死のルート2
少しだけ扉を開けると、クリスは断りもなく室内へ入ってきた。 常識のない行動には思わず眉をひそめる。
「ごめんよ。話を聞きたくて・・・」
クリスは悲しそうな目で私を見つめた。
髪は短いがミアと同じ金髪パーマのクリスは背が高くモデルのような見た目をしていた。
ジャックのように筋肉質な体型ではなく、全体的に細身ですらっとしている。
「ミアがまだ帰ってこないんだ」
「・・・そう、ですか」
クリスの声には力がなく、長い間ミアのことを心配している様子が見て取れる。
ミアのことを私に聞きたくなる気持ちは分かるが真実を話すつもりはない。
「ミアはどこかなぁ?君は友達だよね?どうして・・・普通に過ごしているんだい?」
「――友達じゃ、ないです」
ミアと私が友達? クリスはミアが私にしてきたことを知らないのだろうが、勘違いも甚だしい。
もしここでいじめのことを伝えたらミアに代わって謝罪してくれるのだろうか。
「僕の可愛い妹が帰ってこないんだよぉ。うっ、うわぁぁ、ミアぁぁぁ・・・」
「・・・・・・」
クリスは床に肘を付き泣き出してしまった。
「これだけ探してるのに何故見つからないんだよぉぉぉ・・・」
「・・・・・・」
何も言葉が出てこない――。
これはミアが自分で蒔いた種だ。 私に悲しみや不満をぶつけられても困る。
「何か知ってるんだろぉ!!?」
「――っ」
床に肘を付いて嘆いていたクリスは突然立ち上がると私の肩を掴み、強く揺さぶった。
ミアとどの辺ではぐれたのか、何故ミアを探しに戻ってくれなかったのか、ミアは今も苦しんでいる、ミアに会わせてくれと泣きながら言葉を吐き続けた。
被害妄想が強く、身勝手な兄だ。
確かに残された家族にとったら心配で気が気じゃないだろう。
残酷だけどミアはすでにジャックに殺されているし、私はその死を哀れんだことは一度もない。
だからクリスには何も伝えることができない。
「本当に分かりません」
こう答えるしかないのだ。
どうしてミアに散々苦しめられてきた私が責められなきゃいけないのか。
キラーハウスに行くと言い出したのはミアだ。 アイビーとソフィアの死も実際ミアの責任だと思う。
帰ってこないからと言って私を疑うなんて、こいつどういう神経してるの?
やっぱり兄妹揃ってイカれてる。
「何でだよ!!!何でお前みたいな弱者が!!!ぁぁあああああ!!!!」
クリスは突然、狂気に駆られたかのように叫び出した。
「何で!何で!何で!!!」
感情が抑え切れなくなって大声を出し続けるクリスに“ただならぬ恐怖”を感じた。
目の焦点が合っていないクリスは、完全に自分自身をコントロールできなくなっている。
人殺しのジャックを見てもこんな恐怖に襲われたことはなかった。 ジャックには常に“意思”があったから。
「うわぁああああああ!!!!!」
クリスは私の部屋に勝手に侵入すると、本棚をなぎ直し、テーブルを蹴り飛ばし、部屋中のあらゆるものを壊して暴れ回った。
その様子はただただ異常で、私は静かに後退りすることしかできなかった。
“逃げなきゃ” 本能がそう言っている。
「ミア、ミア、ミアぁああ!!!!返せ返せ返せ返せ!!返せ返せ返せ返せ!!!!!」
逃げなきゃ、⸺⸺殺されるかも。
「死んじゃったのかなぁ!?」
突然動きを止めたクリスは私をぎろりと私を睨み付けた。
“殺気”を感じ取った私は玄関へ向かって走り出す。
(――終わったかも)
クリスは瞬時にカバンから何かを取り出し、不気味に笑みを浮かべた。
「ハハッ!死ねぇえええ!!!!弱者ぁあああああ!!!!!」
⸺⸺ パァンッ!!
銃声と同時にその場に倒れ込む私。
背中から流れ出る大量の血。あっという間に床は真っ赤に染まっていた。
「――っあぁぁあああ!!!!うそだろ!!?俺!?俺がやったの!!!?」
クリスは「やばい、やばい」と頭を抑えながら気が狂ったように大声を出して騒いでいる。
息の根が止まる数秒前⸺⸺―。
朦朧とする意識の中で頭をよぎったのは猫のジャックと吸血鬼のジャックだった。
前はずっと死んでもいいって思ってたけどやり直しが許された人生では友達に会うために“生きたい”と、そう思えたのに。
こうも呆気なく終わるなんて・・・
撃たれてから約10分、アパートの住人による通報でパトカーが到着した頃には私はすでに死んでいた―――。
ミアの兄、クリスによって射殺されたのだ。




