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血と、薬物と、香水と ②



 一方的な殺戮だった。


 何十人いただろうか。

 それなりに大きい拠点だったらしい。

 

 だが、特定災害級魔獣(モンスター)すら殺す存在に、ただの人間が太刀打ち出来る筈もない。


 ある者は勇猛果敢に挑みかかってきた。

 ある者は脇目も振らず逃げ出そうとした。


 結果は同じだ。

 俺は全員を切り殺した。




 邪魔者がいなくなったところで、女性を助けに向かう。


(この部屋か)


 扉を開け、女性を視認した、その瞬間。

 俺は心臓が止まったかのように錯覚した。


 その女性は、あまりにも美しかった。


 見る前から、スキルで彼女の存在は感じていた。

 産毛の一本一本まで、完璧に。

 それでも、実際に目で見る印象はまた違うらしい。

 俺はこの時、始めてそれを知った。


 見た目はごく若い。まだ十代かもしれない。

 美しい薄桃色の髪は緩やかにウェーブしている。

 吸い込まれそうになる空色の瞳。

 ドレスの上からでもわかる、健康的に引き締まった肢体。

 しかし、胸部と臀部は豊満であり……。


 彼女が声をあげなければ、俺は何時間でも見惚れていたかもしれない。


「んんん〜!」 


「これは失礼。今、外します」


 猿轡と手足を縛る縄を取ってやると、彼女は鈴の転がるような声で言う。


「私はメアリ・マーネ。マーネ商会の一人娘よ。助けてくれてありがとう、男前の盗賊シーフさん。ここに助けに来れるなんて、凄腕なのね」


「まあね。俺はキバ。多分、人類最強だ」


「ふふふっ、何それ」


 おどけた俺の答えは、彼女に気に入ってもらえたらしい。


 メアリは続けて言う。


「そうそう、助けに来てくれたんだから、何かお礼を差し上げなければね。あなたは……」


 妖艶な微笑み。

 潤んだ瞳。

 匂う。

 彼女の全身から。

 

「何を望みますか?」


 発情した獣の香りが。


 ――唇が重なる。





   ✳︎ ✳︎ ✳︎





 色々と用事を済ませ、数日ぶりにギルドに顔を出す。

 丁度良いことにギルドマスターがフロアにいるタイミングだった。


「おお、キバくん! 良いタイミングだ。今、査定結果が出たところだよ!」


「それは良かった。じゃあ、間に合いそうですね」


「間に合う?」


「次の長距離馬車にですよ。引退して、南部に移住するんです」


「なんだって!?」


 そう反応するのも無理はない。

 ギルドマスターにとっては寝耳に水だろう。


「南部って……しかしあっちは何もない田舎町だろ?」


「それが良いんですよ。スローライフって奴です」


「今回の報酬があるから金には困らんだろうが……。しかし、せっかく覚醒して、ようやく皆にも君の実力を認めさせられるというのに」


 ギルドマスターも俺のことを思って言ってくれているのだろう。悪い気はしない。

 でも、これは最初から決めていたことだ。


「本当に何か俺の力が必要な事件があれば、いつでも呼んでください」


「いや、こっちのことはこっちでなんとかするさ。キバくんばかりに頼ってもいられない」


「まあ、そうそう大きな事件なんて起きませんしね」


 今回のアトラク=ナクア出現が異例中の異例なのだ。


「そうか、引退か……キバくんがいなくなると寂しくなるな」


「そう言っていただけるだけでも、嬉しいですよ」


 にこやかに応じるも、ギルマスの表情は晴れない。


「しかし、私は君に迷惑をかけっぱなしだった。結局、アンドリュー達の件も進展がないし……」


「ああ、その件ですか」


 それこそ、ギルドマスターが気にするまでもない事だ。


 自分で言うのもなんだが、アンドリュー達は探索で俺に頼っている部分が大きかった。

 もちろん、彼らにはその自覚もないだろうが。

 ましてや、慣れない異国の地での探索だ。

 到底うまくいっているとは思えない。


「ま、そっちはなんとでもなりますよ」

 

 ニッ、と笑って俺はそう答えた。


次回予告:待望の『ざまぁ!』回です!!! 果たしてアンドリュー達はどうなっているのか?


ここまで読んで頂きありがとうございます!


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★★★こちらの作品も是非ご一読ください★★★

クズの異界流儀
― 新着の感想 ―
[一言] 裏があるのかと思った(笑) 淫乱なだけ?
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