第12話 チュートリアルで100回死ぬ男と、それを褒める男
ダウンロードを終えて起動すると、荘厳な音楽とともにタイトル画面にデカデカとガルダが映し出された。
雲を突き破ってそびえ立つ、あの五万メートル級の壁。
ゲームなのに、思わず息をのむ。
「よし、まずは……チュートリアルだな」
そう思ったところまでは良かった。
結論から言うと、操作説明だけで百回は死んだ。
歩き方、ピッケルの刺し方、ロープの使い方、アイゼンの前爪をひっかけて滑落、足場の雪庇を踏み抜いて滑落、踏み出した先がクレバスで滑落。
チュートリアルとは名ばかりの、死にゲーだった。
画面端にカウントされていく「DEATH: 001」「DEATH: 002」……
いよいよ二桁に乗ったあたりで、なんかもう笑えてきた。
「おかしいな、俺、現実で噴火生還してるんだけどな……」
あまりにも下手くそだったので、途中からプレイ画面を録画して、隊長さんに見せてみた。
喫茶店の隅の席で、ノートPCの前に二人で並ぶ。
俺が滑り落ち、クレバスに落ち、岩に潰される様を見て、隊長さんはなぜか真剣な顔をしていた。
「……どうです? 笑ってくれてもいいですよ?」
「いや、笑うところがない」
「えっ」
「見ろ、この雪庇の形。ギリギリのところで色が変わっている。雪崩の危険ラインの描写がやたらリアルだ」
「そういう視点ですか」
「落石のシーンもそうだ。最初に小さな石がカラカラ転がっているだろう。あれが『兆候』として描かれている。プレイヤーが気づきさえすれば避けられるようにしてある。これはかなりプレイヤー思いだ」
「プレイヤー思い」
「滑落も、いきなりゲームオーバーになるんじゃないんだな。一瞬だけ復帰判定がある。ピッケルがうまく刺されば、ぎりぎり止まれる。生死の境目を『ほんの一瞬の体勢』に置いているのは、ゲーム的な救済措置に見えて、実はかなりリアルだ」
「リアル……なんですか?」
「実際の山でもな、落ちてからの数秒で生死が決まることはある。とっさにピッケルを刺せるか。体を丸めて滑落方向を変えられるか。そういう瞬間が本当にある。そして、何より大事なのは――」
隊長さんは、何度目かの俺の死亡シーンを一時停止して、落ちていくキャラの顔を指で指した。
「生きようと足掻くことを、ゲームがちゃんと『意味のある行動』として組み込んでいる。生存を諦めないことが、本当に大事なんだ」
登山シミュレーターの死亡画面を前に「生存を諦めないことが大事」とか言う人、初めて見た。
でも、その声には妙に説得力があった。
「……そんなに褒めるゲームだったんだ、これ」
「いいぞ、この開発チーム。リアリティの線引きがうまい。お前、これでちゃんと練習しろ。現実より死ぬ回数が多いうちに学べ」
ゲームでの死が、なんか妙にありがたい教訓っぽく聞こえてきた。
いや、でも死ぬのは普通にイヤなんだけど。




