼓動は高鳴り続けていた。
汗だくの二人は顔を見合わせ、軽くハイタッチする。
「これで、全ては終わりか」
後は野となれ山となれ、記事がどう転ぶかを祈るのみ――。
「……これで終わりなわけがあるか、半人前」
そう言いながら舞台裏に入ってきたのは奏一だった。
淀みない足取りで二人に近づき、真正面から向かい合う。
数秒、沈黙が流れた。
……口火を切ったのは、奏一。
「……音楽の道に行きたい、だったか」
「うん。……お父さんは反対するかもしれないけど、それが私の夢だから」
「……夢か」
奏一は軽く笑った。
今までの人を小馬鹿にしたような笑いじゃない。
普通の父親みたいな笑い方で。
「独学でやってきたお前の演奏では音高に行くのは難しいだろう。音高に受かるための知識も技法も何もかもが足りていない」
「……そんなの、しってる」
「だから、学び取れ」
詞音が意外そうに父親の顔を見た。
奏一の表情は――憑き物が落ちたかのようで。
「目指す未来があるならば、入学試験が始まるまでに足りない技術を会得しろ」
「それって……」
「行ってこい。音楽の道に」
はっきりと、奏一は告げる。
「ただし逃げて戻ってくるな。それが約束だ」
「……うん……」
一度、詞音は小さく呟いて――。
「……うんっ!」
もう一度、大きくそう言った。
そして鋼志郎と手を合わせて二人で無邪気に喜んでいる。
これで本当に全ての懸念すべきことが終わったかのように、何もかもが終わりを告げたかのように――。
「――終わりではないと言ったばかりだろう、馬鹿者共め」
二人の肩を掴んで、奏一はステージに向けて押していく。
再び、光のステージが近づいてくる。
そこにはまだたくさんの観客たちがいる――。
「音楽家になるなら、観客の声に耳を傾け続けろ。残心が足りないのだ、阿呆共」
観客席からは、まるでコンサートのようにアンコールが響き渡っている。
きっと仕掛け人は海司だろう、本土のアンコール文化なんて知っているのは彼くらいだろうから。
クラスメートたちにも仕込んでいたのだろうか、気づけば数百名もの観客たちが全員手を叩きながら二人の登場を待っている……。
「カーテンコールだ。行ってこい」
「……うん!」
詞音は大きく頷いた。
そして、取り戻したばかりの笑顔を父親に向けて――。
「行ってきます、お父さん!」
手を振りながら、鋼志郎と共に舞台へ戻っていく。
二人が姿を現すと、観客からの声はより一層強くなった。
拍手も歓声も、なにかを期待するかのように盛り上がっていく。
舞台上を歩いて行く二人には、もう何の憂いも存在しない。
緊張すらも存在しない。
全ての島民と今日を楽しむ、ただそれだけを願って、二人は堂々と舞台を往く。
「期待に応えてやろうぜ! ……もう一回、あの時の熱狂を見せてやろう!」
鋼志郎がそう言った。
「うん! ……もう一回、皆で楽しもう!」
詞音が笑いながら頷いた。
二人が楽器を構えて、息を合わせる。
観客たちも、手拍子の準備をしながらそれを待つ。
もう一度始まる、何度だって始まる。
あの時の演奏が。
人々を楽しませる協奏曲が。
「みんなでもう一度! 最後まで一緒に楽しもう!」
暗い世界を彩る狂詩曲が、世界に響き渡った。
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