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たびだち

「アレフー、アレフ~? (われ)は暇だぞ、相手をしろ~!」


 シグがリンゴを齧りながら吼える。


「はいはい。シグルデちゃんは寂しいのよね? ここのところアレフ君がシグちゃんを構ってあげていないから」

「う~う~! アーレーフー!」

「はいシグ。リンゴ」

「おおお! ありがとうなのだアレフ! さすがは吾の騎士! 察しが良いな!! ……うんまうんま」

「なぁ、ファラエルさん。王都でやり残した事ってあるか?」

「やり残した事?」

「たとえば気に入らない炎の魔術師の中で、まだ苛め足りない人がいるとかいないとか」

「失礼ねアレフ君。アレフ君はあたしの事を一体なんだと思ってるの?」

「じゃあ、特に王都にこだわる理由は無い?」

「え? どういう意味?」

「みんなで旅に出ようと思って。ジュリアとも話していたんだ」

「そうなんです。ファラエルさん。私、教会から宣教許可証をもらえました。そろそろ旅に出ませんか?」

「おおお? 王都にバイバイなのか!?」

「そうよ、シグちゃん。旅の途中で他の竜人族に会えると良いね!」

「他の……竜人族?」


 シグはその大きな目をパチクリ。


「そう、シグルデちゃんのお仲間を探しに行こうって言うのね。わかったわ! 行きましょう! あたしの氷の魔術が必ず役に立つわ!!」


 ファラエルさん……ありがとう!


 ◇


 ガンラガンラ、ゴンロゴンロ。パカラパカラ……。


「アレフー」

「なんだよシグ」

「今回は馬車なのかー? どこに向かうんだ?」

「今回だけじゃないよ。これからずっと馬車で旅をするんだ」

「そうなのか?」

「冒険者ギルドで聞いたんだ。噂なんだけど、西のほうでドラゴンを見かけたって話を聞いた。だからとりあえず西に行ってみようと思うんだけど」

「そうか! 西……西なぁ……」

「シグは西に何があるか知ってるか?」

「知らないのだ!」

「いや、あの……威張って言われても……あの、ファラエルさんは知ってます? 西に何があるか」

「え? 地理? 西……荒地を抜けると草原があるわね。その草原の先には砂漠があるそうよ?」

「砂漠? 砂漠ってなんなのだ? ファラエル」

「砂の海よ、シグルデちゃん。もちろん、砂漠に着く前までには幾つも街があるわ」

「へー。凄いですねファラエルさん。さすが何でも知ってる!」

「そうよジュリアちゃん。あたしはこれでも実力派の魔術師だからね、賢者のたしなみもあるのよ?」

「凄い凄い!」

「ふふふ。褒めても何も出ないわよ、ジュリアちゃん」

「あの、ファラエルさん。西の人々って女神ライア様を崇めているんですか?」

「うーん、違う神様だったような気がするわね。特に砂漠の人たちは女神ライアとは違う神様を崇めているはずよ?」

「そうなんだ! よーし、宣教師としてやる気が出てきましたよファラエルさん!」

「そう。でもジュリアちゃん、頑張り過ぎないようにね。無理強いはダメよ?」

「もちろん! よーし、やるぞ!」

「なんだかジュリアのそんな顔、久しぶりに見るよ」

「なによアレフ」

「いや、ジュリア元気だなーって」

「もう! 変なの!」


 ◇


 宿場村に着いた。


「この村のリンゴも美味いのだー!」

「良かったね、シグちゃん」


 と、シチューを口に運びながらジュリア。


「この土地にはまだ正しき信仰が根付いているわ。偉大なる女神ライア様への真摯な思い……全人類が正しき神を信仰することになれば、この世からありとあらゆる争いがなくなるのよ。ねぇ、素晴らしい事だと思わない? ね、アレフ!?」

「えっ、え!?」


 いや待てそれジュリア。


「待ってジュリアちゃん。世の中には色々な考え方があるわ。それをお互いに知り、認め合い『そうなんだ』と知ることこそ大事じゃない?」


 はち切れんばかりの胸を張って答えるファラエルさん。


「ファラエルさん、そうですか? でも女神ライア様の教えはどれも素晴らしいものばかりですよ?」

「まぁ、そうなんでしょうけど。それでもね、自分の考えばかりを無理に相手に押し付けてはダメよ? あ、言っておくけど炎の魔術より氷の魔術のほうが真理に近いから」


 あの、その、いきなり説得力が無くなったんだけどファラエルさん!?


「なーなー、ジュリアは邪神ライアの助けがしたいのか?」

「邪神じゃないわよシグちゃん! 女神ライア様は優しい神様! 邪神じゃないから!」

「むー……そうかぁ?」

「女神ライア様に祈ればね、誰でも心清らかな気持ちになれるの! <<祝福(ブレス)>>!!」


 ジュリアの背中から白い後光が広がる。

 暖かい何かに包まれるような、誰かの胸に抱かれるような、そんな優しい感覚……。

 俺を照らし出す清らかな光。

 心の芯から温まるようなこの気持ち。

 嘘じゃない。これは嘘でもなんでもない。

 ああ俺って今、凄く幸せ……。


「ほら! アレフを見て! あの清々しい笑顔! これこそが慈悲深き女神ライア様の力よ!」


 声を大きくしてジュリアが何か言っている。


「……アレフ君はジュリアちゃんの魔術に掛かっているだけなんじゃないのかしら?」

「あ! 邪神のまやかしにアレフが引っかかったのだ!」


 だけど、他の二人には不評のようだった。

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