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4、なん…だと?



 結局、あれから俺のハイスぺ修業は続いている。

 でももう意味ないんじゃないかな、これ。

 こんな泣き言を何度言ったのか。そんなのすでに回数なんか判らない程だ。

 だって、アホ王子が阿呆じゃないんだもん。ハイスぺ王子、悔しいです。

『絶対に婚約破棄なんかしないから。よく覚えておいてね、ディア』

 あの日、昏い瞳に射抜かれるようにして殿下から受けた宣告が、胸に重い。

 思い出す度、ぎゅーっと、身も心もぎゅーっと捩られるような気がする。

 苦しくて、切なくて。泣きたくなる。

 それでも、最推しに会いたい俺が、諦めることを許さない。

 俺が最推しに会う為には、なんとしてもリリィディアたん的バッドエンド、ゲームのハピエンを回避しなくちゃいけないんだってば!


 そうして足掻きに足掻いてみたものの、まったく成果は上がらないまま今日はついに学園の入学式だった。

 すでに馬車は見覚えのある校門に着いていた。けれど、どうしてもそこから立ち上がり、足を踏み入れる勇気がでない。

 たっぷり5分は心頭滅却、前向きになる為の精神統一に費やした俺は、ようやく馬車から降りる決心がついた。

「よし。逝くわ!」

 思わず頭に浮かんだ文字が気持ちと真逆だったのは許して欲しい。

 このままでは、俺のせいで物語としてはハッピーエンド、リリィディアたんにとってはバッドエンド、俺にとっては憤死物となるエンディングを迎えることになるのは明白だ。

 どうすればいいんだ。

「そんな悲壮感たっぷりな顔をしなくても、勉強ならいくらでも僕が教えるし、ダンスだってどんな難しいステップでも踏めるようになるまで、いくらでも僕はレッスンに付き合うよ?」

 馬車の入り口に立って、俺にエスコートの手を差し伸べているのは、モチロンこの国の王太子。アホ王子の筈がハイスぺ化させてしまったキャメロン・カルヴァン殿下だ。

「…必要ありません。自分で頑張れますわ」

 ぷいっと横を向く。

 その拍子に、目の前に差し出された殿下によるエスコートの手を取らずに馬車から降りようとした俺の、華奢な靴に包まれた小さな足がステップを踏み外してバランスを崩した。

「ほら。ディアは僕がいなければ、こうして馬車から降りるのも一苦労する」

 くすくす笑われて頬が赤くなる。悔しいぃぃ。

 どうせ俺は粗忽ものだよ!!

 というか、だ。なんで俺は殿下と一緒に通学する羽目になってんでしょうね?

 今朝、結局新入生代表になれなかった自分にがっかりしながら登校の準備をしているところに、『キャメロン殿下がお越しです』と声を掛けられて吃驚した。

 昨日、公爵邸にきた時に何か忘れ物でもしていったのかと慌てて玄関まで出迎えたのに。

「おはよう、ディア。我が最愛の婚約者殿。迎えに来たよ」

 そう朝っぱらからいきなり攻撃を仕掛けられ、唖然としている内に侍女たちの手によって馬車へと押し込まれた。

 4頭立ての王宮の馬車は広くて揺れも少なく快適で、とても通学用とは思えない豪華さだ。

 その中で、やれ「今日の婚約者殿も綺麗だ」だの、「同じクラスになれるといいね」だの話し掛けられて髪や手を取られるので、「いつもと同じです」「同じクラスでないと(成績順なんだし、確実にAにいる殿下と差が開きすぎるから)困りますわね」と言ってはそこから手や髪を取り戻すのに苦労している間に、馬車はついに学園に着いてしまったのだった。

「大丈夫だよ。僕が毎朝ディアを迎えに行ってあげる」

 大丈夫じゃねぇ!! そう、直球で口に出せたらどんなに楽になれるだろう。

 でも、俺のリリィディアたんはそんな言葉を使ったりしない。しないったらしない!

 化けの皮というか張りぼて感たっぷりだろうと、俺は俺の中のリリィディアたんを裏切るような真似だけはしないことを心新たに胸に誓って、学園生活を始めるのだった。



 それからあっという間に2年以上の月日が経った。経ってしまった。

 俺は、残念ながらハイスぺとは縁遠い成績表のまま、最終学年を迎えていた。

 殿下? 相変わらずムカつくほど完璧ハイスぺ王子だ。

 ダンスも剣技といった実技も座学もすべてがパーフェクト! 傍にいるだけで超ムカつく。というよりとにかく焦る。

 しかし、今の俺にはそんなことよりもっとずっと気になることがある。

「……コリーン・クーパー男爵令嬢が、来ない件について」

 おかしい。もうとっくに編入している筈なのだ。

 そう思って、実はこっそりコリーン・クーパー男爵令嬢について調べてみたのだ。

 貴族年鑑で。

 今更だと思うだろ? 俺もだ。本当なら転生に気が付いた時点で調べてみるべきだった。思いつかなかった俺の馬鹿。んで結果。


 コリーン・クーパーなんて男爵令嬢いないんや。

 クーパーなんて男爵家ないんや!!!

 コリーン・クーパーなんて男爵令嬢いなかったんや。

 クーパーなんて男爵家なかったんや!!!


 大事な事なので似た文章ですが二回ずつ叫びました。

 …もう一度いいます。コリーン・クーパー男爵令嬢なんていなかったし、クーパーなんて名前の男爵家自体がなかった。

 そうだよね。間者が本名で活動する筈ないよね。

 ということは、デフォルトネームじゃなくて、任意で決めた名前を名乗っているのだろうか?

「んな訳ない。つか、編入してきた女生徒も男子生徒もいねーっつーの!!」

 一人壁に向かって叫んで肩で息をする。

 どうなってんだ? ここは、『竜の国が大変です!~新米間者は、そのお言葉喜んでお受けいたします~』の世界じゃなかったのかよ?!

 国の名前も、コリーン以外のキャラも全部コンプリートしてんのに。おかしいよね?!

 俺は、幼い日に日記に残したゲームの記録を確認することにした。


 乙女系育成シミュレーションゲーム『竜の国が大変です!~新米間者は、そのお言葉喜んでお受けいたします~』略して『ことよろ』は、貧乏男爵家の長女のヒロインが借金を返す為に新米間者となり学園に潜入。駄目王子と同じ学園に編入して仲良くなり立派な王太子へと育成、国を揺るがす事件に共に立ち向かうという乙女系育成シミュレーションだ。

 会話の選択で王子の好感度を上げていくのは勿論だが、出先で出会ったり、一緒に出掛けたりを積み重ね好感度を上げていく。

 そして、王子の婚約者であるリリィディアとのミニゲームの勝敗によって王子のスペックが上がったり下がったりする。そう、リリィディアとの勝負にコリーンが勝つと王子のスペックが上がり、その分リリィディアのスペックが下がる。反対にコリーンが負けると王子のスペックは下がり、その分リリィディアのスペックが上がる。だから負けられない。

 そうやって育成を続けて、卒業までに王子にリリィディアとの婚約を破棄させる決心をつけさせるのだ。

 卒業までに、好感度・スペック共に一定基準をクリアするとハピエンルートが開放され謝恩パーティの最中に王子が婚約者であるリリィディアに婚約破棄を宣言。

 王子との婚約を破棄されることでリリィディアは自身に掛けられた封印が解け、竜人としての力が使えるようになる。

 そう。リリィディアたんは、実は竜人なのだ。

 このカルヴァーン王国が竜の国と呼ばれるのは、リリィディアたんのおかあさんである竜がその胎にリリィディアたんを身籠ったまま、この国に捕らえられていたことに由来する。


 母竜はこの国で捕らえられ胎の仔ごとこの国の礎となるべく封印されていたが、ある月蝕の夜、その封印にほころびが生じる。それに気づいた母竜は自身の心臓を贄にすることで一時的に封印を破って腹の仔をこの世に生み出すのだ。自らの命を掛けて、娘に自由をと願ったのだ。

 しかし、母竜の犠牲によりこの世に生まれ出た仔竜だったが、竜としての力はまだ発現しておらず、庇護の手もなかった為にその場で捕まってしまうのだ。そうして心臓を失った母竜の代わりに新たなこの国の礎とすべく楔を掛けられる。それはこの国の王太子との婚約により結ばれ、婚姻すると共に国と国王への加護の為に封印されるべく運命づけられるものだった。


 しかし、それとは知らないキャメロンお莫迦王子の暴走により婚約破棄が為され、リリィディアは竜人としての力を取り戻すことが出来るのだ。

 リリィディアは竜の力を使い、王城の地下に”聖遺物”の名の下に安置されていた母竜を動かし、王都を壊滅せんと戦闘を仕掛ける。

 戦闘はターン性。コリーンが指揮官となって、キャメロン率いる国王軍が竜と戦うことになる。

 この時、好感度がハピエンルート開放条件ぎりぎりだとヒロインが入れるコマンドがランダムで無視される。好感度によりその確率は変動する。

 竜を倒す前に王都が破壊されるとバッドエンド。カルヴァーン王国はその名の通り竜人リリィディアが治める竜の国となる。

 王都破壊率80%以上の状態で竜を倒すとメリーバッドエンド。リリィディアの遺体は見つからず、倒した竜も光の中へと消えていき本当に倒せたのか謎とされる。焼け野原となった王都の真ん中でキャメロンはコリーンへ国の再建を誓う。

 王都破壊率79~11%の状態で竜を倒すとハッピーエンド。王都は守られ、キャメロンはコリーンに永遠の愛を誓いふたりは結婚へ。

 戦闘勝利王都破壊率10%以下でトゥルーエンド。戦闘で倒れた竜とリリィディアを光翼の神竜が現れて封印。竜を倒したコリーンを勇者と認め、世界を共に治める片翼になって欲しいと求婚。番の証を得て、空へと飛び立つ。あのネタ動画からギャグ要素を取り除いたようなハッピーエンドとなっている。

 好感度が高くてスペックが足りないと、戦闘には入れるが実際にはコマンドを入れる間もなくリリィディアたん達に全滅させられる。そうして、リリィディアたんがこの王国の女王として立つ。人間はみな奴隷だ。ちなみにこのエンディングのリリィディアたんがあまりにも神々しくも尊みが尊すぎで尊くて信者が激増したようだ。勿論、俺も拝んだ一人だ。

 好感度が足りず婚約破棄が成立しながらもリリィディアに走って逃げられてしまうと、あの伝説のバッドエンドになる。学園の講堂から走り出たリリィディアを光翼の神竜が迎えに来て番となるようリリィディアへと求婚。それを受けたリリィディアは竜人としての力を国へ見せつけ、自らの翼で番となった神竜と共に空へと飛んでいくのだ。でも俺としてはなんというかこう…リリィディアたんにはあの神竜は似合わないんじゃないかなーって。尊みが過ぎて、誰かの隣にいるリリィディアたんというのが納得できなかったんだと思う。ネタ動画でも思ったけど。あっちは笑っちゃったからなー。

 ちなみに、1ターンでリリィディア達に倒されると、光翼の神竜が降りてきてリリィディアたん達を迎えに来るイベが発生する。

 このトゥルーバッドエンディングでもネタ動画と同じ二人が番として誓いを述べるシーンがあるが、背景は殲滅され廃墟となったカルヴァーン王国だ。条件がかなり厳しく、俺はネットに上がっていた動画でしか見たことは無い。


 


一時間ごとに続きが公開されます。

読む順番にお気を付けくださいませ。



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[気になる点] 誤記:ような あのネタ動画からギャグ要素を取り除いたようやハッピーエンドとなっている。
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