番外編18 闇運営の愛が深すぎる
俺は説明を読み終えて、机に突っ伏した。
疲れた。
ただ攻略情報を読んでいただけなのに、山岳哲学と物理エンジンと民俗学とトロフィー名の皮肉と開発者の狂気を浴び続けた。
真の大霊峰。
天然地雷をオンにする項目名。
真の大霊峰と真の英雄の一騎打ち。
背後の小舟から始まる史実ネルソンルート。
海食崖百三十二メートル。
上部五十六メートルの玄武岩質オーバーハング。
旗三本。
二十二日以内に生還。
さらに、テントで五万メートルを音速下山。
ソニックブーム専用に二百回以上試走。
先住民に祈られるテント。
猛禽類の回避、威嚇、防御。
虚数解。
英雄は逃げない。
情報量が多すぎる。
山より先に公式説明で高山病になる。
それでも、不思議と嫌いになれない。
この運営は、確かに闇だ。
人物モデルは怪しい。
掲示板の禁止ワードも怪しい。
クレジットの無名コメディアンも怪しい。
ハリウッドに喧嘩を売っている疑いが濃い。
だが、山への向き合い方だけは異常に誠実だ。
バグを見つけたら、ただ潰すのではなく、ゲーム体験と思想に組み込む。
文化を扱うなら、現地取材する。
危険を扱うなら、予兆と理屈を置く。
笑いに振るなら、全力で振る。
ネルソンへの敬意は、もう崇拝に近い。
ただし、崇拝の中にもツッコミを忘れない。
英雄は逃げない。
淡々としている。
冷静で、馬鹿馬鹿しくて、少し優しい。
俺はゲーム画面を見た。
難易度ネルソンは、まだ未解禁。
真の大霊峰も、当然触れない。
テント下山なんて、今の俺には遠い未来どころか、別の生物の遊びだ。
でも、いつか見てみたいとは思った。
音速で山を転がるテント。
空で猛禽類が進路を変える瞬間。
先住民が祈る小さな姿。
麓で湿地に突き刺さり、山が最後に爆発で返事をするところ。
そして、トロフィー。
英雄は逃げない。
「山、スゲーな」
俺はつぶやいた。
それから、少し間を置いて言い足した。
「運営も、だいぶ山だな」
人間かどうか疑わしいのは、ネルソンだけではなかった。
このゲームを作った連中も、たぶん開発室のどこかで、何かの崖を登っている。




