りゅうごろしのうわさ
「運動の後のリンゴは最高だな! うんまうんま」
シグがリンゴを齧りつつ。
「運動って踊りの事か!? そうなのかシグ!」
「そうよシグちゃん! シグちゃんはあんな目に合わされて悔しくないの!?」
「あの蛇はもう食べたのだ……蒲焼美味かったのだー!」
「え!? さっきの肉ってもしかして!?」
「ええ。あたしが料理長にお願いしてさばいてもらったお肉だけど……どう? 美味しかったでしょ!?」
「「……」」
「ま、まさか本当にさっきのお肉……」
「ええ、そうよ察しがいいわねジュリアちゃん。今のお肉は昼間の蛇のお肉よ?」
「なのだー!」
「ねー、美味しかったわよね、シグルデちゃん?」
「おー!」
◇
「アレフに任せておくと、どんな変な仕事取ってくるかわかったものじゃないからね! 今日は私が教会でお仕事を貰ってきたの。ライア教会に祈りや治療に来るお客さんの子どもの子守の仕事よ?」
「なんだそれ。冒険者の仕事じゃないぞ」
「大丈夫よ! 噂の『竜殺し』がお話をする、と言ったら直ぐにOKが出たの。アレフってもう一人前、いえ、一流の冒険者として名前が売れてるの! ホント凄いよね。これもあのエリフキンさんが歌を広めたからかな?」
おおお、おう。
知らないうちに無能、役立たずから英雄扱い……そう言えばこの前のスリのガキもそんな事を言ってたっけ。
「ねぇ凄いよね! アレフの名前出したら一発でOKが出たのよ!?」
俺って実は、有名人?
◇
で。
目の前にある白く大きく立派な建物はライア教会。
王都の中央を流れる川の川岸にある、立派な教会だ。
「みんなー。この『竜殺し』のお兄ちゃんが遊んでくれるわよ!?」
「え?『竜殺し』」
「本物の冒険者だー!」
「オレオレ、大きくなったら冒険者になるんだー」
「あたしもあたしも!」
「じゃぁアレフ。私、行ってくるね?」
「ちょっと待てよジュリア?」
「わー、お兄ちゃんお兄ちゃん、遊んで遊んで!?」
「え!? えっ!?」
たちまち子どもに囲まれる俺。
「私、教会の中で神聖魔術を使ったお手伝いをしてくる! アレフたちはここで子どもたちと遊んでいてね!」
「ジュリア、またなー」
「うん、シグルデちゃん!」
「なー、アレフ。リンゴをくれ」
「なぁなぁ、『竜殺し』の兄ちゃん遊ぼ?」
「アレフー。リンゴリンゴ」
こ、子どもしか居ねぇ……。
「よーし『竜殺し』! オレと勝負だ!」
棒を持った子どもが俺に向かってくる。
一人向かってくると、みんなが棒を持って向かってきて……。
うぉお、何だこれは何なんだ!?
俺はもみくちゃにされてポカポカ棒で殴られて。
「おいシグ! 何とかしてくれよ!?」
「アレフがリンゴをくれない……リンゴをアレフがくれない……うわぁ、うわああああああああああああん!!」
「ちょ!? 子どもが増えたーーーーーーー!?」
「子どもじゃない! 吾を子ども扱いするなぁーーーーーーー!」
「ぅわあああああああああん、リンゴ、リンゴォぉぉ!」
「シグ!? 泣いてないで俺を助けろよ……って、叩くな引っかくな!」
「それ、『竜殺し』をやっつけろー!」
「「「おーーーー」」」
「止めてマジ止めて!? 良い子のみんな、ちょっとは手加減しような!?」
俺は手を挙げ足を挙げ……そう、もはや子どもの波に押されて立っていられない。
「あと一息だぞー! さぁ『竜殺し』をやっつけろー!」
「「「おーーーー!!」」」
「ちょっと、この……!」
俺は軽く身を捩る。
だけどこれがいけなかった。
「うわぁ!?」
ぼちゃーん!
「あ! リーフが落ちた! 川に落ちた!!」
「ちょ!?」
どうする!?
いや、どうするじゃない。
今も浮き沈みする子どもの手。助けなきゃ!
俺は剣を鞘ごと引き抜くと投げ捨てる。
そして迷わず飛び込んだ。
一掻き、二掻き……!
子どもまで、あと少し……!!
急げ、バシャバシャともがく子どもが沈みかけてる!
溺れてるんだ、きっと!!
手を伸ばす。
子ども、リーフが俺の体にすがり付いてくる。
凄い力。
俺の体は動かない。
そこに川の中から巨大な口が!
な、こんな時に化け物!?
リーフは暴れる。
俺はもがく。もがいてもがいて……
「アレフ、リンゴぉおおおお!」
何がリンゴだシグ、こんな時に!
蹴る!
化け物を蹴る!!
蹴りに蹴る。手応えと、重なる手応え。
だが、迫る口どんどん近づいてくる。
口が迫る、そこまで迫る!
「アレフ! これを使うのだ! さっさと倒して吾にリンゴを持って来い!!」
きらりと光る鋼の光。
それは俺の剣だった。
剣を掴む。そして迷い無く切りつける。
血飛沫が舞った。
「「「「おおおおーーーーー!」」」」
岸辺で見守る子ども達の声が重なる。
バシャーン! バシャバシャバシャ……。
怪物の口が閉じる。そして浮かび上がるのは巨大な魚。
「凄ぇ竜殺し! さすが竜殺しのアレフ!!」
「「「アレフーーーーー!!!」」」
ふぅ。
子どもたちがワイワイ騒ぐ中、俺は泣きじゃくるリーフの頭を撫でながら深く深く溜息をついた。




