ドラゴンと
「熱いのだ」
シグがリンゴを齧りながら砂漠を歩く。
照りつける太陽。
白く輝く砂の海。
黒づくめの教団が居ると言うのはこの先にあると言う古代遺跡……。
眩しさに目を細めたそんな時、俺たちは巨大な影に包まれた。
見上げる、
そして絶句した。
「お、お父さんなのだ!」
シグがリンゴを齧るのを止め叫ぶ。
震える手足。それも仕方が無い。
絶句するジュリア。これも仕方が無い。
油断無く魔術師の杖を構えるファラエルさん。さすが自称熟練冒険者。
全ては仕方なし。
なにせ、巨大な黄金のドラゴンが砂丘に降り立って、俺たちの目の前に堂々とその姿を晒していたのだ!!
「その声、その姿はシグルデか?」
「そうなのだー!」
「少年よ。ふむ、<<竜殺し>>の仇敵よ。娘が世話になっているようだな」
「お父さんお父さん! 今までどこに行っていたのだ!? お母さんは!? 吾は寂しかったのだー!」
「シグルデよ。立派になったな。騎士を見つけたのだな、お前も。それに仲間にも恵まれているようだ」
「そうなのだー! 吾は立派になったのだ! 褒めて欲しいのだお父さん!」
どうする?
いや、このドラゴンは敵じゃない。
俺の<<竜殺し>>のスキルの出番は無いはず。
だけど、この体の震えは何だ? どうしてこのドラゴンに恐怖する!?
竜王クラスの化け物だから?
いや、何かが違う……・
「シグちゃん、お父さんに会えてよかったね。一人じゃなかったのね」
「シグルデちゃん……そう、孤独に耐えかねてアレフに甘えていたのね……」
「まぁ、シグ、良かったなお父さんに会えて」
俺の胸に乾いた風が流れ込む。
ちょっとだけ、ちょっとだけだけど何だか寂しいかな。
シグは俺より、お父さんと一緒がいいのか。
仕方ないよな、仕方ない。
だって、シグは見た目どおりのお子ちゃまなのだから。寂しくなかった訳が無い。
「少年。これも掟だ。その力、試させてもらう!」
と、現れるのは黒づくめの一団!
ギラリとひかるは俺の持っている剣と同じもの……こいつら、竜の教団!!
「ジュリア! ファラエルさん! 戦闘態勢!!」
「え?」
「ボケているんじゃないジュリア! こいつら敵だ!」
「そうよジュリアちゃん! ここは砂漠! あたしの氷の魔術の腕が冴え渡るのよ!!」
「ファラエルさん!?」
「砂丘を駈け降りてくる前に先制攻撃あるのみ! 氷よ! アイスブリザード!!」
一団の片翼が一瞬で凍りつく。
しかし敵はひるまない。俺は剣を抜き放ち、両手を広げて敵を引き付ける。
「抜かせるか!」
俺の刃がギラリと光る。
敵の刃もギラリと光る。
唸れ、俺の<<剣士>>スキル!
俺は先頭の男に切りかかる。
肩口に消える俺の剣先。
敵の刃が遅い来る。
背を逸らしてかわすと勢いそのまま巻き打ち!
「ぎゃ!」
クリーンヒット!
敵は悲鳴を上げて倒れ伏す。
しかしこちらは多勢に無勢、唸る氷の魔術にシグの突撃、それでも敵は一向に減らない。
「やめよ。この少年、見所がある。我が自ら相手をしよう」
と炎のブレスを明後日の方向に噴出し威嚇するお父さん。
つ、強そうだ……しかし俺は<<竜殺し>>シグの騎士に相応しい姿を見せてやる!
撤退する黒ずくめの連中をよそに、俺は剣を握り直す。
と、風を切る音、俺たちを大きく覆う影一つ!
視線を上げる。そこには──。
「お母さん!」
シグが叫ぶ。
親子の対面再び。
そこには黄金のドラゴンにひけを取らないほどの、巨大なレッドドラゴンの姿があった。
「シグルデ……立派になって。じゃあ、勝負よ! 掟に従って勝負なさい!!」
◇
黄金のドラゴンと赤いドラゴンと対峙する。
見えない風が吹き荒れる。
乾いた風が俺の頬を嬲り行く。
スキル<<竜殺し>>!
どこまで通じる?
ブルードラゴンのように余裕で行くのか?
こいつらはただのドラゴンじゃない。
竜人族。シグの両親。
俺の力、その全てを見せるとき!
俺の強さを認めさせる!
絶対に、絶対にだ!
俺はシグが認めた騎士なのだから!!
「ゴールデンドラゴンにレッドドラゴン……同時に相手にするにはちょっと……いえ、一匹でも手に余る……」
「大丈夫! だってこちらにはアレフがいるもの! 私の英雄、私の<<竜殺し>>のアレフが!!」
「ジュリアちゃん……覚悟して。アレフ君が少しでも傷付いたなら、即座に回復よ? シグちゃんのご両親とはいえ、手を抜いてくれるとは思えない!」
「わかってる、ファラエルさん! ファラエルさんも気をつけて!」
「ありがとう。ジュリアちゃん? ジュリアちゃんはいつも優しいわ」




