アンドリュー達の没落
「一体どうなってやがるんだ!?」
異国の地、とあるダンジョン。
アンドリューの怒鳴り声がこだまする。
キバを追放し、囮としてダンジョンに置き去りにした後のアンドリュー達の行動は素早かった。
さっさとダンジョンを脱出すると、ギルドに直行。
キバの死亡報告をし、やる気のない受付嬢を買収。
パーティー預金をキバの取り分まで残らず下ろし、前から目をつけていた隣国のダンジョン都市へ移動。
晴れて第二の冒険者人生を開始した。
だが、順調なのはそこまでだった。
いざダンジョン探索を始めると、思いもかけない問題が続発したのだ。
まず、探索に必要不可欠な物資の準備すらろくに出来ていなかった。
「おいっ、なんでもう飲料水が無いんだよ!?」
「ひっ、し、知らないよ俺は! 水の用意はキバが……あ」
「あ。っじゃねーだろボケが! キバは追放したんだからお前が用意しとけ!」
「で、でもどのくらい必要かとか分かんないし……」
「ああっ!?」
「ヒイイっ!」
(くそっ、使えねえバカどもめ……!)
僧侶と魔術師はアンドリューに従うしか能の無いバカだ。
腰巾着としては良いが、いざ何かをやらせようとすると無能っぷりを遺憾なく発揮する。
だが、一番問題のあるメンバーはミルティだ。
「ねえ〜、そろそろ休みません? 私、なんだか疲れてしまいましたわ」
「そ、そうだよね〜、ミルティちゃん。でも、まだ少ししか進んで無いからさ……」
「ええ〜!? まだやるんですか? はあ〜」
(ミルティちゃんも何故かやる気がないし……くそ、なんなんだ)
アンドリューにはわかっていないが、ミルティが疲れやすくなっているのはやる気だけの問題では無い。
キバがいる頃には、負荷を減らすための工夫を行っていた。
マッピングは手際よく、効率的に。
さり気なく、疲れにくいように探索ペースをコントロール。
これらがなくなる効果は、意外と大きい。
それに加えて、慣れない新しいダンジョンでの探索による緊張。
だが、一番大きいのは……索敵の負担が増している事だ。
「ヒイイ! また、後ろから魔獣が来てるよお!」
「くそっ! 俺がそっちに回る! ミルティちゃん!」
「はいはい、【気配察知】! 後方から数5!」
(もう目視で見える距離じゃねえか、なんのための【気配察知】だ!)
決して声には出さないが、ミルティへの不満は募る。
だが、これもアンドリューの感覚スキルに関する知識不足が原因だ。
そもそも、感覚スキルは発動・維持に多大な精神力を必要とする。
多く発動する、あるいは長時間維持するには鍛錬が不可欠だ。
鍛錬を重ね、【嗅覚強化】をほとんど常時発動できるようになっていたキバはむしろ異常だ。
多くの冒険者は経験を積み、必要なタイミングを見極めて限定的に使用している。
年若く、経験が浅いミルティには鍛錬も、経験も足りていなかった。
一行はギスギスした雰囲気の中、体力的にも精神的にも激しく消耗しながらもなんとか探索を続けていく。
問題は他にも起こった。
例えば魔物への奇襲が成功しない。
キバがいる時には、風下からの襲撃時にだけ奇襲を狙っていた。
風上から狙えば、当然臭いで気付かれる。
アンドリュー達はそれがわからず、たびたび返り討ちで酷い目にあった。
例えば宝箱を開錠して開けられない。
「罠解除なんてしなくて良い、何かあっても回復すれば問題ない」
そんなアンドリューの浅い考えも、そもそも開けられないのでは意味をなさなかった。
なんとか力任せで開けようとしたが、時間を浪費しただけだ。
ダンジョンの宝箱は通常破壊できない。
そんな基本的な事も彼は忘れ去っていた。
どう考えても、盗賊の技能は必須だった。
例えば戦闘中、ミルティや魔術師への被弾が多い。
キバは力こそあまりなかった。
しかし投げナイフでの牽制や、ヘイトを稼いで攻撃を回避する事で、後衛への被弾を減らしていた。
そして極め付けは……。
「どうなってるんだ……なぜ!」
ミルティが【気配察知】で敵がいないことを確認したはずの部屋。
しかし実際に入ってみると……。
「なぜこんなに魔獣がいるんだ……!」
そこには十体以上の蛇型魔獣が蠢いていた。
アンドリュー達は知らない。
その魔獣が【気配減少】の特性を持つことを。
完全に気配を無くす【気配遮断】に対して、【気配減少】は気配を感じにくくさせるだけだ。
ミルティがそれほど疲れてなければ、あるいはもっと注意深く気配を探れば。
弱まっているとはいえ、魔獣の気配に気付けたかもしれない。
いや、そもそも。
アンドリュー達が事前にこのダンジョンの魔獣の事を調べていれば。
そんな冒険者として基本の行動を取っていれば。
【気配減少】の特性持ちがいることを知って、警戒できただろう。
彼らは、一度【気配遮断】持ちに遭遇しているにも関わらず、一切反省していなかった。
(くそ、なぜ上手くいかない! どうしてこうなるんだ!)
アンドリューは知らない。
自分自身が、一番の無能であることを。
「くっそがああああああああああああ!」
「蛇は嫌あああああああああああああ!」
ダンジョンにアンドリューとミルティの悲鳴がこだまする。
彼らはその後も上手くいかない探索を何度も繰り返し、心身ともに疲弊していく。
探索は全く進まず、赤字続き。冒険者ランクを上げることなど夢のまた夢。
ーー彼らは順調に没落していった。
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