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8、これぞ、大逆転の大勝利の大団円ってもんでしょ!…え?


 

 腐ちゃん入り殿下に言われるまま、祭壇に祈りを捧げる。

 …それにしても、俺たちが両手を繋いでする必要ってあるんかな。

 綺麗に手入れされた殿下の手は、すみずみまで綺麗で滑らかでまるで女の人の手みたいだったけど、それでもやっぱりリリィディアたんのそれよりずっと大きくて、指の一本一本まで太くてしっかりした厚みがあって。

 何が言いたいのかというと、しっかり男の人の手で。指を一本一本絡めるようにして繋いでいると、ムズムズするというかそわそわしちゃって全然集中できない。

 駄目なんじゃないのかな、これ。

 そう思って閉じていた目を薄っすら開けてみてみると、目の前のその人は、しっかり目を開けて俺をうっとりとした甘い瞳が見つめていた。つか近付いとるんじゃ…。ぎゃー!!

 ぶちゅっ。とされる寸前、祭壇から強い光が奔る。

 その光の中心にいる人こそ、俺のもうひとりの最推し。つか、最推しカプの片翼。

「リリィディアたんのままん…」

 淡い金色をしたリリィディアたんの髪より更に淡くやわらかな金の色をした髪とどこまでも深く蒼く静かな海の底のような瞳の色。大きな瞳は少しだけ目尻が下がっており、娘であるリリィディアたんの高潔なる凛々しさを感じさせる顔にそっくりなのにどこか愛らしく見える。

 少女の様にも見え、母性を感じもさせる。不思議な女性。

『我《あが》が妻…ずっと、お会いしとうあらしゃいました…』

 ままんが手を伸ばすと、それまで巨竜であったぱぱんが人の形をとってふわり降りてくる。

 絡む指。お互いを引き寄せ合い、強い光の中でふたつの影がひとつになる。

 これだ。俺は、これが見たかった。

 見つめ合うふたり。

 お互いの視界には、相手しかいない。完璧な世界。

 ずっと、憧れていた光景がいま、目の前に広がる。

「よがっだー。よがったねぇ。ねぇ、腐ちゃんんん…」

 俺はだらだらとだらしなく涙を流しながら、その光景に見入っていた。

 本当に、良かった。

 俺がずっと見たかった光景が、目の前にある奇跡が信じられない。

 報われた! 俺の転生七転八倒リリィディアたん人生は今、報われたのだ!!

 目が釘付けになったままの俺は、涙とか鼻水とかいろんなものが駄々洩れになっていて息をするのも苦しい。正直きちゃない。

 そんな俺に躊躇することなく手を伸ばした隣に立つ人に、呆れられながら鼻をかませて貰う。ずびーっとね。はぁ、息が楽になった。一瞬だけだけど。

 殿下のポケットに入っていた繊細なレースと刺繍が施されたそれが、俺から放たれたハナタレでぐしょぐしょで、俺の流し続ける水分をすべて受け止めるのは無理っぽい。

 それでも、腐ちゃん入り殿下は気にせず笑って、「よかったね」と一緒に喜んでくれた。


『力が使えるようになったという事は、この国から受けた楔はすでに解けたのだろう? リリィディアは、これからどう致すつもりだ』

 ぱぱんに訊かれて気が付いた。

「……ふたりを逢わせることまでしか考えてなかった」

 そう。前世の記憶を取り戻してからずっと、俺はリリィディアたんのぱぱんとままんの純愛を取り戻したい、それしか考えてこなかった。

 失敗したらどうしようと考えるのも、二人が会えないままだったら嫌だ、ということばかりが頭にあって、自分の将来がどうなるとかどうしたいはまったく考えたことがない。

 自分の猪突猛進具合に頭を抱えていると、ままんがそっとその嫋やかな腕の中に俺を包み込んでくれた。

『此方の中には、身共らのことしかあらしゃいませぬのか。なんと、健気な愛々しい子であろう』

 自らの心臓を贄にすることで、使えない筈の竜の力を使ってまでリリィディアたんを産むことを決めた強い母親でもあるリリィ様。

 最推しカプの片割れの腕の中にいる自分が信じられない。

 あわわわわわわわわわ。

 ──これが、会いに行けるアイドル伝説のハグ券か!!!

 地下アイドル相手なら札束で殴るようにすれば手に入るそうだけれど、まさか乙女系ゲームのバッドエンディングにしか出てこないキャラ相手にそれを叶えることができるとはおーもーわーなーかったーーーー!!!

 死ねる。今なら幸せなまま、俺は死ねる。

 今世にもう悔いはない。このまま、幸せな気持ちのまま、死ねるなら本望だ。

 ふわふわと完全完璧なる多幸感に酔いしれていると、ぐいっといい香りのする柔らかな腕が俺から離れていった。あー…。

 ままんの腕はぱぱんによって引き剥がされ、俺の腕は腐ちゃん入り殿下によって引き寄せられて。

 もうちょっと天国を味わっていたかったけど、ぱぱんの、娘相手でも嫉妬しちゃうってご尊顔が。なんというか、もう尊過ぎて身もだえする。

 思わず俺は「ごちそうさまです!!!」と叫んでいた。

 うっとりと両親が抱き合う姿を見上げていると、横に立っていた腐ちゃん入り殿下から、顎を持たれてぐいっと引き寄せられた。

 強引に合わせられた視線が、その怒りを伝えてくる。

「えっと、その。…ごめんなさい?」

 怒っている理由は判らなかったけれど、この幸せ心のスチルを実現してくれたのは腐ちゃん入り殿下の協力があってこそなので、とりあえず下手《したて》に出てみる。けれど、俺を睨みつける瞳のハイライトは消えたままだ。

「ユリオの最愛はだれ?」

「さいあ?!」

 ひぇっ。突然、聞きなれない単語を言われて心臓が跳ねる。

「だれ?」

 そんなことを言われても…

「さ…最推しカプなら、リリィディアたんのご両親でございますです」

 あとは…他ジャンルの推しでも上げていけばいいのだろうか。

 怖い顔で睨みつけられてどうしていいか判らない俺と、そんな俺を許すことなく睨みつけている腐ちゃん入り殿下に向けて、ぱぱんが声を掛けた。

『そろそろ人が来る。一緒に来るか?』

 俺は、その言葉に激しく頷いた。




 ぱぱんの大きな背中に、腐ちゃん入り殿下とふたりで乗せて貰う。

 地下神殿に開いた大きな穴からは、いつの間に上ったのか朝日が差し込み始めていた。

『行くぞ』

 短いその言葉で、俺は記憶を取り戻してから17歳までを過ごした王国を後にした。

「すっげーー!!」

 神竜の背に乗っていいのかとか、誰にも別れも告げなかったなーとか、レイン様、いきなり大切に隠し持っていた紅い鱗も、一目ぼれした竜人の遺骸もなくなったのを知ってどう思うんだろとか。

 いろいろなものが頭の中で渦になって浮かんでたんだけど、一気に吹き飛んだ。

 というか。

 去り際に、ぱぱんが強大なブレスを王城めがけて一発ぶっ放していったので、そんな感慨なんて全部一緒に吹っ飛んじゃった感じ。

 晴れた日は、その尖塔からは大陸の端から端まで見渡せると謳われた高い塔は今は単なる瓦礫の山だし、美しく優美なラインを描いていた城も、すべて平屋使用になっている。

 ただし、もともと一晩中地面が揺れていたせいなのか、すべての人が庭へ出ていたので死人はいないようだ。怪我人は結構いた。主に、王城真ん中に開いた大穴を出入りした光翼の神竜(ただし先代な!)の姿に腰を抜かしたり、強大なブレスがぶっ放された衝撃に吃驚して転んで足首を捻ったりした人が山盛りでたっぽい。なんでそんな細かいことが判るのかは判らないけど、腐ちゃん入り殿下…もう面倒いから腐ちゃんでいいか。腐ちゃんと手を繋いでいると、頭の中に情報が届く。不思議だけど。

「ユリオの夢は、これで叶ったんだよね?」

 俺の細い女の指よりずっと太い親指が、繋いでいた手の甲を撫でる。

 その感触に、なぜか激しく動悸がしてくる。ただ撫ぜられているだけなのに、妙に恥ずかしくなってきて焦る。

「うん、そうだね。うん。完璧だよ、ありがとう。腐ちゃん」

 上擦った声で返事する。ナニコレ。心臓がメチャ五月蠅いんだけど。

「じゃあ、僕の夢も、叶えてくれるよね?」

 その言葉に、力強く頷く。

「勿論だよ! 俺にできることがあるなら、何でも言ってくれ!」

 前世も死ぬ時まで一緒にいた。今世もふたりきりでこの乙女系ゲームの世界へとやってきた同志、心の友の力になれるならなんでもしようとも。

 俺は、嬉しそうに微笑む友の笑顔を、微笑ましく見て、再び頷いた。



 ──その事を、こんなに後悔するとは思わなかった。

「なん…なんで、おれが、こんなことに?!」

 綺麗な白いドレス。勿論、こちらの世界でも結婚式用だ。いわゆるウェディングドレスというものを着付けられた俺は今、祭壇の前に立っていた。

 にっこりと嬉しそうに笑う友が、涼やかな声で俺の疑問に答えをくれる。

「だって僕は単なる人間だから。竜人リリィディアの番にして貰わなくちゃ、この里に入ることすら許されないじゃないか」

 協力してくれてありがとう、と笑顔で言われて。

 確かに、その説明は聞いていたんだけど。でも。でもさ。

「それでは、新郎新婦は誓いのくちづけを」

 本当に、神(というか竜人の里では長である神竜に向かって誓うんだって)の認める夫婦になるなんて思わないじゃないか!!

「今夜から始まる蜜月が楽しみだね。知ってる? 食事も飲み物も、全部あの花の蜜から作った精力剤になって、ふたりだけで2月間ずっと一緒に過ごすんだって。僕、頑張るね!」

 ナニをガンバルつもりなのか。

 思わず白目になった俺に甘く新郎が囁く。

「愛してるよ、ユリオ。絶対に離さない」


 神への誓いを交わすくちづけは、必要以上に長くて甘かった。



次のエピローグで終わりです~


一時間ごとに続きが公開されます。

読む順番にお気を付けくださいませ。


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[気になる点] 脱字:ら 失敗したらどうしようと考えるのも、二人が会えないままだった嫌だ、
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