表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/28

二十五話 気まずい

「……初めて、休んでしまったわ……」


 部屋に戻って少しだけ仮眠するつもりが、一人になって安心したのか深い眠りについてしまっていたらしい。気付けばアンナが部屋に入ってきていて、朝の支度を着々と進めていた。

 私が起き上がって「起こしてよかったのよ?」と言うと、アンナは笑って「お疲れのようでしたので、今日はよく休んでいただきたくて」と返してくれた。


 そのままお言葉に甘えて……今日は、書類仕事を免除してもらったのだ。仕事大好き人間の私が仕事を休みたいと申し出たものだから、リュシアン様は大層驚いていたけれど……。彼も若干気まずいのか、「また明日からよろしくお願いします。しっかり休んでください」と休む許可をくれた。

 本当は、リュシアン様と顔を合わさるのが気まずいだけだというのに……。


 情けないな、と思う。こんなことで多方面に迷惑をかけて……。かといって誰かに相談するような勇気もないし、そもそも相談できるような相手もいない。端的に言うと、友人がいないのだ。

 フローレンス伯爵家にいた時は家に閉じ込められていたようなものだし、ベルフォール侯爵家にいた時は領地経営に夢中で社交が疎かになっていた。あの時はそれでもいい、アルフレッド様がいれば友人なんていらないと思っていたけれど……。まさか、こんな風に心細さを感じる日が来るなんて思っていなかった。


「……暇だわ…………」


 気まずさから仕事を休んだのは私だけれど、かといって何もすることがないと、こんなにも時間の経過が遅く感じるとは。

 それに、じっとしている方が、余計なことを考えてしまう。


 ……こうなったらもう、散歩でもしようかしら。公爵邸内じゃなくて、公爵領を。どちらにせよ領地経営を任されている身としては、一度領地をちゃんと見て回ろうと思っていたし……。

 うん、それがいいわ。そうと決まれば……。


 ***


「奥様がお一人で、領地を偵察……ですか?」

「えぇ、ダメかしら?」

「はい、ダメですね」

「……どうしても?」

「はい」


 まさに一刀両断とはこのことか。アンナは穏やかな笑顔で、バッサリと言い放った。


「奥様は公爵夫人なのですよ? いくら領地内とはいえ、お一人で行動させるわけにはいきません」

「そ、それは……そうなのだけれど、公爵夫人として領地を偵察するのも大切じゃない?」

「護衛をつけるのでしたら構いませんが……」

「……偵察だから、公爵夫人だとバレないようにお忍びで行きたいのよ。その方が自然な領民の姿が見られるし……」


 私がぽつりとそう告げると、アンナは困ったように眉を下げながら、「……昼食まで、ですよ。それと、護衛の代わりに私も同行します。私が譲歩できるのはそこまでです」と話した。


「アンナ! ありがとう!」

「奥様ったら、頑固なんですから……。では、変装の準備をいたしますよ。私の服をお貸ししますから、少々お待ちください」

「えぇ、助かるわ。私はドレスしか持っていないから……」

「では、失礼します」


 そう言って、アンナが退出した。




 私はさっきまでの憂鬱はどこへやら、初めての領地偵察に心が弾んでいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ